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第一章
5:あんた、手間がかかるな。金を払うのはこっちだっていうのに
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彼方は離れていく後ろ姿を、雪の中に座り込んだままで黙って見ていた。
ジンは振り返らなくても彼方が付いてこないのが分かっているのか、苛立ったように紙袋を荷台に投げ入れる。
ガンッという激しい音が人気のないロータリーに響いた。
ジンは運転席の扉を開けると、そこから助手席に彼方の荷物を投げ入れて、またこちらに戻ってきた。
「あんた、手間がかかるな。金を払うのはこっちだっていうのに」
ジンは彼方の腕を掴んで無理やり立ち上がらせると、頭に積もった雪を払い始めた。
「身構えんなって」
警戒しすぎなのは分かっている。
でも、相手は自分よりニ十センチ近く上背があり、身体の厚みもありそうだ。
何よりも今夜の相手なのだ。
次は、肩や背中の雪を払われた。
それでも間に合わないほど雪は酷くなり始め、風も出始めた。
寒くて身体が痛い。
筋肉、関節、全部が痛かった。
止めようにも震えはひどくなるばかりで、それを見たジンがダウンジャケットを脱いで肩にかけてくれた。
「着とけ。仕事着とは分けてるけど、獣臭かったら悪い」
獣?
ジンが車に向かって歩き出したので、彼方もそれに従った。
助手席に乗り込むと、ヒーターが効いていて温かい。
ジンがエンジンをかけ、車を走らせ始める。
彼方はリュックを抱きしめながら黙っていると、やがて鼻が慣れてきて車内の独特の匂いを感じた。
煙草では無い。血のような匂いだ。
そういえば、さっき、獣がどうのって。
「家までは十五分。雪の山道の経験はあるか?結構揺れる」
彼方は黙って首を振った。
まるで闇に吸い込まれるようなドライブだった。
駅を離れるとすぐに民家は無くなり、山を切り開いて作った道を軽トラックは進み始める。
山の中に入っているはずなのに、上がったり下がったり。
もうどこをどう走っているのか分からない。
ここで殺人事件が起こっても、なかなか遺体は発見できないだろうなあと彼方はぼんやり思った。
今夜の凍死は免れたが、その先はジンの機嫌次第だ。
「あのさあ、いい加減、何か喋れよ」
嫌な沈黙が続くなと思っていたが、それはジンも同じだったようだ。
彼方に自分が着ていたダウンジャケットを渡したので、カットーソー一枚の姿でハンドルを握っていて、不機嫌そうにフロントガラスの先を見ている。
「あり……がと。迎えに来てくれて」
「おう」
会話が終わってしまった。
「あんた、会話下手だね。コミュ障って自覚ある俺でも、もうちょっとこういう状況なら話を頑張るけど」
「……ごめん」
「腹、減ってる?変わった肉ならたくさんあるけど」
「残しちゃうだろうから、いい」
「あのさあ、変わった肉って何?って質問するとか、話の広げ方ってもんがあるよな?俺、ロクに話もせずにやるとか嫌なんだけど」
やる。
赤裸々であからさまな表現だ。
彼方はそっちの言葉に気をとられ、まともにジンの顔が見られない。
「か、変わった肉って?」
「オウム返しか。鹿と、猪とか、たまに熊とか。俗に言う獣肉ってやつ」
「……そうなんだ」
「反応薄っ。あんたのやる気は、金にしか発揮されないんだな。よく分かった」
車はそこから約二十分後に止まった。
フロントガラスが真っ白になるほどの雪で、かなりのノロノロ運転だったのだ。
ジンは振り返らなくても彼方が付いてこないのが分かっているのか、苛立ったように紙袋を荷台に投げ入れる。
ガンッという激しい音が人気のないロータリーに響いた。
ジンは運転席の扉を開けると、そこから助手席に彼方の荷物を投げ入れて、またこちらに戻ってきた。
「あんた、手間がかかるな。金を払うのはこっちだっていうのに」
ジンは彼方の腕を掴んで無理やり立ち上がらせると、頭に積もった雪を払い始めた。
「身構えんなって」
警戒しすぎなのは分かっている。
でも、相手は自分よりニ十センチ近く上背があり、身体の厚みもありそうだ。
何よりも今夜の相手なのだ。
次は、肩や背中の雪を払われた。
それでも間に合わないほど雪は酷くなり始め、風も出始めた。
寒くて身体が痛い。
筋肉、関節、全部が痛かった。
止めようにも震えはひどくなるばかりで、それを見たジンがダウンジャケットを脱いで肩にかけてくれた。
「着とけ。仕事着とは分けてるけど、獣臭かったら悪い」
獣?
ジンが車に向かって歩き出したので、彼方もそれに従った。
助手席に乗り込むと、ヒーターが効いていて温かい。
ジンがエンジンをかけ、車を走らせ始める。
彼方はリュックを抱きしめながら黙っていると、やがて鼻が慣れてきて車内の独特の匂いを感じた。
煙草では無い。血のような匂いだ。
そういえば、さっき、獣がどうのって。
「家までは十五分。雪の山道の経験はあるか?結構揺れる」
彼方は黙って首を振った。
まるで闇に吸い込まれるようなドライブだった。
駅を離れるとすぐに民家は無くなり、山を切り開いて作った道を軽トラックは進み始める。
山の中に入っているはずなのに、上がったり下がったり。
もうどこをどう走っているのか分からない。
ここで殺人事件が起こっても、なかなか遺体は発見できないだろうなあと彼方はぼんやり思った。
今夜の凍死は免れたが、その先はジンの機嫌次第だ。
「あのさあ、いい加減、何か喋れよ」
嫌な沈黙が続くなと思っていたが、それはジンも同じだったようだ。
彼方に自分が着ていたダウンジャケットを渡したので、カットーソー一枚の姿でハンドルを握っていて、不機嫌そうにフロントガラスの先を見ている。
「あり……がと。迎えに来てくれて」
「おう」
会話が終わってしまった。
「あんた、会話下手だね。コミュ障って自覚ある俺でも、もうちょっとこういう状況なら話を頑張るけど」
「……ごめん」
「腹、減ってる?変わった肉ならたくさんあるけど」
「残しちゃうだろうから、いい」
「あのさあ、変わった肉って何?って質問するとか、話の広げ方ってもんがあるよな?俺、ロクに話もせずにやるとか嫌なんだけど」
やる。
赤裸々であからさまな表現だ。
彼方はそっちの言葉に気をとられ、まともにジンの顔が見られない。
「か、変わった肉って?」
「オウム返しか。鹿と、猪とか、たまに熊とか。俗に言う獣肉ってやつ」
「……そうなんだ」
「反応薄っ。あんたのやる気は、金にしか発揮されないんだな。よく分かった」
車はそこから約二十分後に止まった。
フロントガラスが真っ白になるほどの雪で、かなりのノロノロ運転だったのだ。
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