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第九章

188.とんだ茶番

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 ユディトが板絵の両端を掴むと、全ての指に亀裂が走った。

 やがて、数本の指を残して絵は真っ二つに割れた。

 それを見たアレッサンドロは、膝立ちのまま放心。


「馬鹿だなあ、……君は。とんでもなく馬鹿だ」


 ユディトが立ち上がりながら、ほとんど息が吸えなくなってきたアレッサンドロを抱きしめた。

 アレッサンドロが、ようやく会えた愛おしい女にずるずるともたれかかる。

 最後には膝の上に顔を埋める格好になった。

 ヨハネから受けた光の玉の攻撃の影響も出たのか、ユディトの片腕がボトリと床に落ちた。


「……ああ。これ……は、ひどい……な」


 なぜか、アレッサンドロの口元は笑っているように見えた。


「きゅ、救急車。早く病院に」


 アンジェロが悲鳴を上げる。

 サライはそんな行為は無駄に思えた。

 きっと、アンジェロだってボッティチェリの命が尽きようとしているということは分かっている。

 悲しいがここで見送るしか術が無さそうだ。

 胸を痛めていると、


「とんだ茶番」


 ザラつきのある声と同時に、ギュインという金属音。

 ユディトが使っていたのとそっくりの剣が、通路を一直線に貫き祭壇の一番太い蝋燭台の頭蓋骨に突き刺さる。

 死神が振り返ってメリージを見る。


「このタイミングでお披露目とは。つくづく悪趣味な男だ」

「知りたくてしょうがなかったくせに」


 メリージは、長椅子から腰を上げると、通路の真ん中を通って祭壇前へ。

 頭蓋骨から剣を引き抜くと、それは、フィレンツェの死神が持っている鎌へと形を変えた。


「武器の形態変化?!どこで、そんな技を手に入れた?」


とヨハネ。


「さあ、どこでだろうなあ?一つ言えるのは、お利口さんな十二使徒じゃ、一生理解出来ねえよってこと」


 サライは光る鎌の穂先をブルブル震える指で刺す。


「第三者じゃなく、やっぱりお前だったのか?じいちゃんに何の恨みがっ!!」


 メリージはニヤニヤ笑いながら答えた。


「ねえよ。全く」


 感情のまま飛び出していきそうになるサライを、ムンディとヨハネが抑えた。血が沸騰しそうになる。


「僕にファーストマテリアを出させるためだけに殺したのか?」

「だから、そんなんじゃねえって」


 メリージはこの話題に既に飽きたという態度で老人の頭部を鷲掴みにし、鎌を肩に背負ったまま、アレッサンドロとユディトの前に戻りしゃがみ込む。


「よう。相棒」
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