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第七章
145.あいつさあ。絵が嫌いでも、自分が描く絵には絶対の自信があるよな
しおりを挟むヨハネが乱暴に箱を開け、ビニール袋を破ると、出てきたのは黒い取っ手付きの白いプラスチックのケース。
「中身は、ペンケース。うわ、こっちは目がチカチカするな。暗号みたいだ」
音符がびっしり並んだ楽譜だった。それが十枚ほど。
滑らかに、弾むようになど書き込みが隙間なくされている。
ヨハネが念のため最後までめくる。
「あれ?これは?」
楽譜をペラペラめくり、最後に出てきたのは、少しサイズが小さい紙。楽譜よりも黄みがかっている。
サライはそれを摘み上げる。自然と吸い寄せられたのだ。
「女の絵だな」
「いや、そうだけど。どう見たってユディトだ」
とヨハネが焦ったように紙を奪い返す。
「赤チョークで描かれたラフ画。紙にはうっすらとした日焼けがあるな。多少の痛みも。昨日今日の物じゃないってことだ」
「あれだけ絵は嫌いだって喚いておいて、自分で描いてずっと持ち歩いていたのか?」
サライはすぐに違和感を感じ、「いや、違うか」とすぐに訂正した。
「アンジェロが最後に音楽学校に行ったのは、鳥の巣頭にそそのかされる前の金曜のことだ。そして、青いドレスの女・剣と検索したのはその夜。誰に襲われたのが、その時点では分かって無かったってことだ。ロンドンで出会ったときも、ボッティチェリのこともユディトのこともまるで分かっていなかった。なのに、古びた似顔絵を持っているのは、おかしいぞ。想像上で理想の女を描いて、それが現実に現れた?」
考え込んでいると、聞きたくもない声が扉の辺りから聞こえてきた。
「そもそも、出発点から話がズレ始めている気がするけれどな」
この偉そうな低音。振り向かなくても分かる。
「おーっとここで、ヒーローが登場だ。趣味は盗み聞きでーす」
とヨハネがおどける。
「どれ?」
と側に寄ってきたレオは、ヨハネの手から紙を取り上げた。
青い瞳でジロッと一瞥。
「ロレンツォのところの馬鹿息子の手によるものじゃねえな」
驚いた。元絵描きは一瞬でそこまでわかるらしい。
「じゃあ、誰だ?」
「絵のことになると手負いの獣みたいになる九億ユーロの贋作師が、ラフ画を手元に残したくなるほどの相手ってことだろ」
「あいつさあ。絵が嫌いでも、自分が描く絵には絶対の自信があるよな。マエストロのムンディを見て、すげー悔しそうな顔をしてたもの。過去が過去だけに、そんじょそこらの絵描きじゃ手元に置かないはず。ベラスケス?ティッテアーノ?もしくは、ユディトを描いたご当人?」
「ボッティチェリってことか?!」
サライは再び紙を覗き込んだ。
ヨハネが深く頷きながら言う。
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