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第六章
120.俺は父さんとは血の繋がりはありません
しおりを挟む自ら負け犬宣言。
「ほう」
会話がプツッと途切れた。
巨匠は若者に優しくないようだ。そこから、何も話しかけてくれない。
「えっと、あの……。サライはもう平気なんでしょうか?」
アンジェロが伺うと、
「三半規管が弱いが、たっぷり寝りゃあ、何事もなかったかのように起きだしてくる。いつものことだ」
と慣れた感じでレオが答える。
「おじいさんと二人暮らしだったヨハネが言っていました。レオさんとは離れて暮らしていたんですか?」
「昔、縁があっただけだ」
となると考えられるのは親子という線だが、彼らの骨格に似たところは無い。
そして、レオはこれ以上深入りしてくるなという雰囲気を出してくる。
「お前、他に言うことは無いのか?」
レオに少しきつめの口調で問われて、
「あ、あの。ロンドンでは失礼しました。メリージに煽られたとはいえ、俺、とんでもないことを」
「ドブネズミが警備員を二名殺した。お前がロレンツォの息子でなければ、共犯として射殺されていたかもしれない。平然としているところが恐ろしい。やっぱりあの男の息子だな」
「俺がおかしいのは、生まれつきか、贋作組織育ちのせいだと思います。俺は父さんとは血の繋がりはありません」
「だったら、お前は何者なんだ?」
「だから、その、ただの学生、だと思いますけれど?」
「違う。昔のことを聞いている。つまり、生まれ変わる前の」
「わかりません」
「本当だな?」
絵の中からマテリアを出せる。
そういう者らは、かつて絵描きだったという過去があるようだ。
でも、そんなの知らない。
知りたくもない。
ますます、疑念が深まるからだ。
父親が、自分を養子として迎えたことの。
「父は、どこまで知っていたんでしょう?」
「ロンドンでの様子が演技でなければ、お前がマテリアを出せることは知らなかったようだ。だが、奴のことだ。お前がどういう絵描きなのかまで知っていて、伏せていたに違いない。お前は、リチャード・クリスティンには、第七贋作組織で生き残った正体不明の絵描きとして登録されている。証明となる絵が無かったからな」
「俺が描いた『サルヴァドール・ムンディ』は贋作組織襲撃のときに、父はドサクサで紛失してしまったと。ずっと嘘だと思っていました」
「お前を救出した際のロレンツォは軍人のようだったろう?だが、その後は、資産家の美術鑑定士の仮面を付け続けていたはずだ。そのことをどう思っていた?」
「あえて聞かないようにしていました」
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