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第六章

116.言い訳しろ!簡単に謝るな。ふざけんな。言い訳しろって。うえっ……

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「じいちゃんの作ったワインだぞ」


と布団の中から怒鳴り声。


「お前も貰ったろ。最悪な誕生日になってしまったかもしれないが」

「知るかっ!!」


 黙り込んだサライのベットサイドにレオは腰掛ける。そして、布団を捲った。


「どうした?熱を上げたのか?」


 アンジェロの隣で眺めていたヨハネが、Tシャツから突き出た腕を擦りながら「うっわ。鳥肌。どっから出してんだろうな、あんな優しい声」と舌を出す。

 その最中もサライとレオの会話は続く。


「電話したんだぞ。頼っていいってじいちゃんに言われていたから」

「お前が、オレにか?」

「ああいう時以外、いつ頼るんだよ!!」


 しばらく首を傾げていたレオだったが、困ったように笑って「ああ。そうだな、悪かった」と謝った。


 布団を跳ね上げたサライがその表情を見て、


「ふざけんな」


と掴みかかっていく。


「お前はいつもそうだ!僕をないがしろにして、最後には捨てて」

「悪かった」


とまたレオが謝る。


 そして、「記憶が混濁しているようだな」という小さな呟き。哀しみのようなものがレオの目に宿るをアンジェロは見た。


 サライがレオを揺さぶる。


「言い訳しろ!簡単に謝るな。ふざけんな。言い訳しろって。うえっ……」

 サライの顔色が青白くなり口元に手を当てた。

 枕に突っ伏すと同時に、そこに吐瀉物が溢れ出す。


「顔を上げろ。窒息する」


 汚れた口をレオが丁寧に拭う。


「触るな」と喚くサライを抱き上げると、レオが振り向きアンジェロに聞いてくる。


「すぐ使える部屋は無いか」

「えっと、サライの部屋は隣りみたいです」


 ヨハネは「ちょっと出てくる」と言って姿を消し、レオはサライを連れて隣室に。


「お前、ちょっと手伝え」


と呼ばれ、アンジェロは、追ってきたムンディとともにサライをベットに寝かすのを助けた。

 レオは懐からダーツの矢を仕舞うようなサイズの銀のケースを取り出した。

 中身は注射器とアンプルだ。手際よく注射針をセットする。そして、注射器を引き上げアンプルの液体を吸いこんだ。


「……お医者さん……ごっこはいい加減にしろ」


 サライが焦点の合わない目で喘ぐ。

 レオがニヤリと笑った。悪意のないニヤリだ。

 初対面で怒鳴られたアンジェロにはちょっと怖い。
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