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第五章
88.じい、ちゃんの‥…首は?無、事っか?壊れて、無い、よな?
しおりを挟む浮き上がるのは、かなり困難だった。呼吸をするたびに水が口に入ってきて苦しくなる。
その瞬間、海水浴客の弁当を狙う鳶みたいな速さで、何者かがサライの頭を小突いてきて思いっきり水の中に沈められる。青いドレスの裾が視界に入った。
「ユディッ」
叫ぶと水を盛大に飲み込む。
溺れかけながら、なんとか水面に浮かび上がろうとしたときには、もうすでに女は遥か彼方の上空だ。
意識が薄れかけていく中、直ぐ側で水柱が上がった。
誰かが飛び込んできたのだ。
浮き上がって隣にいたのは、サライが最も不快に思う男だった。
「死ぬ気か」
溺れかけるサライにレオの腕が回る。
「ピエトロの頭を離せ」
「嫌だ」
「本当に死ぬぞっ」
レオが再びサライを抱きかかえながら叫ぶ。
この男も間もなく波に飲まれそうだ。
「想像以上に波が高い。おい、ヨハネッ」
呼ばれた少年は、水面ぎりぎりのところに浮いていて、しゃがみこんだ姿勢で両手に頬を当てていた。
ギラつく目で笑っている。
「よかったな。マエストロ。サライはもう頼れる大人がいない。こいつは心が弱そうだから、もう間もなくころっといく。そうしたら昔みたいに好き放題できるな」
「ヨハネッ!!いい加減にっ」
「怒鳴ったって無駄無駄。お、サライ。顔が青いな?たらふく水を飲んだか?ここまでくるとかなりやばいんだっけ?ねえ、オイシャサン?」
ヨハネがサライとレオの襟首を掴んで「重っ」と文句を言いながら水面から救い出し岸辺に連れて行った。
叩きつけられるように、サライは地面に投げ出される。
「ヨハネ。ユディトを警戒しろ」
と叫ぶレオの声が遠い。
「分かっているって」
鬱陶しさ全開の返事でヨハネが空に飛び立っていく。
「じい、ちゃんの‥…首は?無、事っか?壊れて、無い、よな?」
サライは祖父の首を抱きながら、ゲホゲホと咳き込む。
息が上手く吸えない。
びしょ濡れのレオが這って側に寄ってきた。
「平気か?」
背中を叩こうとするので、手で振り払おうとしたが上手く身体が動かなかった。
「……痺れている。……身体」
「酸素不足のサインだ」
「うげっ」
急に口の中に何か入ってきた。
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