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第三章

67.これは、キス---じゃない

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とユディトがメリージの頭を思いっきりはたき、メリージが片手でユディトの両手首を押さえつけた。そして、もう片方の手でベルトを外し始めたので、アンジェロは顔を真っ赤にしながら、青いドレスの女に話しかける。


「場所を移動したほうがいいかもしれないです」


 どこにと言われても、寝室と居間が繋がっている状態の部屋が一室だけだから、廊下かバスルームに行くぐらいしかないのだが。

 青いドレスの女は立ち上がるつもりは無いようだった。


「ちょっとあの子達、見ているって。絶対見ているって」


と嫌がる素振りを見せるユディトのショーツを下ろしながら、メリージは、


「見せつけてやれ」


と煽り体勢に入る。

 異様なまでの興奮状態だ。アンジェロは思い当たることがあって一言言ってしまった。


「メリージ。もしかして、あそこに強盗に入るのに、相当、緊張してたんじゃないか?」


「……」


 ユディトが「キャハハハッ」と甲高い声で笑い始め、メリージは振り返って眼光鋭くアンジェロを睨みつけてくる。


「うわ。怖っ」


 もうこの場所で大人しくしておくかと床に座りかけると、青いドレスの女が急にアンジェロの首に手を回してきた。


「ど、ど、ど、どうしたんですか?」

「お?よかったな。アンジェロ」


とメリージは下卑た笑い声を上げながら、再びユディトに伸し掛かっていく。

 吐息の漏れるキス。それに、際どい愛撫。

 でも、セックスはしないようだ。

 青いドレスが女は、アンジェロの目をじっと覗き込んできた。


「あの……」


 どうしようもない気分になって喘ぐ。

 全身が熱くなり、抱きすくめたくなる。 

 白魚のような手を突き出し、人差し指をアンジェロの唇に押し付けてきた。そして、首を少し傾け顔を近づけ、指越しに唇を重ねてくる。



 あ、ひび割れ。



 青いドレスの女の顔には、乾いた油絵特有の細かな亀裂が走っていた。一部はめくれ上がり、無理をすれば剥落が始まりそうだ。

 せっかくのキスなのに、絵描き、いや元絵描きの性なのか。

 それに、


(これは、キス---じゃない)


(じゃないけど、俺にとってはキスみたいなもので……)


 脳内がバグる。

 青いドレスの女の突き立てた人差し指が、アンジェロの唇から離れていく。まるで虫でも触ってしまったみたいな不快そうな顔だ。

 普段ならそんなことされたら盛大に傷つくはずなのだが、今は是が非でも捕まえたくて強引に彼女に向かって腕を伸ばすと、すっと立ち上がりふわりと飛ぶようにして、さらに数歩後退されてしまった。

 なおさら追い詰めたくなる。
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