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第六章
93:手が違うそうなんです
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「もう一つ、気になる点があったんだ。ゴート地方じゃ、ネメオの森は古代の魔女に庭ってのが常識らしい。だから、僕はルルに言ったんだ。師匠と古代の魔女がネメオの森に一緒に住んでいたら、縄張り争いが始まって大変なことになるって。でも、エルバート王国史に記されるクラスの騒動は起こっていない。だって、起こりようがないよな、同一人物なんだもの」
「そのことは、すでにウォルト様にもご報告済みで?」
「ああ。仮想敵はネメオの森にいると伝えた。さっそく、奴は第一陣の中から偵察部隊を選んで出発させた」
「では、進軍は予定より早まりますね?」
「確実に」
「分かりました。私も今まで以上に急ぎで」
「ロンド」
アスランは元部下の名前を呼んだ。
「何でしょう?」
「僕に何かあったらルルのことを頼む」
「アスラン様?」
震えているのか、執務机に乗せていた手がカタカタを震えていた。
「相手はあなたの師匠でしょう?」
「あの人は、長年の弟子である僕に一度も正体を晒していない。ずっと、別の姿でいるのがどれほど大変か、ロンドなら分かるだろ?それを難なくやる人だ。それに、桁違いの魔法を何百回と見せられてきた。そんな人が悲恋で苦しんでいて、それを僕が解放する?この僕が?これは、弟子である僕へ、師匠が突きつけてきた宿題でもあると思う」
「不正解なら死?どんな師匠ですか?」
「たぶん、あの人はやるよ。躊躇無く。僕が死んで、月狂いの夜がこのまま続くなら、ルルに見合った相手を見つけてあげて欲しい。年上がいいかな?いや、同年代がいいかもしれない。もし、ルルもロンドもお互いがいい相手だと思うなら、僕はそれが一番安心だ」
「ルルの気持ちはまるで無視ですか?」
「ホズ村で見たんだ。剣士が魔法使いに無惨に扱われる様子を。だから、ルルが相手探しをできるようになるのはもっと後だ。過保護すぎだよな。むしろ、そんなことまで雇用主が指図してくるなんて、ルルには迷惑極まりないと思う」
ロンドは覚悟を決めたように元雇用主に向かって微笑む。
「承りました。でも、アスラン様。あなたはルルの気持ちに気づいてるんでしょう?」
そう言って、震えるアスランの手の甲に自分の手を重ねてくる。
「ルルだってそうみたいですよ」
そして、続けた。
「手が違うそうなんです」
と。
王都を出た二陣と三陣がゴート城への到着が遅れているというよくない知らせが届いたのは、ルルをロンドに託して四度目の月狂いの夜が終わった後だった。
自分は三度、ルルと月狂いの夜を過ごした。だが、もう、ロンドの回数はそれよりも多い。
アスランとルルが肌を合わせたのは、もう過去に事になりつつある。
春は完全に終わり、暫くは過ごしやすい涼しい日がゴート地方は続く。
軍を動かすにもちょうどよい天気だ。
二陣は剣士のみ。そして、三陣は、魔法使いと剣士の混合の軍だ。
王都から数百名の者が移動するのであれば、約十日。
だが、待てど暮せど彼らはやってこない。
ウォルトの企みが王都に早々ばれてしまい、足止めを喰らっているのかと思ったら、もっとよくない事態が起こっていた。
二陣と三陣の伝令がゴート城に駆け込んできて伝えたのだ。
剣士だけに出ていた月狂いの夜の影響が、一般市民にも出始めている。
数カ所の街が消滅の危機にある。
夜となく昼と無く誰彼と抱き合い、情事にふけって、食事も睡眠も忘れ、最悪死に至ると。
「剣士も魔法使いにも影響が出てしまうので、街に入っての救出もままならず、街を大きく迂回してゴート城を目指さねばならない」
アスランは執務室の椅子に座り、腕組みをした。
真正面はウォルトがいて、執務室のヘリに腰掛けている。
「でっち上げる前に、仮想敵の方から動き出すとはな」
「そのことは、すでにウォルト様にもご報告済みで?」
「ああ。仮想敵はネメオの森にいると伝えた。さっそく、奴は第一陣の中から偵察部隊を選んで出発させた」
「では、進軍は予定より早まりますね?」
「確実に」
「分かりました。私も今まで以上に急ぎで」
「ロンド」
アスランは元部下の名前を呼んだ。
「何でしょう?」
「僕に何かあったらルルのことを頼む」
「アスラン様?」
震えているのか、執務机に乗せていた手がカタカタを震えていた。
「相手はあなたの師匠でしょう?」
「あの人は、長年の弟子である僕に一度も正体を晒していない。ずっと、別の姿でいるのがどれほど大変か、ロンドなら分かるだろ?それを難なくやる人だ。それに、桁違いの魔法を何百回と見せられてきた。そんな人が悲恋で苦しんでいて、それを僕が解放する?この僕が?これは、弟子である僕へ、師匠が突きつけてきた宿題でもあると思う」
「不正解なら死?どんな師匠ですか?」
「たぶん、あの人はやるよ。躊躇無く。僕が死んで、月狂いの夜がこのまま続くなら、ルルに見合った相手を見つけてあげて欲しい。年上がいいかな?いや、同年代がいいかもしれない。もし、ルルもロンドもお互いがいい相手だと思うなら、僕はそれが一番安心だ」
「ルルの気持ちはまるで無視ですか?」
「ホズ村で見たんだ。剣士が魔法使いに無惨に扱われる様子を。だから、ルルが相手探しをできるようになるのはもっと後だ。過保護すぎだよな。むしろ、そんなことまで雇用主が指図してくるなんて、ルルには迷惑極まりないと思う」
ロンドは覚悟を決めたように元雇用主に向かって微笑む。
「承りました。でも、アスラン様。あなたはルルの気持ちに気づいてるんでしょう?」
そう言って、震えるアスランの手の甲に自分の手を重ねてくる。
「ルルだってそうみたいですよ」
そして、続けた。
「手が違うそうなんです」
と。
王都を出た二陣と三陣がゴート城への到着が遅れているというよくない知らせが届いたのは、ルルをロンドに託して四度目の月狂いの夜が終わった後だった。
自分は三度、ルルと月狂いの夜を過ごした。だが、もう、ロンドの回数はそれよりも多い。
アスランとルルが肌を合わせたのは、もう過去に事になりつつある。
春は完全に終わり、暫くは過ごしやすい涼しい日がゴート地方は続く。
軍を動かすにもちょうどよい天気だ。
二陣は剣士のみ。そして、三陣は、魔法使いと剣士の混合の軍だ。
王都から数百名の者が移動するのであれば、約十日。
だが、待てど暮せど彼らはやってこない。
ウォルトの企みが王都に早々ばれてしまい、足止めを喰らっているのかと思ったら、もっとよくない事態が起こっていた。
二陣と三陣の伝令がゴート城に駆け込んできて伝えたのだ。
剣士だけに出ていた月狂いの夜の影響が、一般市民にも出始めている。
数カ所の街が消滅の危機にある。
夜となく昼と無く誰彼と抱き合い、情事にふけって、食事も睡眠も忘れ、最悪死に至ると。
「剣士も魔法使いにも影響が出てしまうので、街に入っての救出もままならず、街を大きく迂回してゴート城を目指さねばならない」
アスランは執務室の椅子に座り、腕組みをした。
真正面はウォルトがいて、執務室のヘリに腰掛けている。
「でっち上げる前に、仮想敵の方から動き出すとはな」
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