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第五章

66:血の繋がりはあるが、他人だ

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 アスランが自分を落ち着けようとするようにローブを正しながら聞き返すと、
「俺も詳しくは知らん」
とウォルトが言った。
「出会いは?」
「旅先で」
「供ではないのか?」
「ああ。俺一人で王都を出た。その途中で、お前が放った精霊から手紙を受け取った」
「七年前のことをやりすぎたと自発的に詫びに来たのかと思ったら」
 すると、ウォルトがふんと鼻を鳴らす。
「誰が、そんなことをするか」
「つまり、僕にもともと用があって王都を出たんだな?」
 すると、ウォルトがにやりと笑った。
「ああ、俺はお前に用があった。なあに、些末なことだ」

 客室に二人を案内すると、ルルは先に私室に戻ったアスランを追った。
「他に要り様なものはありませんか?」等々、気を効かせて先に聞くべきなのだろが、ウォルトとミレイを直視できないのだ。彼ら一人、一人なら問題ないのに。
 なぜなら、妙にウォルトとミレイは距離が近い。
 いや、ミレイの方が積極的に寄っているような。
 見ているこっちが恥ずかしい気分になる。
「ルルです。戻りました。主、入っていいですか?」
「ああ」
 ルルは月狂いの夜と先ほど以外、アスランの部屋に入ったことはない。
 理由は簡単。自分はただの側仕えだからだ。アスランは友達ではなく、雇用主。
 だから、この部屋は用もなく訪れていい部屋ではない。
 アスランは、椅子に腰掛け足を組んでいた。腕組みもしている。少し寒いのか、肩にショールを羽織っていた。
「ウォルトに、何か頼まれたか?」
「いえ。騒ぎを大きくしてすみませんでしたと、主に謝りたくて」
 アスランは肩をすくめる。
「その件はもういい。ウォルトはああいう性格の奴だ。面白がってやっている」
「ならいいのですが。その、気になることがあって」
「何だ?」
「七年前のこと、俺にはよくわかりませんが、お二人の間でもう落としどころがついているのは見ていてわかります。とすると、その用件でない。ウォルト様は、先程、些末な件で来たと先ほどおっしゃいましたよね?あの性格からして、重要な件の裏返し的表現かと。信頼できる供にも知られたくないことを主に伝えたかったから出向いてきた、そうではないでしょうか?当たってます?」
「概ね。実は、王都で信頼できる筋から僕は随時情報を集めている。彼からの直近の報告によれば、王が、つまり、僕の父が寝付いて暫く経つと。つまり、回復の見込みは少ないということだ。それ絡みだと思う」
「だったら、お見舞いに。客人二人をもてなしている場合ではないです。俺、すぐ荷造りを」
 ルルが焦って言うと、
「必要ない」
とアスランが答えた。
「何故です?王でも、アスラン様にとってはお父様でしょう?」
「血の繋がりはあるが、他人だ。ルル、以前、君は、ホズ村の教会に産み捨てられたと言ったね?僕も同じさ。王宮に産み捨てられた。父と言っても、口を交わしたことはニ、三度しかない」
「そんな」
「僕は、王位継承権はかなり低いし、母は一般市民だったから、僕が王である父に気軽に近づくことは許されない。だが、逆は可能だ。いくらでもそういう機会はあったが、実現しなかった。君は親に剣を残して貰ったが、僕は、おそらく何もない。王都で幼少期、住んでいた場所も、食事も服も、全部、父のお付きの者が、さらに下の者に指示してさせ用意したものだ。父は僕に何もしていない。だから、寝付こうが死のうが何の思い入れもない」
「あのっ、俺っ、……出過ぎたことを」
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