66 / 129
第五章
66:血の繋がりはあるが、他人だ
しおりを挟む
アスランが自分を落ち着けようとするようにローブを正しながら聞き返すと、
「俺も詳しくは知らん」
とウォルトが言った。
「出会いは?」
「旅先で」
「供ではないのか?」
「ああ。俺一人で王都を出た。その途中で、お前が放った精霊から手紙を受け取った」
「七年前のことをやりすぎたと自発的に詫びに来たのかと思ったら」
すると、ウォルトがふんと鼻を鳴らす。
「誰が、そんなことをするか」
「つまり、僕にもともと用があって王都を出たんだな?」
すると、ウォルトがにやりと笑った。
「ああ、俺はお前に用があった。なあに、些末なことだ」
客室に二人を案内すると、ルルは先に私室に戻ったアスランを追った。
「他に要り様なものはありませんか?」等々、気を効かせて先に聞くべきなのだろが、ウォルトとミレイを直視できないのだ。彼ら一人、一人なら問題ないのに。
なぜなら、妙にウォルトとミレイは距離が近い。
いや、ミレイの方が積極的に寄っているような。
見ているこっちが恥ずかしい気分になる。
「ルルです。戻りました。主、入っていいですか?」
「ああ」
ルルは月狂いの夜と先ほど以外、アスランの部屋に入ったことはない。
理由は簡単。自分はただの側仕えだからだ。アスランは友達ではなく、雇用主。
だから、この部屋は用もなく訪れていい部屋ではない。
アスランは、椅子に腰掛け足を組んでいた。腕組みもしている。少し寒いのか、肩にショールを羽織っていた。
「ウォルトに、何か頼まれたか?」
「いえ。騒ぎを大きくしてすみませんでしたと、主に謝りたくて」
アスランは肩をすくめる。
「その件はもういい。ウォルトはああいう性格の奴だ。面白がってやっている」
「ならいいのですが。その、気になることがあって」
「何だ?」
「七年前のこと、俺にはよくわかりませんが、お二人の間でもう落としどころがついているのは見ていてわかります。とすると、その用件でない。ウォルト様は、先程、些末な件で来たと先ほどおっしゃいましたよね?あの性格からして、重要な件の裏返し的表現かと。信頼できる供にも知られたくないことを主に伝えたかったから出向いてきた、そうではないでしょうか?当たってます?」
「概ね。実は、王都で信頼できる筋から僕は随時情報を集めている。彼からの直近の報告によれば、王が、つまり、僕の父が寝付いて暫く経つと。つまり、回復の見込みは少ないということだ。それ絡みだと思う」
「だったら、お見舞いに。客人二人をもてなしている場合ではないです。俺、すぐ荷造りを」
ルルが焦って言うと、
「必要ない」
とアスランが答えた。
「何故です?王でも、アスラン様にとってはお父様でしょう?」
「血の繋がりはあるが、他人だ。ルル、以前、君は、ホズ村の教会に産み捨てられたと言ったね?僕も同じさ。王宮に産み捨てられた。父と言っても、口を交わしたことはニ、三度しかない」
「そんな」
「僕は、王位継承権はかなり低いし、母は一般市民だったから、僕が王である父に気軽に近づくことは許されない。だが、逆は可能だ。いくらでもそういう機会はあったが、実現しなかった。君は親に剣を残して貰ったが、僕は、おそらく何もない。王都で幼少期、住んでいた場所も、食事も服も、全部、父のお付きの者が、さらに下の者に指示してさせ用意したものだ。父は僕に何もしていない。だから、寝付こうが死のうが何の思い入れもない」
「あのっ、俺っ、……出過ぎたことを」
「俺も詳しくは知らん」
とウォルトが言った。
「出会いは?」
「旅先で」
「供ではないのか?」
「ああ。俺一人で王都を出た。その途中で、お前が放った精霊から手紙を受け取った」
「七年前のことをやりすぎたと自発的に詫びに来たのかと思ったら」
すると、ウォルトがふんと鼻を鳴らす。
「誰が、そんなことをするか」
「つまり、僕にもともと用があって王都を出たんだな?」
すると、ウォルトがにやりと笑った。
「ああ、俺はお前に用があった。なあに、些末なことだ」
客室に二人を案内すると、ルルは先に私室に戻ったアスランを追った。
「他に要り様なものはありませんか?」等々、気を効かせて先に聞くべきなのだろが、ウォルトとミレイを直視できないのだ。彼ら一人、一人なら問題ないのに。
なぜなら、妙にウォルトとミレイは距離が近い。
いや、ミレイの方が積極的に寄っているような。
見ているこっちが恥ずかしい気分になる。
「ルルです。戻りました。主、入っていいですか?」
「ああ」
ルルは月狂いの夜と先ほど以外、アスランの部屋に入ったことはない。
理由は簡単。自分はただの側仕えだからだ。アスランは友達ではなく、雇用主。
だから、この部屋は用もなく訪れていい部屋ではない。
アスランは、椅子に腰掛け足を組んでいた。腕組みもしている。少し寒いのか、肩にショールを羽織っていた。
「ウォルトに、何か頼まれたか?」
「いえ。騒ぎを大きくしてすみませんでしたと、主に謝りたくて」
アスランは肩をすくめる。
「その件はもういい。ウォルトはああいう性格の奴だ。面白がってやっている」
「ならいいのですが。その、気になることがあって」
「何だ?」
「七年前のこと、俺にはよくわかりませんが、お二人の間でもう落としどころがついているのは見ていてわかります。とすると、その用件でない。ウォルト様は、先程、些末な件で来たと先ほどおっしゃいましたよね?あの性格からして、重要な件の裏返し的表現かと。信頼できる供にも知られたくないことを主に伝えたかったから出向いてきた、そうではないでしょうか?当たってます?」
「概ね。実は、王都で信頼できる筋から僕は随時情報を集めている。彼からの直近の報告によれば、王が、つまり、僕の父が寝付いて暫く経つと。つまり、回復の見込みは少ないということだ。それ絡みだと思う」
「だったら、お見舞いに。客人二人をもてなしている場合ではないです。俺、すぐ荷造りを」
ルルが焦って言うと、
「必要ない」
とアスランが答えた。
「何故です?王でも、アスラン様にとってはお父様でしょう?」
「血の繋がりはあるが、他人だ。ルル、以前、君は、ホズ村の教会に産み捨てられたと言ったね?僕も同じさ。王宮に産み捨てられた。父と言っても、口を交わしたことはニ、三度しかない」
「そんな」
「僕は、王位継承権はかなり低いし、母は一般市民だったから、僕が王である父に気軽に近づくことは許されない。だが、逆は可能だ。いくらでもそういう機会はあったが、実現しなかった。君は親に剣を残して貰ったが、僕は、おそらく何もない。王都で幼少期、住んでいた場所も、食事も服も、全部、父のお付きの者が、さらに下の者に指示してさせ用意したものだ。父は僕に何もしていない。だから、寝付こうが死のうが何の思い入れもない」
「あのっ、俺っ、……出過ぎたことを」
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
その日君は笑った
mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。
それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。
最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。
※完結いたしました。
閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。
拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。
今後ともよろしくお願い致します。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
【R18】【Bl】魔力のない俺は今日もイケメン絶倫幼馴染から魔力をもらいます
ペーパーナイフ
BL
俺は猛勉強の末やっと魔法高校特待生コースに入学することができた。
安心したのもつかの間、魔力検査をしたところ魔力適性なし?!
このままでは学費無料の特待生を降ろされてしまう…。貧乏な俺にこの学校の学費はとても払えない。
そんなときイケメン幼馴染が魔力をくれると言ってきて…
魔力ってこんな方法でしか得られないんですか!!
注意
無理やり フェラ 射精管理 何でもありな人向けです
リバなし 主人公受け 妊娠要素なし
後半ほとんどエロ
ハッピーエンドになるよう努めます
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる