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第四章

50:俺……側仕えとして雇って貰ったんですが……

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 驚くルルを見て、アスランがくすりと笑った。
「実はこの倍あった。一冊は手元に。もう一冊は写し書きをして、王宮の書庫に収めている」
 アスランは、革の鞄に入れていた雑記帳を執務机の上に積み始める。数十冊あるから、小山のようだ。
 まだ旅装束だが、執務机の椅子に腰掛けるアスランには威厳があった。
「違う方みたい」
 ルルは思わず呟いてしまった。
「何だって?」
「あの、その。俺は旅をする主の姿しか知らないから」
「ああ、魔法学者の僕ね。ゴート地方の領主の椅子に座ってはいるが、中身は同じさ」
 そう言うが、ルルにはアスランが少し遠い。
 アスランが立ち上がった。
「雑記帳の整理に夢中になるところだった。先に、ルルを部屋に案内だ」
 アスランは執務室の左奥へと進んでいく。
 目立たないが扉があった。
 そこを空けて入っていくと、窓辺に寝台とその脇に、ろうそく台が上に置かれた小机があった。後は姿見だ。
「ここが俺の部屋」
 ルルは突然与えられた空間を見回す。
「領主の私室に一番近い部屋だ。慣例で、一番上位の側仕えに与えられる」
「あはは。俺が一番上位」
 ルルはおかしくなって笑った。
「昔は、魔法のベルがあって、それを鳴らされたら、側仕えは寝ていようが食事中だろうがすぐ駆けつけるのが決まりだった。だから、この位置に部屋が作られたらしい。そういえば、魔法のベル、確か、執務室のどこかにあったなあ。久しく使われて無かったみたいで、埃をかぶっていたけれど」
「主が一鳴らしただけで、即、駆けつけます。どこにいても」
「ははは」
とアスランが笑い出す。
「昔の話だ。今どき、王都ではそんなことしない。どれだけ給金を積んだって、早々に辞められてしまう。それに、僕はこの七年。誰も雇わずやってきた。ルルに継続的にやってもらいたいことすら、思いつかない」
「なら、食事を作ります」
「それは、精霊がやってくれるからいい」
「なら、掃除を」
「それも、精霊が」
「洗濯」
「以下、同じ」
「俺……側仕えとして雇って貰ったんですが……」
「なら、剣の手入れとか練習?」
「それは、俺自身のためにすることです」
空き時間を見つけて勝手にやります。もういいです。俺、この城でやること、自分で見つけますっ!」
「怒るなよ」
 アスランが、鞄から小袋を取り出した。
「何です?」
 そう言えば、先程通りがかった店で、アスランが武具屋に急に寄り道して買い物をしていた。
「剣の手入れ道具。もしかしたら、その剣、かなりの値打ちがあるものなのかもしれない。というより、鍔の部分にね。魔法文字が書いてあるだろ?」
 ルルは背中に背負っていた剣を手に持ち直した。
「ただのクネクネした模様かと。古代文字だ、それも初期の」
「なんて書いてあるんですか?」
 アスランが古代文字の発音そのままに読み上げる。
 ルルは耳を澄ませて聞いていた。
「まるで、音楽みたいですね」
「意味は、比翼の鳥連理の枝」
 ルルは繰り返す。
「比翼の鳥連理の、うわっ」
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