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第三章

26:俺、実はホズ村を出るの、初めてなんです

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第三章

 荷物をまとめて洞穴をでる。
 街道をホズ村を背にして二人は進んでいく。
 アスランは馬で。ルルは徒歩で。
 二人乗りしたっていいのだが、「それはできません」と新人側仕えは遠慮に次ぐ遠慮だ。
 問い詰めたら「実は馬に乗れません」という答えが返ってきた。
「あのね、そういうことは先に言うんだ」
「……契約を破棄されるかと思って」
 きっと、これまで生きてきて、大人から裏切られることが満載だったことが簡単に察せられる。
 いいから黙って信じろというのはあまりにも簡単で、そして、ルルにとっては無価値な言葉に違いない。
「隠されると取り返しのつかないことになることがある。そのせいで、仕えている相手を危険にさらすことも」
「はい」
 ただ厳しく注意するより、こっちの言い方のほうが効いたらしい。
 ルルが真剣な顔で頷く。
「いい子だ」
「いい子?!あの、主。俺、十八歳になるんですけど」
 アスランは、直接年をルルに聞いたことは無かったが、概ね合っていた。
「で?」
 馬に少し駆け足をさせると、手綱を握ったルルも小走りになる。
 体力のない魔法使いと違って、剣士は無尽蔵にあるのではないかと思うほど、持久力がある。昨晩、ほとんど眠っていないはずなのに、側仕えに雇った剣士は異様なほど元気だ。
 それは、あの村とあの魔法酒場の男から離れられたというのが大きいのかもしれない。
 加えて月狂いの夜という現象から逃れられるから?
 いや、距離を取れば症状が軽くなるのかは今のところ分からない。
「軽くなるのだとしたら、剣士全員が逃げているか……」
とアスランが呟くと、「主、何か?」とルルが聞き返してきた。
「いや、こっちのことだ。さっき、何の話をしてた?ああ、歳の話か。十八歳なんて、まだまだ子供さ。そうやって扱って貰えるうちに、多少失敗もしながら色んなことを覚えればいい。そうれば、僕との契約が終わっても、いい主に雇って貰える」
「主との契約、終わるんですかっ?いつっ?」
「話の例え。今の所、終わる予定はない」
とアスランが言うと、ルルが心底ほっとした表情をする。
 いけない、いけない。
 一連の会話でルルが驚き、ほっとするのは目に見えて分っていた。
 なんとなく、意地悪というか、からかっていろんな表情を見たくなる。
 これまで、アスランの周りにはそんな側仕えはいなかった。
 仕事はきっちりこなすが、踏み込んでくることはない。
 ましてや、主、主と眩しそうに見つめてくることもない。
「この調子で行くと、夕方、いや、夜だな。セスという小さな街に入る。大きな交易路と幾つかの小さな交易路が合わさった場所にあって旅人のために宿屋ができ、食事処でき、道具屋ができ自然と大きなっていった街だ。あ、でも、ホズ村からそこまで離れてないから、ルルの方が詳しいか」
「俺、実はホズ村を出るの、初めてなんです」
 アスランは驚いて、馬の鞍の上で状態を崩しそうになった。
「よくそれで王都まで行こうとしていたな。剣闘大会に出る前に、物取りに全財産とられるか、野盗に襲われるかしている」
「主に手合わせしてもらって、自分が弱いってことは身に染みました」
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