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第二章

20:全部、見たんですか?一体どこまで?俺、覚えていない

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 肩に担がれたルルは、朦朧としているのか、おかしな声を上げながらアスランの背中を掴んだり引っ掻いたりする。
 アスランは、ルルを今度は横抱きにする。背中の剣は、草むらに置いた。
 彼からは、顔をそむけたくなるような匂いがした。
 同性が放ったそれの匂いは、やはりアスランにはきついものがある。
 ルルの顔を拭った自分の手からも同じ匂いが。
 アスランは盛大に顔をしかめる、そして少し安心した。
「こういう反応が、まともってもんだろう」
 つぶやきに、ぼんやりと目を開けていたルルが、胸や肩に手を這わせてきた。
 普段は色気の欠片もない青年の突然の色香を伴った行為に、「ルル。止めるんだ。落とすぞ」と上半身を左右に降って過剰な拒絶を示すと、ルルは今度は自分の汚れた顔を触ってそれを舐め始める。
 細長く赤い舌を出して猫みたいにペロペロと。
 恍惚。
 そんな単語がぴったりの表情だった。
「何っ、しているんだっ!」
 一瞬、目が点になってしまったせいで、アスランの反応が遅れた。
 浅い小川にルルを抱いたまま入って、そこに彼を投げ出す。
「面倒だ。もう、此処まで汚れているんだから、丸洗いするぞ」
 ルルの髪を洗うアスランの手付きが、自分でも乱暴だと分かる。
 労ってやりたいのだが、加減ができない。
 手早く荒い、汚れた服を下履きごと脱がした。履いていたサンダルもだ。
 雪止け水は身を切るほど冷たい。
「少しは正気に戻ったか?」
 抱き起こそうとすると、アスランの下半身の付け根部分にルルの顔があたる。だから、急いでルルの脇に手を入れてかかえ上げようとする。しかし、なぜか、ルルはその手を避け、アスランのローブをたくし上げようとした。
「おいっ。いくらなんでも度が過ぎる。何をかがされたんだか、飲まされたんだか知らないが知らないが、正気に戻れ!」
 アスランは無理やり引き剥がした。
 力が強かったせいで、ルルが小川に仰向けに倒れる。
 それでも、ルルの性器はたけっていて見ようによってはかなり苦しそうだった。
 アスランはそこを見ないようにして、ルルの側にひざまずく。
 彼は、薄く目を開けていた。
「ルル。分かるか?僕だ」
「アスラン様の……幻だ。だって、朝には村を出て行った」
「君の目の前にいるのは、僕本人だ。幻じゃない。調査したいことがあって戻った。そしたら、君が」
 小川に浸かったまま、ルルがうめくように言った。ブルブルと身体が震え始める。
「全部、見たんですか?一体どこまで?俺、覚えていない」
「あの痴態のどこが始まりでどこが終わりなのか、僕には分からない。なぜ、あんなことが行われていたのかは、明日、聞く。もうそこから出ろ」
 アスランは先に上がり、濡れたローブの端を絞りながら言った。
 ルルが震えているのは水の冷たさなのだと思っていた。
 だが、違ったようだ。
 ルルは身体を起こすと、膝をついて、浴びるように自分の身体に水をかけ始める。
 潤んだ目も、どこか遠くにいってしまっているような目つきも治らない。
 むしろ、悪化しているような。
「早く川から上がれって。まだ春先なんだぞ、風邪を引く。看病なんてごめんだ」
「もう少ししたら、村に帰ります。放っておいてください」
「放っておけ?あんなの目にしておいて、帰せるか。それに、村にはもう君の居場所はない。僕が魔法酒場の主から君を買った」 
 すると、
「買った?」
と言いながら、卑屈な笑みをルルは浮かべた。そして、上半身を折り曲げ、水面すれすれに顔を近づける。
「そうか。俺、売り飛ばされるのか。いくらで買ったんです?おやっさんは、がめついから、金を持ってそうなアスラン様はかなりふっかけられたはず。でも、絶対に、その値段より高くは売れないですよ」
 そして、言い終わると顔全体を水の中に沈めた。
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