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第八章

160:絶対に相手に手渡しで。そして、中身は人気の無いところで一緒に開けること。

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「あっ!虹。でけえ!!」
 卒業祝いだろうか、尚の頭上に大きな虹がかかった。
 もしくは、尚を元気にしてやりたかったのかもしれない。
「じゃあ、何か仕事があったらよろしく」と尚は各社に挨拶して周り、最後に恵風と出会った野っ原の社にたどり着く。
 マメに雑草を抜いているので、辺りは枯葉一つ無いピカピカ具合だ。
 社の扉前に、護符で封がされた手紙が置いてあった。
「えっとこれは?」
 尚は耳をすました。
「これを氷雨さんと翠雨さんに渡せって?」
 厳重書類のようだ。
 護符がされていると、受け取った相手しか中を開けて読むことが出来ない。
「はっ!これ、もしかして俺の初仕事か」
 そう気づいて、尚は嬉しくなる。
 作って貰ったばかりの名刺をお供えし、おはぎも忘れずに隣に添える。
 すると、社の神様は名刺を見て子供みたいに笑い、おはぎには「美味い」とはっきりとした感想を漏らした。

「え?京都」
 二回目の仕事は、数日後に唐突にやってきた。
 氷雨の神社から引っ越しするために荷物をまとめている最中だった。
 神様学校を卒業し、正式な神様になったので、独り立ちも兼ねて新居に映ることにしたのだ。
 賃貸ではなく、持ち家だ。
 退去期限が決まっているため激安だったアパート代だって払うのを四苦八苦していた自分が持ち家!
 門前仲町の神様不動産のガラスに掲示されていたのを見て、飛びついた。
 氷雨の家に住み、翠雨の銭湯でバイトもしていたので、不幸買い取り金がそっくりそのまま残っていた。だから、現金一括での購入だ。
 今日が引っ越し予定日だったのだが。
「急ぎで向かって欲しいんだ。この荷物を持って」
 翠雨が持ってきたのは、護符が何十枚も貼られたトランクだった。
 氷雨がやってきて大判の風呂敷で取っ手以外の部分を包んでいく。
「無理そうか?」
 小首を傾げて翠雨が聞いてくる。
「氷雨さんがまだ荷物を置かせてくれるなら引っ越しは今日じゃなくても」
「悪尚の場合、荷物は数個だろ。それを氷雨と俺で運び込んでおくよ」
「助かる」
「それじゃ、行った!行った!今からだと、夕方ぐらいには京都につける」
 急かされた尚は、急いで東京駅に向かい、そこから新幹線に乗り、京都駅へと向かう。
 神位が上がれば、神様専用の社を潜ることでどににでも移動可能なのだが、エネルギー消費量が大きい。見習いという看板が取れたばかりの尚ではそれは難しく、たっぷり翠雨らから旅費も貰えたので無理する必要はなかった。
 ずっとトランクは膝の上だ。
 中身はそこまで重くはない。色々、大きさや重さの違う物が入っているようで、取っ手を掴んで移動してる最中、右に左に動いてガソゴソと音がしていた。
「これだけ護符が貼ってあるっていうことは中身は重要機密書類で、相手は大物なんだろうなあ。しかも、名前すら教えて貰えないなんて。場所は、京都の山奥の神社。その人しかいないから大丈夫だって翠雨さんは言っていたけれど」
 翠雨からは、「絶対に相手に手渡しで。そして、中身は人気の無いところで一緒に開けること。じゃなきゃ、給金発生しねえからな」ときつく言われてある。
 京都駅からは、電車とバスを乗り継ぎ向かう。
「うわ。結構な坂道だな」
 バスの終点で降りた場所は、もう山といっていいような場所だった。
 百段はあろうかというほどの石段があり、登りきると、
「あれ?」
 鳥居の奥に見えてきた本殿は、野っ原で雑草に埋もれていた社とよく似ている。
 あたりはとても静かだ。
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