【完結】神様はそれを無視できない

遊佐ミチル

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第七章

154:皆、好きだろ。人間だって。元人間だって

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「金継ぎは、漆で継いだ場所に金粉を振りかけるから、今までになかった線や模様が出来上がり元の素材を活かしつつまるで別物へと陶器の姿が変わる。そうなっちゃってもかまわないか?」
「それしか方法がねえなら」
「結構な時間もかかる。それに、皿は下部が特に細かく割れているみたいだ。まず形を作るまでが大変だ」
 尚は懐から小さく切ったタオルを取り出した。
 中には、かつて時雨が依代にしていた皿の欠片が入っている。
「この欠片、昔、とある相手の依代に使われていた。元はとある相手の大切な人の持ち物だった。でも、俺、返せなくて。とある相手も、探そうとも思ってなかったみたい」
「それってさ、思い出に変わったからじゃねえのか?」
「かもしれないけれど、何もかも飽きたのかもしれない」
「じゃあ、壊れたままでもいいんじゃ」
「それじゃあ、芙蓉さんが浮かばれないような気がして。あ、芙蓉さんはこの皿を大切にしていた人」
 恵風が欠片を尚から受け取る。
「へえ。お前ってなんか複雑」 
 そういった恵風は、始めて尚に興味を持ったというような表情をした。
「修理代、いくら払えばいい?」
「要らない。その変わり、お前のことを聞かせろよ。以前、口喧嘩して、先生に怒られたことあったろ?あのとき、後日、俺も呼び出されたんだ。卒業してからも頭でっかちは直っていないって」
「ああ、俺、毛色が違うしね」
「恵風兄ぃ。多様性、ダイバージェンスって先生言ってたよ」
と薫風が場を和ます。
「お前、色んな横文字知ってんなあ」
と恵風が笑った。
「そのうちでいいか?自分語りは苦手だ」
「皿が直るまででいい」
 尚は始めて恵風の部屋をよく見回した。 
 壁、窓の桟。木の勉強机。
「いい家だ。どこもかしこも大切にされていて」
「ボロ屋だよ。あちこち隙間だらけで、冬は寒い。皆で大切にしてきたから、なんとか残っている。あ、喉、乾いたろ」
 恵風が台所から持ってきてくれたのは、氷が浮かぶカルピスだった。
「神様、どんだけカルピス好きなんだよ」
 尚は涙を拭いながら笑う。
「皆、好きだろ。人間だって。元人間だって」
「そうだな。ああ、カルピス美味かった。ごちそうさま」
 尚は腰を上げる。
「迷わず帰れそうか」
 尚は部屋の一角に集められた皿の破片を見つめる。
「本当にこんな面倒なことを頼んでいいのか?」
「そのお題がお前の自分語りだろ。いつでもいいし」
 猶予を貰って、不思議な気持ちで帰宅した。
「変な縁だ」
 時雨、翠雨、氷雨以外を頼るのは、神様になって始めての体験だった。 
 友人めいた存在ができるのも。
 それはお互いに一時の興奮みたいなもので、すぐ冷めると思ったのだが、恵風の家に通うのは何度と無く続いた。
 大抵、金継ぎのために皿の欠片とにらめっこしている恵風を邪魔しないように、薫風の面倒を見るのが尚の役目で、ある時、薫風が帰宅早々寝てしまった。
 なんとなく、今日なら恵風に自分語りをしてもいいんじゃないかという気になってきて、「恵風。作業しながら聞いてくれ」
と尚は願い出た。
 新興宗教二世であること、腎臓と左の眼球を献金代わりに母親が差し出したこと。
 極貧の暮らしてきてその最中に時雨と出会ったこと。そして、人間時代に二人刺し、その罪を償わず神様になったこと。
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