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第七章

153:アイス買った。アイスー!

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 コンビニ袋を持った青年が立っていた。嫌な予感がする。
「恵風兄ぃだよ」
と薫風が元気よく答える。
 尚は顔をそむけて呟いた。
「うえええ。兄弟なのかよ」
 以前、片目野郎といちゃもんつけてきた性格の悪い奴だ。
 恵風とは 万物に恵みをもたらす風という意味なのだが、今の尚にはトラブルしか感じない。
 恵風が薫風に耳打ちすると、彼は懐を探し始めた。目当てのものがあったのか、恵風に向かってうんと頷く。
 恵そして、風に手助けされながら、薫風がフェンスを乗り越えて側にやってきた。
 そして、「兄ぃ。これ」と言ってハンカチを手渡してくる。
 意味がわからず首を傾げていると、「お前、大丈夫?」と恵風に聞かれた。
「何が?」
「何がって涙」
 拭ってみて始めて気づく。
「ああ。本当だ」
 ---泣いていた。
「何してんの、こんなとこで?俺らはコンビニに行った帰りなんだけど」
「アイス買った。アイスー!」
と薫風が尚を元気づけるように、にこにこ笑う。
「俺は、社の巡回。年末の掃除リストから漏れてたみたいで、慌てて草を刈ってて」
「社?どこに?」
 そう言われて、あっちと指差すが、
「あれ?屋根っぽいのが見えたはずなんだけれど。いろいろ有りすぎて、疲れてんのかな。帰るわ」
 尚が立ち上がると、薫風が「兄ぃ。忘れ物」と言って、破片が擦れ合う音がする袋を渡してきた。
「ここらへんの燃えないゴミは今日じゃないぜ」
 恵風が言ってくる。
 生真面目な性格らしい。
 だから、超特例で人間から神様になった尚の存在も認められないのだろう。
「いや、不法投棄しにきたわけじゃない。大切な皿なんだけど、俺が壊しちゃって。どうにかして直さないとって途方に暮れてたとこ」
 すると、恵風が袋に顔を突っ込むように覗いてくる。
「これ、陶器だろ?金継ぎすりゃあ、いい。漆と金粉を使って直すっていうか、模様ができるから、元を生かした別物を作る。古来からの技法だ」
「SDGsだよ!」
と薫風が尚にまとわりつきながら教える。
「SDGsか。薫風、かしけえな。教えてくれてありがとうな。恵風。金継ぎっての調べてみる。氷雨さんあたりがやり方をたぶん知ってんだろ。じゃあ、あんたともまた学校で」
 尚が歩き出すと、恵風が腕を取って引き止めてきた。
 何なんだ、こいつは。
 さっきから妙に親切だ。
「お前、ほんと、平気?」
「え?」
「んな、迷惑そうな顔すんなって。俺だってしつこくしたいわけじゃない。お前、右目から涙止まらねえみたいだから。よかったらウチ来いよ。近くだから」
と言った。
 恵風は、そのまま尚を自分の家まで連れて行ってくれた。
 皿の欠片を机の上にジグソーパズルのように並べて、薫風と一緒になってどれとどれがくっつくのか試している。
 兄弟って感じだ。
 宿主は和菓子屋を経営しているようで、一階の店舗もニ階の住居も古い和風建築で歴史を感じさせる。
 尚の事は、部屋で黙って放置してくれて、その適度な無関心さに救われた。
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