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第七章

148:片目野郎って陰口言われるほど、いい仲だけど

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 芙蓉に新年の挨拶をしなければと思ったのだ。
 締め切られていた扉が開かれたとはいえ、自分の骨壷がお邪魔しているからさぞかし邪魔だろうなと思って謝りたかったのもある。
「芙蓉さん。明けまして……あれ、ねえわ」
 白い骨壷がこつ然と姿を消していた。
 尚は、「ああ。そういうこと」と言いながら時雨が抱きしめている永代供養のパンフレットを抜き取る。
「俺の遺骨を納めに行ってくれたのか。んで、荒れたと」
 尚は再び芙蓉の仏壇に向きう。
「困ったもんだよなあ、俺の好きな相手は。どう思う、芙蓉さん?」
 芙蓉に向かって社の神様に話しかけるみたいにした後、新年の挨拶を改めてちゃんとし、座敷へと向かった。
 夏は蚊帳を吊り空気の通りをよくしていめ襖を全開にしてたが、今はストーブの暖かい空気が逃げてしまうので締め切っている。襖を開けると案の定、寝具が乱れていた。
「敷布も枕カバーもいつ変えたんだ?」
 尚はそれを剥ぎ取って押し入れから新しいのを出し布団を整える。
 そして、気合いを入れた。
 コタツまで戻ってしゃがみ込む。
「時雨さん。布団行こう」
 目覚めないことは分かっていたので、コタツから引きずり出し、両腕に抱え上げた。
 激しい振動にようやく時雨が目を醒す。
「あれ?尚??じゃなくて、疎雨」
 よほど動揺したのだろう。昔の名前を時雨が呼ぶ。
「明けましておめでとうございます」
「何してるの?呼んだ覚えは無いんだけど」
「暴れんなって。落ちる。用が無ければ来るなって言われていたけれど、三が日の挨拶は用の内じゃ駄目?」
 尚は、「よっ」と掛け声をかけて時雨をしっかり抱きかかえる。
「いつの間に、こんな力……」
 時雨はまるで他人を見るような顔つきだ。
「時雨さん痩せたなあ。着物越しでも肋骨が俺の指にごりごり当たる」
「もう帰っていいよ。せっかくの正月だ。遊んだりすればいい」
「もう三が日ですけど?」
「嘘?!」
「ってことは、年内に気の重いことを済ませて、あとは寝正月?」
 座敷まで行った尚は時雨を布団に転がす。
「永代供養までしてもらって何だけど、俺はここにいるんだけど」
「そうだね。でも、人間だった尚の息の根を止めたのは僕だから」
「それで、時雨さんの気が済むならいいけれど」
 まあ、一生済まないんだろうなと尚は心の中で思う。
「神様学校どう?呼び出しが二回も来てたけれど」
「まあまあ」
「まあまあって、思春期の中学生みたいな言い方」
「今日は怒んねえの?そんな、言葉遣い駄目って!」
「もういいよ。内と外の使い分けは三ヶ月もあればわかっただろうし。ねえ、後見神として聞くけれど、友達できた?あと、その気になる相手とか……」
「友達?ちっこいのの面倒はみているけれど」
「彼らを送り迎えする後見神がいるでしょ。疎雨と見た目が同じぐらいの」
「片目野郎って陰口言われるほど、いい仲だけど」
「尚……」
 また、時雨がまた昔の名前で呼んだ。
「翠雨さんが言っていた。いろんなのとくっついたり離れたりしながら、最後にはずっと添い遂げる相手を見つけるんだって。俺はその話を聞いたとき、真っ先に時雨さんの顔が思い浮かんだ」
「誰とも付き合わないうちからそんな決めつけ、おかしい」
「俺の神位が低すぎて恥ずかしい?だったら、なんとかして釣り合うようにする」
「そういうことじゃないんだ」
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