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第七章

141:ラブマ神らしいよなあ、ああいうとこ

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「返事は?」
「……はい」
「ふてくされない。これから、尚に神様名を与えるから。本当は代々的にやってあげたいけれど、今は僕がこんな調子だから。簡易的な命名の儀で悪いね」
 時雨が、急に尚の手を取った。
 優しい接触にどきりとする。
 額にふっと息が吹きかけられた。
「神様名は疎雨(そう)」
「疎雨……ですか?」
「まばらにポツポツ降る雨という意味」
 時雨が付けてくれた名前だ。
 嬉しい。
 雨の一文字も入っているし。
 でもやっぱり、競馬場や甘味処へ行ったり、一緒の布団で寝た時雨とは別人みたいに感じてしまう。
「気に入らない?そのうち慣れるよ。名前が決まれば、住民票が作れる。銀行口座も、クレジットカードも携帯の契約も。それの同行は翠雨に頼んで。神様学校関連は氷雨に」
「時雨さんは?」
「救世教団が壊滅したわけじゃないから、しばらくはその調査に駆り出される。上だってこんな大事になるとは思ってなかっただろうし。教祖がどうやって尚の、あ、いや、疎雨の再来を知ったのか調べなきゃならない。人間時代の疎雨にすでに神様ノートを破く力があって、おまけに再生、読解もできていた理由もね」
「俺も、そっちを手伝いたい……です。だって、俺の問題だし」
「見習いに何ができる?一丁前になりたければ免状を取って」
 時雨はつれない。
 どこで自分は嫌われてたのだろう、と尚は思った。
 いや、時雨は後悔していて、それがこういった態度に現れているのだろうか。
 それとも立場が邪魔をしている?
「これから、注意事項を言う。よく聞いて。免状を貰って、晴れて本物の神様って名乗れる。だから、見習い期間中は、きちんと見習いと名乗ること。時間がかかってもいいから打ち込める仕事を探すこと。神様学校では積極的に友好関係を築くこと。君はその手のスキルが陥没している。返事」
「はい」
「僕から伝えたいことは以上。当面の住まいは氷雨のところで」
「はあ?」
 するとすかさず時雨が尚の頬を指で押さえてくる。
「ケジメ」
「……」
 これじゃあ、まるで犬の躾だ。
 こんな人、時雨ではない。
 時雨の姿をした他人だ。
 尚は、時雨の手を振り払って、無言で立ち上がる。
 数歩、廊下を歩くと、「忘れ物っ」と時雨が神様学校の入った封筒を床に滑らせてきた。

 清澄通りと永代通りが交差する辺りは、門前仲町の一番の繁華街だ。
 尚は、老舗の天丼屋で遅めのお昼を食べていた。
 周りの客が食べている丼は、大きなエビがはみ出して反り返っていて、れんこんやかぼちゃや茄子など具材で溢れている。秘伝のタレも甘めで美味しそうだ。
 この店に誘ってくれたのは、翠雨。そして、氷雨だ。神様として生きていくために、必要な手続きを先程まで手伝ってくれた。
「ラブマ神らしいよなあ、ああいうとこ」
 翠雨がゲラゲラ笑っている。
「過保護」
と氷雨が冷たく言う。
 疎雨の名で、門前仲町神様市役所で住民票を、神様銀行門前仲町支店で口座を、神様クレジットカードに申し込みをし、携帯電話も作った。
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