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第六章
125:……時雨さん。俺、そんな……。どうしてっ?何でだ?!刺したのは教祖なのに
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皆、星天祭で教祖に会えることしか考えていないのだ。本部の寮に身を寄せても、教祖の居場所は非公開なので偶然会えることはほぼ無く、在家信者にいたっては、生教祖を見られるのは星天祭のときのみだ。
しばらく走ってようやく大ホールにたどりつく。
十万人が収容できる巨大ホールはすでに信者でいっぱいだ。空き席を見つけるのも難しいぐらいだった。
壇上手前にはオーケストラも待機している。
司会は有名な芸能人。ミュージカルあり、芸人の漫才あり、ビンゴあり。生オーケストラがいちいちバックミュージックを奏でたりとエンターテイメントとしては一流だ。
しかし、この巨大なホールの維持費も、ミュージカルなどの模様し物も生オーケストラを呼ぶ費用も信者の献金から出ている。
やがて、司会が出てきて星天祭が幕を開けた。
宗教施設なのにイベント会場みたいに風船が上がり、クラッカーが鳴らされる。
壇上にグレーのスーツ姿の教祖が出てきて、尚は最後列の席で深呼吸した。
とうとうこの日がやって来た。
脱会してから十数年、ずっと夢見てきた。
それだけが生きがいだった。
尚は鞘を投げ出し、むき身の短刀ですり鉢状になっている階段を駆け下りていく。
「うおおおおおっ」と声を上げて壇上に飛び上がった。
教祖がいる。
目の前に教祖が。
俺の腎臓と眼球を奪い、脱会後も苦しめ続けた男が。
尚は、止めようと近づいてくるスタッフに闇雲に刃物を振りながら教祖に近づいていく。
そして、息がかかるぐらいの距離まで近づくと、躊躇なく刺した。
腹の肉がナイフを押し返してくる。
だから、憎しみを込めて身体の奥深くへ押し込んでやった。
「うっ」
醜く歪む老人の顔を見るのが最高に嬉しい。
多分、人生で生きてき一番に。
そうじゃなくてはならない。
他が一番であってはならない。
腹に刺さった刃物を内臓をえぐるように回転させる。
絶対にこいつが生き残ることのないようにしてやるのだ。
刃物を抜くと、教祖は腹を押さえる。
白い浴衣に血が広がっていく。
「浴衣?!」
尚は叫んだ。
こいつはさっきまでグレーのスーツを着ていたはずだ。
それに、刺された痛みで折られた身体は長身。
手にはカードが握られている。
「致命傷を与えてみて、気は済んだ?」
「……時雨さん。俺、そんな……。どうしてっ?何でだ?!刺したのは教祖なのに」
尚は半狂乱になった。
「言ったでしょ?教祖はもう死んだって」
一度、ホール全体の明かりが消え、再び点いたときには、席に埋め尽くされていた信者は綺麗さっぱり消えていた。
血液が大量に流れ出し青白い顔をしている時雨が尚の顔を見ながら、震える手で神様スタンプを開いた。
「やっぱりドクロマークに変化はないね。一瞬でも変化があったのなら、幻影を続ければいいかと思ったんだけど」
時雨の脇腹からは、ダクダクと血が流れ出す。
尚はその部分を手で押さえた。
「時雨さん、早く!病院に!」
「人間みたいに本当に痛いわけじゃない。痛みとしてインプットされているだけ。だって街中で大怪我して平然と歩いていたら、人間じゃないってばれちゃうからさ」
「でも、痛いことには変わりないんだろ!早く病院に」
気がつけば、無人のホールすら消え去っていた。
辺りには闇が広がっている。
しばらく走ってようやく大ホールにたどりつく。
十万人が収容できる巨大ホールはすでに信者でいっぱいだ。空き席を見つけるのも難しいぐらいだった。
壇上手前にはオーケストラも待機している。
司会は有名な芸能人。ミュージカルあり、芸人の漫才あり、ビンゴあり。生オーケストラがいちいちバックミュージックを奏でたりとエンターテイメントとしては一流だ。
しかし、この巨大なホールの維持費も、ミュージカルなどの模様し物も生オーケストラを呼ぶ費用も信者の献金から出ている。
やがて、司会が出てきて星天祭が幕を開けた。
宗教施設なのにイベント会場みたいに風船が上がり、クラッカーが鳴らされる。
壇上にグレーのスーツ姿の教祖が出てきて、尚は最後列の席で深呼吸した。
とうとうこの日がやって来た。
脱会してから十数年、ずっと夢見てきた。
それだけが生きがいだった。
尚は鞘を投げ出し、むき身の短刀ですり鉢状になっている階段を駆け下りていく。
「うおおおおおっ」と声を上げて壇上に飛び上がった。
教祖がいる。
目の前に教祖が。
俺の腎臓と眼球を奪い、脱会後も苦しめ続けた男が。
尚は、止めようと近づいてくるスタッフに闇雲に刃物を振りながら教祖に近づいていく。
そして、息がかかるぐらいの距離まで近づくと、躊躇なく刺した。
腹の肉がナイフを押し返してくる。
だから、憎しみを込めて身体の奥深くへ押し込んでやった。
「うっ」
醜く歪む老人の顔を見るのが最高に嬉しい。
多分、人生で生きてき一番に。
そうじゃなくてはならない。
他が一番であってはならない。
腹に刺さった刃物を内臓をえぐるように回転させる。
絶対にこいつが生き残ることのないようにしてやるのだ。
刃物を抜くと、教祖は腹を押さえる。
白い浴衣に血が広がっていく。
「浴衣?!」
尚は叫んだ。
こいつはさっきまでグレーのスーツを着ていたはずだ。
それに、刺された痛みで折られた身体は長身。
手にはカードが握られている。
「致命傷を与えてみて、気は済んだ?」
「……時雨さん。俺、そんな……。どうしてっ?何でだ?!刺したのは教祖なのに」
尚は半狂乱になった。
「言ったでしょ?教祖はもう死んだって」
一度、ホール全体の明かりが消え、再び点いたときには、席に埋め尽くされていた信者は綺麗さっぱり消えていた。
血液が大量に流れ出し青白い顔をしている時雨が尚の顔を見ながら、震える手で神様スタンプを開いた。
「やっぱりドクロマークに変化はないね。一瞬でも変化があったのなら、幻影を続ければいいかと思ったんだけど」
時雨の脇腹からは、ダクダクと血が流れ出す。
尚はその部分を手で押さえた。
「時雨さん、早く!病院に!」
「人間みたいに本当に痛いわけじゃない。痛みとしてインプットされているだけ。だって街中で大怪我して平然と歩いていたら、人間じゃないってばれちゃうからさ」
「でも、痛いことには変わりないんだろ!早く病院に」
気がつけば、無人のホールすら消え去っていた。
辺りには闇が広がっている。
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