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第六章
120:さっきは、大騒ぎしてごめん。神様ノートが破れたせいで十日分の記憶が飛んでて
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「平気?」
「たぶん」
「五日前はね。尚は時雨の神社に行って、確か、茄子とプチトマトの収穫を手伝わされて、その後はみんなで花火をしたんだ。翌日は、僕と銭湯に行った後、四人で昼ごはんにうなぎを食べに行って、その後、プール。その頃からかなあ、尚が眼帯を気にしなくなったのは」
尚は時雨に手を引かれて廊下を歩きながら、もう片方の手で左目を抑えた。
黒いウレタンの眼帯も、翠雨から貰った医療用の白い紙の眼帯もしてない。
先程、そのことに気づいていて、なのに衝撃の事実が次々と明かされるから眼帯をすることを忘れて……。
「俺……」
他人の前で眼帯を外して、長い時間平気でいられるなんてありえないことだと思っていたのに。
「素顔を晒せている」
「そうだね」
時雨が微笑みながら視線を注いでくる。
「だから、尚ってすごいんだよ」
褒め言葉がくすぐったかった。
居間には翠雨と氷雨が座っていた。
座敷テーブルの上は唐揚げやらナポリタンやら大皿でいっぱいだ。
「途中だったの作っといたぜ」
と翠雨。
「ありがとう。残りは僕が」
と時雨は言って、尚を座らせると台所へ行ってしまう。
しばし、沈黙。
氷雨は野球中継を見ているし、翠雨は取皿を並べるのに忙しい。
「あの……」
尚が言うと、氷雨がテレビを止め、翠雨が尚の前に取皿と箸を置いた。
「さっきは、大騒ぎしてごめん。神様ノートが破れたせいで十日分の記憶が飛んでて」
「気にすんなって。悪尚の場合は、毎回が大騒ぎなんだから」
「そうかな?」
人生の主役みたいな役柄、回ってきたことは無いはず。
「この翠雨さまが言ってんだからそうなんだよ」
と翠雨がふざけて尚の肩に手を回してきて身体を揺さぶってきて、座敷テーブルの前に座らせられた。その合間に氷雨が近づいてきて、何をされるのかと思っていたら、
「……っ」
デコピンされた。
しかも、強烈なやつ。
「お前、十日分の記憶が飛んだってことは、俺が出してやったカルピスの味すら忘れてたんだな?」
「思い出しましたって。すごく濃かった」
「一瞬でも忘れていたなら、重罪」
「……そっか」
「おい。深刻に取るな」
うつむいた尚に氷雨は少し焦ったようだ。
「記憶が無くなるのって、悲しいし寂しいな」
先程想像はした。
でも、ようやく時雨の気持ちが心底分かってのは今だ。
尚は台所に向かった。
身体が先程よりさらに重い。
体調不良とはまた違うしんどさだ。
時雨は、浴衣を白い紐でたすき掛けした状態でキッチンで何か作業していた。
まだ出す料理があるらしい。
「時雨さん」
「尚、向こうで待っていてくれてもいいよ。それに、声に元気がない。少し疲れが出ているんじゃない?狭間は急速にエネルギーを奪う場所だから。神様だって疲れるぐらい」
「……時雨さんってば」
「どうしたの?」
「たぶん」
「五日前はね。尚は時雨の神社に行って、確か、茄子とプチトマトの収穫を手伝わされて、その後はみんなで花火をしたんだ。翌日は、僕と銭湯に行った後、四人で昼ごはんにうなぎを食べに行って、その後、プール。その頃からかなあ、尚が眼帯を気にしなくなったのは」
尚は時雨に手を引かれて廊下を歩きながら、もう片方の手で左目を抑えた。
黒いウレタンの眼帯も、翠雨から貰った医療用の白い紙の眼帯もしてない。
先程、そのことに気づいていて、なのに衝撃の事実が次々と明かされるから眼帯をすることを忘れて……。
「俺……」
他人の前で眼帯を外して、長い時間平気でいられるなんてありえないことだと思っていたのに。
「素顔を晒せている」
「そうだね」
時雨が微笑みながら視線を注いでくる。
「だから、尚ってすごいんだよ」
褒め言葉がくすぐったかった。
居間には翠雨と氷雨が座っていた。
座敷テーブルの上は唐揚げやらナポリタンやら大皿でいっぱいだ。
「途中だったの作っといたぜ」
と翠雨。
「ありがとう。残りは僕が」
と時雨は言って、尚を座らせると台所へ行ってしまう。
しばし、沈黙。
氷雨は野球中継を見ているし、翠雨は取皿を並べるのに忙しい。
「あの……」
尚が言うと、氷雨がテレビを止め、翠雨が尚の前に取皿と箸を置いた。
「さっきは、大騒ぎしてごめん。神様ノートが破れたせいで十日分の記憶が飛んでて」
「気にすんなって。悪尚の場合は、毎回が大騒ぎなんだから」
「そうかな?」
人生の主役みたいな役柄、回ってきたことは無いはず。
「この翠雨さまが言ってんだからそうなんだよ」
と翠雨がふざけて尚の肩に手を回してきて身体を揺さぶってきて、座敷テーブルの前に座らせられた。その合間に氷雨が近づいてきて、何をされるのかと思っていたら、
「……っ」
デコピンされた。
しかも、強烈なやつ。
「お前、十日分の記憶が飛んだってことは、俺が出してやったカルピスの味すら忘れてたんだな?」
「思い出しましたって。すごく濃かった」
「一瞬でも忘れていたなら、重罪」
「……そっか」
「おい。深刻に取るな」
うつむいた尚に氷雨は少し焦ったようだ。
「記憶が無くなるのって、悲しいし寂しいな」
先程想像はした。
でも、ようやく時雨の気持ちが心底分かってのは今だ。
尚は台所に向かった。
身体が先程よりさらに重い。
体調不良とはまた違うしんどさだ。
時雨は、浴衣を白い紐でたすき掛けした状態でキッチンで何か作業していた。
まだ出す料理があるらしい。
「時雨さん」
「尚、向こうで待っていてくれてもいいよ。それに、声に元気がない。少し疲れが出ているんじゃない?狭間は急速にエネルギーを奪う場所だから。神様だって疲れるぐらい」
「……時雨さんってば」
「どうしたの?」
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