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第六章

112:どうして、君の復讐は終わらないんだ?

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 カチンとスイッチが切られるような音がまた遠くでした。
 舞台が暗転。
 気がつけば尚と浴衣の男だけが立っていた。細身だが長身。彫りの深い顔立ちになのに不思議と和装がよく似合う。
 振り上げた短刀を突きつける肝心な復讐相手は忽然と姿を消していた。
「どこだ、ここ。あんたは誰だ」
 尚は焦る。
 すると、浴衣の男が腕組みする。
「僕は時雨。また忘れちゃった?」
「あんたみたいな知り合いはいない」
「案の定、またあんたか」
 時雨と名乗った男は、ふっと寂しげに笑う。
 なぜ、そう笑うのか尚には解らない。
「ここから出せ?そもそもどこなんだ?」
「狭間。簡単に言えば、人間の世界と神様の世界の境目だ。どこにも属していない」
 尚は時雨に短刀を突きつける。
「早くここから出せ。俺は教祖を殺しに行かなくちゃならない。星天祭が終わる前に絶対に」
「僕がここに連れてきたわけじゃない。上の判断」
「上?」
「僕よりも偉い神様たち」
 尚は瞬時に噛みつく。
「あんたも新興宗教の人かっ!冗談じゃないっ!」
「そんなやり取りもしたねえ」
 時雨が半笑いで腕組みをし、暗闇の天井を見上げた。
「覚えがない。適当なことを言うな。いいからここから出せ」
「出てどこにいく?星天祭は開催半ばで終わった。それは、教祖が他の青年に殺されたからだ」
 尚は、何言ってんだ、こいつと思いながら時雨を見つめた。
 教祖が死んだ?
 あの男が?
 自分にそんな記憶はないのに、「もう終わったんだ」という時雨は先程まではまるで現場にいたかのように言う。
 それは、教祖の関係者だからか?
 もしくは信者だから?
 だったら、こんなに風に悲しげに立っていられるはずがない。
 もっと取り乱すはずだ。
 しばらく沈黙があった。
 ようやく時雨が声を詰まらせながら言った。
「どうして、君の復讐は終わらないんだ?」
と。 
「一回目は間に合わなかった。二回目は見守るしか無かった。三回目を望んだところで、肝心の復讐相手が死んでいる。本当に君は何をしたかったんだ?復讐をやり遂げたところで、献金代わりに使われた君の腎臓も左目も戻ってこない」
 尚は言い捨てる。
「俺は、復讐に成果をなんて求めていない」
「君はただ、復讐したいだけ?」
「そうだよ。片時も忘れたことはない。それだけが生きがいだった。あんたには理解できない。理解してもらおうとも思わない」
「僕は君じゃないから、理解してやれない。でも、片時も忘れたことはないっていうのは嘘だって分かるよ。だって、僕は君と十日間、一緒の時間を過ごした」
「俺が他人と十日も?あんた、本当に何者なんだ?」
「本物の神様」
「本物。はは、偽物の神様に人生を弄ばれた俺の目の前に本物が現れたって?今更、何の用だ?」
 尚はせせ笑う。
 すると、時雨は尚を見つめてくる。
「救いに来た」
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