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第六章

109:出てこい!

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 それに、目立ちたがり屋のあの男のことだ。両眼を捧げるいう信者の願いを一世一代の偽神の晴れ舞台と思って絶対にこの場に出てくる。
「お会いさせてください。ここで。僕の目が見えるうちに」
 尚の叫びは虚しくリクライニングの椅子が倒される。
 手術着を着た者らが四名ほどやってきて、尚を取り囲む。
 その隙間からカメラが覗き込んでいた。
 まず左目の眼帯が外される。
 そして、手術着の男が、右目を無理やり開いてきた。
 鉗子のようなよくわからない器具がたくさん入った銀色のトレーがそばに置かれる。
「みなさん。ここで手術をするわけではありませんよ。ちゃんと手術室で行われます。両眼を救世教団に捧げる若者の奇跡の瞬間をみんなで見届けましょう」
『お礼を言ってください』
 尚はアナウンスに逆らった。
「一目教祖様に!一目だけでも。お願いします。お願いします」
 雰囲気に酔ったのか、尚の右目から涙が勝手に溢れ出す。
 どうした。偽神。エセ教祖!
 最高の場を用意してやったぞ。
 出てこい!
 出てこい!!
 出てこい!!!
 短刀の入ったリュックはない。
 身体にだってまだ力が入らない。
 だが、やるしか無い。
 刃物が無いなら、手で。
 あの男が出てきたら首を絞めて殺してやる。
 やがて、ホールの空気が引き締まった。
 車いすに乘せられて壇上に表れたのは、教祖本人だった。
 その姿に、悲鳴やどよめきがあがる。
「悪魔とね。戦ったものでね」
 教祖は観衆を沈めるように軽く手を上げた。
 声はしゃがれているが案外しっかりしていた。
 そして、尚にだけ分かるように、ギリッとした目で睨んでくる。
 この男は、尚に以前、刃物で刺されたことを覚えている。
 そして、自分もそれを。
 互いに一万人の信者の前で、教祖と元信者という演技をしている。実際は、殺される者と殺す者だ。
「尚さん。教祖様は悪魔と戦いこのようなお身体でも壇上に出てきてくださった。もう満足されましたね?」
 尚は無視する。
「教祖様。どうか抱擁を」
 すると教祖は周りに目配せした。警戒しろと促したようだ。
「なら、足元に膝まづかせてくださいっ。もう、お姿も見ることが出来なくなるのですから」
 片目から涙を流しながら言ったのが効果的だったようだ。
 男が寄ってきて、尚をその場にひざまづかせた。
 この男を振り払って、大股で駆けよれば、
 一歩、
 二歩、
 三歩。
で教祖の、いや、偽神の首まで手が届く。
 立ち上がろうとした瞬間だった。
 銀色の狐がホール後方から一目散に駆けてきて、鋭い鳴き声を上げる。
 飛騨の教団本部でコンと名乗った狐だ。
 白猫と一緒にドクターヘリにこっそり乗り込んできたことまでは覚えていた。まさか、星天祭のホールにまでついてきていたとは。
 人間の言葉なんて絶対に喋るなよ、と尚は心の中で思った。
「奇跡だ。こんなところに銀狐が」
と誰かが叫び、
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