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第五章

90:三本目もすごいのに。あっ、あっ、ああって

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 時雨が尚の側に寄ってくると、持っている紙袋の中で陶器がぶつかる音がする。
「これ、何?っていうかどこに行って来たんだ?社から出てきたってことは、時雨さんのもともとの世界?」
「そう。天界というところ。その後、寄る場所もあってね」
「それ、持とうか?」
「いいの。骨壷だよ?」
「芙蓉さんの?」
「ううん。仕事関係者の。芙蓉さんは十年前にお墓に納めているよ」
「そうなんだ。仏壇見ちゃったときに、欠けたお皿を飾っていたから何となく気になって。よく分かんないけど。その……ごめん」
「宿に行こう」
 時雨がそう言って歩き出すものだから、尚の感想は無視されたのかと思ったのだが、
「ありがとうね。気にしてくれて」
と後出しで言われた。
「そういう言い方はずるい」
「え?そう?」
「あと、さっき、携帯で時間を見たときで深夜を回っていた。ということは、三日目だぞ。時雨さんがやってきたのは」
「ごめんて。お風呂入ろう」
「何でそうなるんだよ」
「だって、さっき尚の身体を掴んだら冷たかったから。夜の森は夏でも冷える」
 差し出された手を、五本の指を絡めて握る。
 宿まで交互に持った紙袋の中の骨壷の蓋が、歩く度にカタカタと鳴っていた。
 天界経由で骨壷を取りに行く仕事って何なんだろう?
 聞きたいのだが、説明を受けても尚は人間で時雨が神様だという溝がはっきりするだけだ。
 静かに宿に戻った。
 すでに翠雨と氷雨の部屋の扉はしまっていた。激しい声は聞こえてこないので、眠ってっているのかもしれないし、声を押さえて、男同士の営みをしているのかもしれない。 
 あの翠雨が時雨に組み敷かれている姿がばっと浮かんで、それが自分と時雨に入れ替わった。
「どうしたの?」
 ひとしきりグランピングの宿の内部を見終えた時雨が、なかなか風呂場にやってこない尚を誘いにくる。 
「お湯を張って一緒に浸かろうよ」
 時雨はさっさと浴衣を脱いで下着姿になる。
「俺は、後でいい」
 尚は先程の想像、いや妄想にうろたえ、時雨の誘いに後退りする。
 妄想の中で、時雨は随分なことを尚にしてきた。そして、尚もそれを喜んだ。もっとっとせがむぐらいに。
「どうして?銭湯だって一緒に行ったのに」
「あれは公共の場だろ?」
 時雨が尚の側に寄ってきて、着ていたTシャツを脱がしにかかる。
「公共の場じゃなかったら何?」
「答えづらい質問をするな」
「入ろうよ。今からが僕らの旅行の時間」
「来るの遅すぎだって。それに時雨さんは疲れてるみたいだ。俺に構ってないで早く寝……」
 いきなり抱き締められて尚は言葉を失った。
 時雨が哀れな者でも見るような表情で尚を見つめていたからだ。
「何、その顔?」
「二日も離れてたから、寂しくて」
「それは俺のセリフ」
「送ったキス動画。僕も聞いたよ」
「僕もってなんだよ」
「尚も当然、聞いたと思って。どうだった?」
「一本目と最後のしか聞いてない」
「三本目もすごいのに。あっ、あっ、ああって」
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