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第五章
85:お前、あそこの扉を潜ったらお終いだからな。人間じゃなくなる。誘われたって絶対に駄目だぞ
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完璧な半円ではないのだが、光の加減により輝き方が変わって美しい。
「うわあ、ありがとうございます」
すると、また虹の彩りが変化する。
いいなあ、こういうのと尚は心底思った。
これまで信じさせられてきた神様の教えは、献金しなければ幸せになれない、不幸になるというもので、金やそれに変わるものが無ければ労働力などが引き換えだった。
でも、本物は違う。
小さな感謝に小さな喜び。
持ちつ持たれつの共存に心が温かくなってくる。
「バームクーヘンの切れ端みたいだな」
と氷雨が独特の感想を述べた。
グランピング施設に向かって戻りながら、残りのおにぎりを食べる。
海苔がしんなりして独特の塩気があり、空気の旨さもあって最高だ。
中に入っていたのは大きな焼き鮭で、ピンク色に焼けた身がごはんととてもあう。
「贅沢な気分になる」
「だなあ」
翠雨が木々が作る枝と葉の天井を見上げながら言い、氷雨はごくごく水筒の中身を飲んでいる。
三人は周りから見たら、トレッキングを楽しむただの旅行者。
でも、二人は神様で、もう一人は胸中で悪魔も眉を潜ますようなことを考えている。
食事を終え、再び歩き出す。
「帰ったら何する?」
尚が聞くと翠雨が、お前、正気か?という顔をした。
「何って、朝飯だろ?確か、八時までだから」
「まだ、食べるの?」
「当たり前だろ!ここの絶品プレーンオムレツを食べないと帰れねえわ」
翠雨が足を早める。氷雨はもっと先を行っていた。
二人に続きながら尚は歩いていたのだが、妙な気配を感じて振り向いた。
「あれ?あんなところにも社がある。ねえ、翠雨さん、氷雨さん。こっちはいいの?」
見落としようのない場所に、今まで見てきた朽ちた社とは違う美しい白木の社があった。
真新しく立派だ。
雲を表しているのか、金の綿菓子のようなデザインが扉にされている。
「え?お前見えるのか?」
翠雨が仰天した表情で戻ってきた。
氷雨はじっと尚を見つめている。
「ヤバかった?まさか、見えちゃったら死ぬとか?」
「ありゃあ、神様が地上と天界を行き来するための社で、普通の人間には見えない。オレらと一緒にいすぎたせいなのかな?」
「じゃあ、見なかったことにしとく。それにしても綺麗だね」
「綺麗だからといって、お前、あそこの扉を潜ったらお終いだからな。人間じゃなくなる。誘われたって絶対に駄目だぞ」
「誰が誘うんだよ」
「オレらみたいに、いい神様だけじゃないってこと。私利私欲で人間を誘って不完全な神様を作り出しちまうのもいるからさ」
尚は何度も振り返りながら、その場を後にした。
翠雨と氷雨は尚をもうあの社に遭遇させないというように、急に曲がったりやけに険しい道を歩いたりとする。
グランピング施設にたどり着いたときには、膝がガクガクしていた。
朝食になんとか間に合い、絶品プレーンオムレツを食べ、翠雨と氷雨はまた川釣りへ。
彼らを二人きりにしてやりたいというのもあったが、尚は先程の社がどうしても気になったので別行動を取ることにした。
部屋で少し休んでから、グランピング施設のフロントで詳細な地図をコピーしてもらい再び先程の山へと入る。
しかし、どうやっても社にはたどり着けなかった。
狐につままれような気分で宿に戻る。
十五時前に翠雨と氷雨が戻ってきて、おやつと称して串刺しになった焼き魚を尚にくれた。インパクト大の豪快なおやつだ。つぶやきとともに写真を載せたら、いいねがいっぱい貰えそうだ。
「うわあ、ありがとうございます」
すると、また虹の彩りが変化する。
いいなあ、こういうのと尚は心底思った。
これまで信じさせられてきた神様の教えは、献金しなければ幸せになれない、不幸になるというもので、金やそれに変わるものが無ければ労働力などが引き換えだった。
でも、本物は違う。
小さな感謝に小さな喜び。
持ちつ持たれつの共存に心が温かくなってくる。
「バームクーヘンの切れ端みたいだな」
と氷雨が独特の感想を述べた。
グランピング施設に向かって戻りながら、残りのおにぎりを食べる。
海苔がしんなりして独特の塩気があり、空気の旨さもあって最高だ。
中に入っていたのは大きな焼き鮭で、ピンク色に焼けた身がごはんととてもあう。
「贅沢な気分になる」
「だなあ」
翠雨が木々が作る枝と葉の天井を見上げながら言い、氷雨はごくごく水筒の中身を飲んでいる。
三人は周りから見たら、トレッキングを楽しむただの旅行者。
でも、二人は神様で、もう一人は胸中で悪魔も眉を潜ますようなことを考えている。
食事を終え、再び歩き出す。
「帰ったら何する?」
尚が聞くと翠雨が、お前、正気か?という顔をした。
「何って、朝飯だろ?確か、八時までだから」
「まだ、食べるの?」
「当たり前だろ!ここの絶品プレーンオムレツを食べないと帰れねえわ」
翠雨が足を早める。氷雨はもっと先を行っていた。
二人に続きながら尚は歩いていたのだが、妙な気配を感じて振り向いた。
「あれ?あんなところにも社がある。ねえ、翠雨さん、氷雨さん。こっちはいいの?」
見落としようのない場所に、今まで見てきた朽ちた社とは違う美しい白木の社があった。
真新しく立派だ。
雲を表しているのか、金の綿菓子のようなデザインが扉にされている。
「え?お前見えるのか?」
翠雨が仰天した表情で戻ってきた。
氷雨はじっと尚を見つめている。
「ヤバかった?まさか、見えちゃったら死ぬとか?」
「ありゃあ、神様が地上と天界を行き来するための社で、普通の人間には見えない。オレらと一緒にいすぎたせいなのかな?」
「じゃあ、見なかったことにしとく。それにしても綺麗だね」
「綺麗だからといって、お前、あそこの扉を潜ったらお終いだからな。人間じゃなくなる。誘われたって絶対に駄目だぞ」
「誰が誘うんだよ」
「オレらみたいに、いい神様だけじゃないってこと。私利私欲で人間を誘って不完全な神様を作り出しちまうのもいるからさ」
尚は何度も振り返りながら、その場を後にした。
翠雨と氷雨は尚をもうあの社に遭遇させないというように、急に曲がったりやけに険しい道を歩いたりとする。
グランピング施設にたどり着いたときには、膝がガクガクしていた。
朝食になんとか間に合い、絶品プレーンオムレツを食べ、翠雨と氷雨はまた川釣りへ。
彼らを二人きりにしてやりたいというのもあったが、尚は先程の社がどうしても気になったので別行動を取ることにした。
部屋で少し休んでから、グランピング施設のフロントで詳細な地図をコピーしてもらい再び先程の山へと入る。
しかし、どうやっても社にはたどり着けなかった。
狐につままれような気分で宿に戻る。
十五時前に翠雨と氷雨が戻ってきて、おやつと称して串刺しになった焼き魚を尚にくれた。インパクト大の豪快なおやつだ。つぶやきとともに写真を載せたら、いいねがいっぱい貰えそうだ。
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