65 / 169
第五章
65:……俺も、一緒に……行っていい?
しおりを挟む
「おはよう」
決行日四日前。
未だ、ナイフは手に入れていない。
時雨は尚の額に口づけして、布団から起き出す。
これまでの人生で最高の目覚めだ。
絶対的な安心感の中で眠ることができたからだと思う。
庭に面した引き戸を空ける音がして、やがて蚊帳が外された。
「眩しい」
と尚は呻く。
「今日もいい天気だね。僕は翠雨のとこの銭湯でひとっ風呂浴びてこようかなあ」
時雨が八月の太陽を見上げながら言う。
「……俺も、一緒に……行っていい?」
「もちろん」
時雨が、尚用の銭湯用のタオルやシャンプー・リンスなどの入った小さな袋をいそいそと用意し始める。
二人して外に出る。
タオルなどを持っていない時雨の左手の小指がピクピク誘うように動いている。
だから、黙って握った。
尚はタオルの他、昨晩、翠雨から貰った眼帯を箱ごと持ってきていた。
『ゆ』と書いた暖簾を潜り、番台まで行くと、そこには翠雨が座っていて、
「お客さーん。ここ、ヤリ目的のゲイサウナじゃないんですけど」
とじとっとした目で言う。
随分、早起きだ。あのあと氷雨とずっといっしょにいて今帰ってきたのだろうか?それとも早々に返された?何はともあれ、彼の恋が成就して欲しいとは思う。じゃないと、どこまでも引きずり回される。そのことを昨日、身を持って知った。
「何言ってんだか」
時雨は翠雨を相手にしない。
すると、翠雨が「悪尚。お前、うなぎは平気か?」と聞いてくる。
「氷雨がさあ、うな重の老舗を昼に予約してくれたんだ。四人でなら行っていいって。ラブマ神はどうする?」
「尚次第」
時雨はさっさと男湯と書かれた脱衣場の暖簾をくぐって行ってしまう。
すると、翠雨がニヤニヤと尚を見つめてきた。
「まだやってねえのか。プラトニックってそんなにいいか?それともヤリそうでヤラないっていうギリギリ感がお前ら好きなのか?あと、うな重は氷雨のおごりだから、特上にしとく?」
翠雨の思考回路がよくわからない。
エロと食事が並列して会話に出てくる。
尚も脱衣所の暖簾をくぐると、もう時雨は浴衣を脱いでいて、ボクサーパンツを下ろしている最中だった。
長い足からするすると下着が外されていく。
何度か一緒の布団で眠っているし、その時に浴衣の合わせから胸元はしょっちゅう見えるが、全裸は初めてだ。
腰の位置が高く手足が長い。適度な筋肉で覆われていて、太ももだけが周りの部位よりちょっと発達しているのが淫靡に見えてくる。
男から見ても完璧な美しい肉体だ。
「先、入ってるよ」
洗い場に行ってしまった時雨を、尚は貧相すぎる自分の身体を恥ながら、しばらく時間を置いて追いかける。
時雨は泡でもこもこにして髪を洗っていた。
尚もプラスチックの黄色い椅子を持ってきて、隣に腰掛ける。
髪は濡らさず、身体と顔半分だけ、借りた石鹸で洗う。
柑橘系ですっきりしているのにほのかに甘い。
「時雨さんっぽい匂いがする」
「なにそれ。あ、今のは尚の真似ね。その石鹸、ゆずとひのきと日本酒の成分が入った窯焚きなんだ。僕のお気に入り」
先に身体を洗い終え、尚は風呂に浸かる。
時雨もやってきて、隣につかった。
決行日四日前。
未だ、ナイフは手に入れていない。
時雨は尚の額に口づけして、布団から起き出す。
これまでの人生で最高の目覚めだ。
絶対的な安心感の中で眠ることができたからだと思う。
庭に面した引き戸を空ける音がして、やがて蚊帳が外された。
「眩しい」
と尚は呻く。
「今日もいい天気だね。僕は翠雨のとこの銭湯でひとっ風呂浴びてこようかなあ」
時雨が八月の太陽を見上げながら言う。
「……俺も、一緒に……行っていい?」
「もちろん」
時雨が、尚用の銭湯用のタオルやシャンプー・リンスなどの入った小さな袋をいそいそと用意し始める。
二人して外に出る。
タオルなどを持っていない時雨の左手の小指がピクピク誘うように動いている。
だから、黙って握った。
尚はタオルの他、昨晩、翠雨から貰った眼帯を箱ごと持ってきていた。
『ゆ』と書いた暖簾を潜り、番台まで行くと、そこには翠雨が座っていて、
「お客さーん。ここ、ヤリ目的のゲイサウナじゃないんですけど」
とじとっとした目で言う。
随分、早起きだ。あのあと氷雨とずっといっしょにいて今帰ってきたのだろうか?それとも早々に返された?何はともあれ、彼の恋が成就して欲しいとは思う。じゃないと、どこまでも引きずり回される。そのことを昨日、身を持って知った。
「何言ってんだか」
時雨は翠雨を相手にしない。
すると、翠雨が「悪尚。お前、うなぎは平気か?」と聞いてくる。
「氷雨がさあ、うな重の老舗を昼に予約してくれたんだ。四人でなら行っていいって。ラブマ神はどうする?」
「尚次第」
時雨はさっさと男湯と書かれた脱衣場の暖簾をくぐって行ってしまう。
すると、翠雨がニヤニヤと尚を見つめてきた。
「まだやってねえのか。プラトニックってそんなにいいか?それともヤリそうでヤラないっていうギリギリ感がお前ら好きなのか?あと、うな重は氷雨のおごりだから、特上にしとく?」
翠雨の思考回路がよくわからない。
エロと食事が並列して会話に出てくる。
尚も脱衣所の暖簾をくぐると、もう時雨は浴衣を脱いでいて、ボクサーパンツを下ろしている最中だった。
長い足からするすると下着が外されていく。
何度か一緒の布団で眠っているし、その時に浴衣の合わせから胸元はしょっちゅう見えるが、全裸は初めてだ。
腰の位置が高く手足が長い。適度な筋肉で覆われていて、太ももだけが周りの部位よりちょっと発達しているのが淫靡に見えてくる。
男から見ても完璧な美しい肉体だ。
「先、入ってるよ」
洗い場に行ってしまった時雨を、尚は貧相すぎる自分の身体を恥ながら、しばらく時間を置いて追いかける。
時雨は泡でもこもこにして髪を洗っていた。
尚もプラスチックの黄色い椅子を持ってきて、隣に腰掛ける。
髪は濡らさず、身体と顔半分だけ、借りた石鹸で洗う。
柑橘系ですっきりしているのにほのかに甘い。
「時雨さんっぽい匂いがする」
「なにそれ。あ、今のは尚の真似ね。その石鹸、ゆずとひのきと日本酒の成分が入った窯焚きなんだ。僕のお気に入り」
先に身体を洗い終え、尚は風呂に浸かる。
時雨もやってきて、隣につかった。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
春乞いの国
綿入しずる
ファンタジー
その国では季節は巡るものではなく、掴み取るものである。
ユフト・エスカーヤ――北の央国で今年も冬の百二十一日が過ぎ、春告げの儀式が始まった。
一人の神官と四人の男たち、三頭の大熊。王子の命を受けた春告げの使者は神に贈られた〝春〟を探すべく、聖山ボフバロータへと赴く。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

タチですが異世界ではじめて奪われました
雪
BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります!
読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです!
俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。
2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。
丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。
「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です!
もちろんハルトのその後なんかも出てきます!
ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。

巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。
篠崎笙
BL
ごく普通の高校生だった優輝は勇者として招かれたが、レベル1だった。弱いキノコ狩りをしながらレベルアップをしているうち、黒衣の騎士風の謎のイケメンと出会うが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる