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第四章

50:確か時雨さんが、俺の口を押さえていて

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「なにわともあれ、オレ、悪尚には感謝してんだぜ?断絶状態だったオレらを繋げてくれたのはお前だしな」
「ふうん」
「反応薄っ!お前、神様に感謝されたんだぞー、今」
「はい。嬉しいです」
「嘘つけ!」
 尚はさっと身体を洗い、椅子から腰を上げた。
「何だ、髪洗わねえのか。ここ軟水だからツルツルになるのに」
 髪を泡だらけにして翠雨が聞いてくる。
 尚は二十人は楽につかれそうな大きさの風呂につかる。座って上から落ちてくる湯を受ける打たせ湯もあるし、寝そべってつかるジェットバスもある。
 洗髪を終えた翠雨も、風呂につかってきた。
「おまえさ、その眼帯、外さねえの?ウレタン素材の眼帯を濡れたままにしとくとやばいよ。特に汗や銭湯の湯は。それって怪我のせい?もしくは病気?」
 尚は無言で、翠雨の側から離れた。
「聞かないでくんねえかなって?心配だから聞いてるんだけど」
「心配って、昨日会ったばかりだろ」
「だから、他人だって?昨日の過呼吸だって助けてやったのにさ。あれはよくあるのか?」
「過呼吸?」
 うっすら、息苦しかったことを思い出す。
「確か時雨さんが、俺の口を押さえていて」
「過呼吸って息を吸いすぎて酸素濃度がおかしくなんの。だから、ああやって吐いた息で調節すんの」
 そうだ。
 その最中、夢を見たのだ。
 複数の男に囲まれ怖かったこと。
 膝を抱え、大きく開き、陰部を丸出しにしてやってくる罰に怯えたこと。
 そして、助けに来てくれた時雨に怖かったと訴えた。
 時雨は優しく尚を慰めてくれて、なぜか、陰部を握られて出させられるという夢のまた夢を見て……。
「だからか、俺。時雨さんの足にしがみついていたのは」
「悪直って酒飲んで、完全に記憶を飛ばすタイプじゃないんだな。じゃあ、ラブマ神と出会った晩のことは?タクシー乗ってどこからか帰ってきたことは?」
「それ、時雨さんが?何でそこまで」
「え?そ、そりゃあ、あれだよ。どっかですっ転んで一過性の健忘症になっちまったんじゃねえのかって医大生のオレに心配して聞いてきたんだよ」
「月島の相生橋で拾われたことはなんとなく。あとは、アパートでの記憶」
「へえ。あいつのこと、部屋に入れたんだ?なのに、まだ未遂なのか」
 あの夜は、甘えた口調で口付けをねだって、してもらったらしてもらったで感動に震えて。
 あー。自分が気持ちが悪い。
 じゃあ、昨晩は?
 時雨と翠雨と氷雨が尚の顔を覗き込んでいたのを思いだす。
 同時に、股間が痛いぐらい固くなっていた感覚も。
 なんで、三人に見られてそんな……。
 尻の穴もきゅっ、きゅっと動いていた感覚がある。
 手は膝裏に回っていて……。
 大きく足を開いていて。
 尚の頭が真っ白になる。
 ---それって、彼らに裸を晒したからだ。
「だから、帯も下着も」 
 それは、昔、オナニーをしようとしたのを母親に見つかって教団に連れて行かれ罰を受けたトラウマの夢、だと思っていた。
 でも、酔ったせいで実際に彼らの前で事に及んだ。
 熱い湯につかっているはずなのに、お湯が冷たく感じる。
 額から汗が垂れてきているはずなのに、その感覚が無い。
 尚は口元を押さえた。
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