44 / 169
第三章
44:繰り返し見る。最悪な夢。追い詰められるといつも
しおりを挟む
「僕?いつもは俺って言うよね?それに、オナニーって。昨日は、尚は大人しく寝てたでしょうが」
氷雨が言った。
「酒のせいで昔のことが蘇ってきたんじゃないのか?」
「前回は、記憶が飛んだのに?」
やがて、尚の口からヒューヒューと小刻みな音がし始めた。
「何?尚、どうしたの?尚??」
「こいつ、息、吸いっぱなし」
と翠雨が言う。
確かに、息遣いがとても苦しそうだ。なのに、足を開いたまま耐えている。
息を吸うと身体が大きく揺れ、形を変えた雄が上下に揺れる。
それが腹に付くと、先走りの透明な液が蛍光灯に反射した。
「どうしたら?」
時雨は、膝の裏にがっちりと回っている尚の手を力任せに外しながら聞いた。
「救急車か?それとも、てっとり早く神様の方の病院?」
と氷雨も少々慌て気味だ。
身体を調べてみようと提案してこんなことになるとは思っても見なかったのだろう。
「ただの過呼吸。時雨は悪尚の口と鼻を押さえて。氷雨は座敷に布団を敷いてやって」
一番若い翠雨が一番冷静だった。慌てること無く時雨と氷雨に指示を出す。
そして、はだけられた浴衣の合わせを閉じると、時雨に「こいつ、名字なんだっけ」と聞いてきた。
「佐伯」と時雨が答えると翠雨は、
「佐伯さん。佐伯尚さん、聞こえますかー?もう、大丈夫ですよー。自分の吐いた息をゆっくり吸ってくださいねー。大丈夫ですよー」
と尚に声をかける。
しばらくして、尚の右の眼球が時雨の顔をゆっくりと捉えた。いつもの怒りの籠もった目だ。そののち、口元を押さえている手を見る。
何してくれてんの、あんた?と言いたげな瞳だった。
「尚の意識、戻ってきたかも」
「なら、水飲ませてあとは寝かせとけ。冷たいペットボトルの水って冷蔵庫に入っているか?」
氷雨が布団を敷きに行き、翠雨がキッチン方向へ。すると、尚の身体から一気に緊張感が抜けていく。
ものの見事に尚の身体の硬さが変わってくる。
「布団、出来たぞ」
氷雨が蚊帳をめくって、時雨たちを呼んだ。
時雨は尚に両肩に手を回させ、そのまま腰を掴んで抱き上げる。
暴れるかと思ったが、黙って尚は時雨に掴まれていた。
尚の輪にした両手が時雨の首へかかり、両足は時雨の腿のあたりに巻き付いてくる。
居間から、仏間、そして座敷へと移動し、氷雨が敷いてくれた布団に寝かす。
氷雨は気を使って入れ替わりに蚊帳から出ていき、翠雨がしばらくしてペットボトルの水を中に転がしてきた。
「尚、水」
一緒に布団に横たわりながら、時雨は話しかける。
尚はずっと時雨の首にしがみついていた。
息が少しアルコール臭い。
背中を少し支えてペットボトルを口元まで持っていってやると、コクンと飲んだ。
口元に垂れた水滴を拭ってやる。
「あとで、また飲もうね。アルコールを散らせば楽になるよ」
尚は目を瞑ったままだ。
「変な夢を見て」
「そうか。怖かったね」
背中を擦ってやる。
「いつも見る夢?」
「繰り返し見る。最悪な夢。追い詰められるといつも」
「今、追い詰められるようなことがあるの?引っ越しのこととか?」
意図的な沈黙があった。
「なら、不幸として買い取ろう。スッキリするよ。ええっと、神様スタンプはどこにある?」
「いい」
時雨の腕の中で尚が高速で首を振る。
そして、呻くように言った。
「今回、結末が違ったんだ。時雨さんが助けにきてくれた。だから、不幸として買い取っちゃ嫌だ」
尚の呼吸がやがて一定になった。
寝入ったらしい。
時雨は眠れずに過ごしした。
だから、明け方になって入った翠雨からのメールにもすぐに気づいた。
内容は、
『解析終わった。こいつ、少し前に救世教団の入信相談ダイヤルに電話している』
というものだった。
氷雨が言った。
「酒のせいで昔のことが蘇ってきたんじゃないのか?」
「前回は、記憶が飛んだのに?」
やがて、尚の口からヒューヒューと小刻みな音がし始めた。
「何?尚、どうしたの?尚??」
「こいつ、息、吸いっぱなし」
と翠雨が言う。
確かに、息遣いがとても苦しそうだ。なのに、足を開いたまま耐えている。
息を吸うと身体が大きく揺れ、形を変えた雄が上下に揺れる。
それが腹に付くと、先走りの透明な液が蛍光灯に反射した。
「どうしたら?」
時雨は、膝の裏にがっちりと回っている尚の手を力任せに外しながら聞いた。
「救急車か?それとも、てっとり早く神様の方の病院?」
と氷雨も少々慌て気味だ。
身体を調べてみようと提案してこんなことになるとは思っても見なかったのだろう。
「ただの過呼吸。時雨は悪尚の口と鼻を押さえて。氷雨は座敷に布団を敷いてやって」
一番若い翠雨が一番冷静だった。慌てること無く時雨と氷雨に指示を出す。
そして、はだけられた浴衣の合わせを閉じると、時雨に「こいつ、名字なんだっけ」と聞いてきた。
「佐伯」と時雨が答えると翠雨は、
「佐伯さん。佐伯尚さん、聞こえますかー?もう、大丈夫ですよー。自分の吐いた息をゆっくり吸ってくださいねー。大丈夫ですよー」
と尚に声をかける。
しばらくして、尚の右の眼球が時雨の顔をゆっくりと捉えた。いつもの怒りの籠もった目だ。そののち、口元を押さえている手を見る。
何してくれてんの、あんた?と言いたげな瞳だった。
「尚の意識、戻ってきたかも」
「なら、水飲ませてあとは寝かせとけ。冷たいペットボトルの水って冷蔵庫に入っているか?」
氷雨が布団を敷きに行き、翠雨がキッチン方向へ。すると、尚の身体から一気に緊張感が抜けていく。
ものの見事に尚の身体の硬さが変わってくる。
「布団、出来たぞ」
氷雨が蚊帳をめくって、時雨たちを呼んだ。
時雨は尚に両肩に手を回させ、そのまま腰を掴んで抱き上げる。
暴れるかと思ったが、黙って尚は時雨に掴まれていた。
尚の輪にした両手が時雨の首へかかり、両足は時雨の腿のあたりに巻き付いてくる。
居間から、仏間、そして座敷へと移動し、氷雨が敷いてくれた布団に寝かす。
氷雨は気を使って入れ替わりに蚊帳から出ていき、翠雨がしばらくしてペットボトルの水を中に転がしてきた。
「尚、水」
一緒に布団に横たわりながら、時雨は話しかける。
尚はずっと時雨の首にしがみついていた。
息が少しアルコール臭い。
背中を少し支えてペットボトルを口元まで持っていってやると、コクンと飲んだ。
口元に垂れた水滴を拭ってやる。
「あとで、また飲もうね。アルコールを散らせば楽になるよ」
尚は目を瞑ったままだ。
「変な夢を見て」
「そうか。怖かったね」
背中を擦ってやる。
「いつも見る夢?」
「繰り返し見る。最悪な夢。追い詰められるといつも」
「今、追い詰められるようなことがあるの?引っ越しのこととか?」
意図的な沈黙があった。
「なら、不幸として買い取ろう。スッキリするよ。ええっと、神様スタンプはどこにある?」
「いい」
時雨の腕の中で尚が高速で首を振る。
そして、呻くように言った。
「今回、結末が違ったんだ。時雨さんが助けにきてくれた。だから、不幸として買い取っちゃ嫌だ」
尚の呼吸がやがて一定になった。
寝入ったらしい。
時雨は眠れずに過ごしした。
だから、明け方になって入った翠雨からのメールにもすぐに気づいた。
内容は、
『解析終わった。こいつ、少し前に救世教団の入信相談ダイヤルに電話している』
というものだった。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
秋良のシェアハウス。(ワケあり)
日向 ずい
BL
物語内容
俺は...大学1年生の神代 秋良(かみしろ あきら)。新しく住むところ...それは...男ばかりのシェアハウス!?5人暮らしのその家は...まるで地獄!プライバシーの欠けらも無い...。だが、俺はそこで禁断の恋に落ちる事となる...。
登場人物
・神代 秋良(かみしろ あきら)
18歳 大学1年生。
この物語の主人公で、これからシェアハウスをする事となる。(シェアハウスは、両親からの願い。)
・阿久津 龍(あくつ りゅう)
21歳 大学3年生。
秋良と同じ大学に通う学生。
結構しっかりもので、お兄ちゃん見たいな存在。(兄みたいなのは、彼の過去に秘密があるみたいだが...。)
・水樹 虎太郎(みずき こたろう)
17歳 高校2年生。
すごく人懐っこい...。毎晩、誰かの布団で眠りにつく。シェアハウスしている仲間には、苦笑いされるほど...。容姿性格ともに可愛いから、男女ともにモテるが...腹黒い...。(それは、彼の過去に問題があるみたい...。)
・榛名 青波(はるな あおば)
29歳 社会人。
新しく入った秋良に何故か敵意むき出し...。どうやら榛名には、ある秘密があるみたいで...それがきっかけで秋良と仲良くなる...みたいだが…?
・加来 鈴斗(かく すずと)
34歳 社会人 既婚者。
シェアハウスのメンバーで最年長。完璧社会人で、大人の余裕をかましてくるが、何故か婚約相手の女性とは、別居しているようで...。その事は、シェアハウスの人にあんまり話さないようだ...。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる