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第三章
35:え?俺、そんなに礼を言って……無いか。うん
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「大掛かりな料理でもするのか?」
「前、甘味処に行ったらお腹の都合で食べられなかった人がいて。その人のために、お腹に優しいのを作ってみようかと思って」
「何で?」
「さあ。気まぐれって言ったら満足するの、尚は?」
「……」
「ねえ、尚?」
「あ……ありがと」
「珍しい」
時雨は口ごもりながらも礼を言った尚の顔を見つめた。
まるで希少動物と出会ってしまったみたな感覚だった。
「素尚さんが今日は連チャン」
「え?俺、そんなに礼を言って……無いか。うん」
「ごめんはよく言うよ」
「ごめん」
「ほら、また。尚からありがとうのお言葉を頂きましたので、せっかく作るなら、器にもこだわりたいよね」
時雨のテンションが自分ではコントロール出来ないほど上がってくる。
こんなの久しぶりだ。
多分、芙蓉が元気だった頃以来。
そんな時雨を尚はぽかんとした顔で見ている。
でも、楽しい提案が止められない。
「そのうち、冨岡八幡宮の骨董市に行く?掘り出し物があったりするんだよ。あと、この近くだと、有楽町駅の国際フォーラム広場前でやっている大江戸骨董市かなあ。あっちは、冨岡八幡宮に比べて平均的に値段が高いんだけど、日本の骨董以外にヨーロッパのもあるんだ」
「時雨さんって、ちょっとしたことがイベントみたいで楽しそうだな。カルピス飲み比べの提案のときもそうだった」
「一夜限りの相手に骨董市は誘ったこと無いよ。どっちも芙蓉さんと行った思い出の場所だから。何で、俺はいいの?って今、思っている?僕の思い通りにならない相手だから、かな。たぶんね。とにかく、これ」
時雨は尚にノート型パソコンを渡す。
「何がとにかく?」
と尚は困り顔だ。
「不幸買い取りセンターの客の話をまとめるのに使って」
「手書きじゃ駄目?あ、でも俺、字が上手くないや。それにそういうの……触ったこと無いし」
「タイピングが出来ないってこと?携帯はいじれるじゃない。それが両手になって、ローマ字打ちになるだけ」
「出来ない、と思う」
「なら、寿司やろう。寿司!」
時雨は尚を半分無理やり居間の座椅子に座らせた。
ゲーム形式でタイピングを覚えるサイトをノート型パソコンにダウンロードし、座敷用テーブルの上に置き尚の両手をキーボードに。
笛や太古などの和風楽器でありがながら軽快な音楽が流れ始める。
尚が、今から何をやらすつもりだというような顔で時雨を見上げている。
「ゲーム形式で出来るタイピングの練習。寿司が嫌ならロボットが戦うのとかもある」
「いや、寿司でいいけど」
最初、おっかなびっくりキーボードを叩いていた尚だったが、次第にコツを飲み込んできたようで楽しくなってきたらしい。
昼前までには初心者レベルを制限時間内でクリア出来るようになった。
「お疲れさま。一応、そうめん三束茹でた」
座敷用テーブルのノート型パソコンを下によせさせ、そこにそうめんいっぱいの大皿を置く。
尚が摘んだ紫蘇も刻まれて彩りを添えている。
「多すぎるって。時雨さんが二束半以上食べることになる」
「残ったら、ナンプラーで味付けしてフライパンで焼く。タイ風やきそばのパッタイみたいになるんだって。三時のおやつ代わりに」
「前、甘味処に行ったらお腹の都合で食べられなかった人がいて。その人のために、お腹に優しいのを作ってみようかと思って」
「何で?」
「さあ。気まぐれって言ったら満足するの、尚は?」
「……」
「ねえ、尚?」
「あ……ありがと」
「珍しい」
時雨は口ごもりながらも礼を言った尚の顔を見つめた。
まるで希少動物と出会ってしまったみたな感覚だった。
「素尚さんが今日は連チャン」
「え?俺、そんなに礼を言って……無いか。うん」
「ごめんはよく言うよ」
「ごめん」
「ほら、また。尚からありがとうのお言葉を頂きましたので、せっかく作るなら、器にもこだわりたいよね」
時雨のテンションが自分ではコントロール出来ないほど上がってくる。
こんなの久しぶりだ。
多分、芙蓉が元気だった頃以来。
そんな時雨を尚はぽかんとした顔で見ている。
でも、楽しい提案が止められない。
「そのうち、冨岡八幡宮の骨董市に行く?掘り出し物があったりするんだよ。あと、この近くだと、有楽町駅の国際フォーラム広場前でやっている大江戸骨董市かなあ。あっちは、冨岡八幡宮に比べて平均的に値段が高いんだけど、日本の骨董以外にヨーロッパのもあるんだ」
「時雨さんって、ちょっとしたことがイベントみたいで楽しそうだな。カルピス飲み比べの提案のときもそうだった」
「一夜限りの相手に骨董市は誘ったこと無いよ。どっちも芙蓉さんと行った思い出の場所だから。何で、俺はいいの?って今、思っている?僕の思い通りにならない相手だから、かな。たぶんね。とにかく、これ」
時雨は尚にノート型パソコンを渡す。
「何がとにかく?」
と尚は困り顔だ。
「不幸買い取りセンターの客の話をまとめるのに使って」
「手書きじゃ駄目?あ、でも俺、字が上手くないや。それにそういうの……触ったこと無いし」
「タイピングが出来ないってこと?携帯はいじれるじゃない。それが両手になって、ローマ字打ちになるだけ」
「出来ない、と思う」
「なら、寿司やろう。寿司!」
時雨は尚を半分無理やり居間の座椅子に座らせた。
ゲーム形式でタイピングを覚えるサイトをノート型パソコンにダウンロードし、座敷用テーブルの上に置き尚の両手をキーボードに。
笛や太古などの和風楽器でありがながら軽快な音楽が流れ始める。
尚が、今から何をやらすつもりだというような顔で時雨を見上げている。
「ゲーム形式で出来るタイピングの練習。寿司が嫌ならロボットが戦うのとかもある」
「いや、寿司でいいけど」
最初、おっかなびっくりキーボードを叩いていた尚だったが、次第にコツを飲み込んできたようで楽しくなってきたらしい。
昼前までには初心者レベルを制限時間内でクリア出来るようになった。
「お疲れさま。一応、そうめん三束茹でた」
座敷用テーブルのノート型パソコンを下によせさせ、そこにそうめんいっぱいの大皿を置く。
尚が摘んだ紫蘇も刻まれて彩りを添えている。
「多すぎるって。時雨さんが二束半以上食べることになる」
「残ったら、ナンプラーで味付けしてフライパンで焼く。タイ風やきそばのパッタイみたいになるんだって。三時のおやつ代わりに」
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