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第三章

33:教祖のお誕生日会

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 まず、最初に携帯でタクシー料金サイトを検索した。
 東京の月島から前橋や宇都宮など都市名を入れて検索する。
 深夜料金二割増しにチェックボタンのチェックを入れても、十五万円ではまだお釣りが来る。
 今度はもっと距離を広げて、松本や長岡、金沢などにしてみる。
「これだと少し十五万円を超えるか」
 途方もない距離を深夜に移動してきたのは分かった。
「家族のことは、新興宗教組織に入れ込んでいたっていう母親の話題しか出てこなかった。父親や他の親族はいないのかな?だったら、あの喪服は母親の葬式用?」
 携帯の中の写真を呼び出して、タクシーの明細に書かれてある番号を紙にメモしていると、電話が鳴った。
 携帯ディスプレイは『翠雨』という名前を盛んに点滅させている。
『ラブマ神。いま、どこだ。一人か?』
「店にいる。僕だけ。タクシー会社に電話しようかと」
『もうオレがした。あいつ、とんでもないものを忘れていたぞ』
「まさか、血まみれの他の凶器?』
『違う。骨壷』
 時雨の脳裏に白磁の壺が浮かんだ。
 大抵の人間が最後に収まる場所だ。
 芙蓉もそこに収まった。
 大切に抱いて帰ったのを覚えている。
 神様のくせに、あの頃は死にたいぐらい悲しかった。
『納骨袋に入っているらしいが、さらに紙袋に入れられていて、タクシー運転手も最初は分かんなかったって。後部座席の足元に置かれていたらしい。岐阜県飛騨市の山中に無線で呼ばれそこから東京の門前仲町に行けと言われたが、手持ちが無くなったって言われて池袋駅付近で下ろしたって言っている。気付いて追ったけれど、もう姿は無かったって』
「酔っ払って忘れる代物かな?」
『いや、酒の匂いはしなかったし、受け答えも普通だったらしいぞ』
「じゃあ、飲み始めたのは池袋に降りてから?それに、飛騨市の山中って?骨壷を持っていたなら、そこに火葬場が?」
『タクシー運転手に聞いてみたが、周囲五十キロにそんな施設ないそうだ。あるのは、救世教団の本部』
 救世教団。
 新興宗教の中でも、世界の色んな宗教のいいところをつまみ食いしたような教えは、本物からしたら眉をひそめたくなる集団だ。
 信者数は約五十万人。
 日本の新興宗教信者数をランキングにすると、十位ほど。
 目立つほどの組織ではないが、献金額は信者数で割るとトップに躍り出る。
 一人の信者に課される献金ノルマがえげつないのだ。
 数珠、壺、掛け軸、絵など、原価がほとんどかからない粗悪品をどんどん買わせ、破産させたらポイ捨てする。
 そして、信者から強引にもぎ取った金は課税されず、広大な土地を買い漁る資金に周りさらにそこに神殿もどきの建物を建てる。
 新興宗教組織の中には、美術品集めに走るのもいる。
 これはまだいい。
 国宝級の日本美術作品が世界に流出し行方が分からなくなるのを防ぐのに一役買っている。
 しかし、救世教団は、己の教団の力を誇示するためだけに肥え太るだけ。信者を破滅に追い込みながら、拡大を止めようとしない。
 当然、本物から警告はいっているはずだ。
 神様の領域を犯す行為は、誰であっても、どんな理由があっても許されない。
『飛騨市の山中の一部は、救世教団の持ち物だそうだ。タクシー運転手は本部にやってくる信者の送迎で食っているようなもんらしい。間もなくデカい祭典があるから忙しくなるって』
「祭典?」
『教祖のお誕生日会』
「くだらない。で、骨壷の中身は誰?蓋に名前が書いてあったりするよね。僕も芙蓉さんのを書いた」
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