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第二章

23:さすろうか?

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 時雨は自分の左脇腹を擦って見せる。
 尚は頷き、呻きながら伝えた。
「俺だけ先に車の中で休ませてもらってもいい?場所は分かるから」
「帰ろう」
 時雨が、レシートを持ってすぐに立ち上がる。
「いいよ、俺だけで。ほとんど食べてないのに勿体ない」
「また来ればいい話。今は体調優先」
「分かった。……ごめん」
 駐車場までは数分。
 だが、それが尚にはかなりきつかった。
 車の助手席に乗せてもらい、シートを倒された時は、気絶しかけていた。
「車の揺れがきつそうだね。少し、ここで休んでいこうか」
「ごめん」
「謝るのはもういいよ。それに、肉体労働出来ないって言ってたのは、こういうことだったんだね。コンビニの食料もほとんど食べてなかったのは、好き嫌いじゃなく、身体に入れられなかったのか」
「あれ、少しは食べた。俺には十分なぐらい。……つつ」
「さすろうか?」
「……」
「嫌だって断りたい?けど、断るなら、ここで降りろって言われそう?僕ってそんな人でなしに見える?あ、でも僕、神様だから、『人で無し』はある意味合ってるんだけど。でもあの言葉、ひどいよね。冷酷で感情が欠落している場合に使われるなんて」
 時雨が運転席から身を乗り出してきた。
 瞬時に身体が固まり、そのせいで腹の痛みが増した。
「ううっ」
 尚は呻く。
 声は漏れてしまったが、耐えられないほどじゃない。
 もっときつい痛みだって耐えてきた。
 だから、問題ない。
「尚。大丈夫だから」
 時雨がそっと尚の左脇腹に手を添えてきた。
 身体が鮮魚みたいに一瞬ビクつくが、不思議なことにそれだけでだいぶ楽になってくる。
「大丈夫。大丈夫」
 時雨が赤ん坊を寝かしつけるときみたいに、穏やかな声で繰り返す。
 不思議なことに本当に痛みが少しずつ散っていく。
 そして、身体の緊張も。
 いくら脳が警戒していても、身体の方は、こいつは信用していいヤツだと感覚的に分かっているようだ。
「神様スタンプってヤツ、使った?」
「それはまだ。ちゃんと持ってきた?」
「リュックに入っている。なら、気持ちがいいのは……時雨さんの、手か」
「名前、呼べたね。偉い偉い」
「偉いって、なにそれ」
 尚は額に片腕を乗せた。
 喋りながらゆっくり心の警戒を解いていく。
「餅みたいなの食うまでは体調良かったからいけると思ったんだ。でもやっぱり駄目だった。ああいう重いの、上手く消化できない」
「それって、あんみつやかき氷に入っていた白玉のこと?」
「うん」
「このまま、僕の家に行こう。蚊帳吊ってあげるから、涼しいとこで寝ていけばいい」
「親切の理由が分からない」
「新興宗教の勧誘されそうで嫌?」
「しないとは、思うけどさ」
「けどさの先は何?言ったでしょ。尚の不幸に興味があるって。尚の神様スタンプにマス目に余白がたくさんできたら、僕はもう尚には近寄らない。そもそも、救済チャンスのリストから外れちゃうから僕の存在なんか忘れてしまうし」
 そうか、忘れるのか。
 もうこうやって会うこともしつこくされることもないのか。
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