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第二章

22:過去に何かあった?それ系のとこで

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 店にはなんとか十八時半前に入れた。
 平日なのでほとんど人がない。
 尚は、涼し気な竹の天井を見上げる。和紙が塗り込められた壁も素敵だ。
 店に入るとき、尚は尾行するより緊張した。所属していた新興宗教組織ではこんな場所、悪魔の住処と言われて絶対に禁止されていたし、脱会してからあらゆることが自由になったはずなのに、あの頃どうしてもしてみたかったことは今となってはすでに色あせていた。金額的な余裕や精神的余裕の無さが、欲求を奪っていったのかもしれない。
「ごめん。案内されたの新館の方だ。今度は席予約して行こう」
 時雨が尚に向かって手を合わせる。
 そして、店員が持ってきたメニューをにこやかに受け取った。
 二人で一枚のメニューを顔を突き合わせて見る。
 甘味処なんて実は初めてで、それをキスした相手と体験しているのだから、こそばゆくなってくる。
 でも、それは体験に対してだ。
 時雨のことを意識しているわけじゃない。
 脅してくるし、待ち合わせ時間を無視すると、しつこくクラクションを鳴らしてくるし。
 こいつの方がストーカーなんじゃないか?
「迷っている?」
 尚はフルーツいっぱいのあんみつと抹茶のかき氷を指差す。
「じゃあ、それ二つ」
と時雨は勝手に注文してしまった。
「質屋さん。俺、一つだって食べきれないって」
「時雨さん、でしょ。残ったら僕が食べる。気にしないで」
 数分待っていると、写真よりかなり大きなあんみつとかき氷がやってきた。
「逆詐欺」
「いいことじゃない。さ、さ」
 勧められて尚は、緊張しながらあんみつのフルーツにフォークを立てる。
 バナナもみかんもこれまでに食べた中で一番糖度が高い。
「さすが、老舗。寒天じゃなく、ちゃんと白玉。一個貰うよ」
 時雨が美味しそうにそれを口に運ぶので、尚も一抹の不安はあったが真似る。
 柔らかくほんのり甘い。
 抹茶のかき氷も氷が細かくて口の上でふわっと溶けていく。
 そこには、ぜんざい、白玉、濃い緑色の抹茶アイスクリームがこれでもかと乗っている。
「人間が工夫を凝らして作る食べ物って美味しいしね」
 感想に困って、無言で抹茶アイスクリームを口に運ぶ。
「また神様設定だって思っているでしょう?」
「人間じゃなさそうってのは、もう疑わない……ことにする」
 時雨の店にイヤホンを返しに行くと伝えていなかったのにスクラッチを当てた女性と触れ違って大当たりを動画越しに目の当たりにした。大掛かりな仕込みなのかと疑いは晴れなかったが、十万馬券の大当たりで信じざるを得なくなった。
「よし、偉いぞ、尚!」
「変な褒め方」
「でも、よく考えたら怖くない?人間は妖怪とか幽霊とか、得体の知れないものを怖がる」
「俺は得体の知れた人間の方が怖い」
「過去に何かあった?それ系のとこで」
「ノーコメント。俺のことなんか詳しく知らないほうがいいと思う」
「尚は実は犯罪者で、僕が警察から何か聞かれるかもしれないから?何したの?」
「明日の天気、晴れ?みたいな気軽さでそういうこと聞かないでくれ」
「ここらへん、老舗が多いんだ。かき揚げ丼屋とか、懐石料理屋とか。昭和一桁台の建物だから、素敵だよ。警察に捕まる予定が無いなら今度、行こう。大丈夫!それも、経費で落とすから。従業員への慰労会ってことで」
「従業員て、いつからそんな……っっ」
 左の脇腹あたりがキリッと痛む。
「どうしたの?脂汗かいているよ」
「……調子……乗りすぎたかも」
「お腹痛いの?あんみつは四分の一も減っていないし、かき氷は数口食べただけでしょ?もしかして、ここの傷のせい?」
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