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第二章
19:今ここで警察沙汰は困るんだってっ!
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フロントガラスには、横長のダンボールみたいな大きなビルが映る。
今いる場所はお台場のようだ。土地が広い分、どの建物も馬鹿でかい。でも、人通りは全然無い。まるでゲームの世界に放り込まれた気分になる。
そこからの会話は一回だけ。
「約束守って競馬場に付き合ったんだから、動画を消してくれよ」
「もちろん」
十分もしないうちに、時雨が運転する車は門前仲町の尚のアパート前についた。
時雨が、携帯をいじって動画を削除するのを確認した尚は別れの挨拶もせずリュックを片手に車を降りる。
時雨が運転席をドアを開けて降りて来た。
「尚。明日はストーカーをストーカーする仕事だから」
「そんな約束、した覚えはないんだけど?」
「動画まだ四つある。あの晩、五時間分録画したから。長時間過ぎて一個の動画には収まらなかった」
尚は瞬時に手を振り上げた。
「俺は、あんたと遊んでいる暇なんて無いっ」
だが、時雨は平然と尚の手を片腕で簡単に抑え込んできて、神様スタンプカードを「これ、忘れ物」と取り出す余裕さえあった。
時雨がカードを開き、右下のマス目の空白がある隣のドクロを人差し指で隠した。
「二十九歳までキス経験の無い話。はい。確かにあなたの不幸、買い取りました。一個消すね」
時雨の指の下にあったドクロは消え、それと同時に尚は息がしやすくなる。
さらに、血流もよくなったようだ。
体内のノンアルコール酒が一気に回りだし、立っていることもできなくなる。
時雨が尚を慌てることなく支える。
「おっと、かなり足に来ている。部屋まで送る」
「あんた、こうなることが分かって……」
「そんなに怒こらないで。何もしない」
尚の腕を自分の肩に回させ、時雨は鉄骨階段を登り始める。
そして、部屋の扉を開けると、尚のスニーカーを脱がせ、四畳半の部屋に敷きっぱなしの布団に尚を寝かした。
「この部屋、本当に暑い」
と言って扇風機を回すと、冷蔵庫を開け冷たい水のペットボトルを尚の枕元に置く。
「神様スタンプカードはコタツテーブルの上ね。明日、忘れずに持ってきて。時間は、十七時。アパート前で待ってて。迎えに行くから。さあ、よく寝て」
時雨は、尚の隣に一瞬添い寝し、頭を撫でるとすぐ部屋から出ていった。
翌日こそ、絶対に時雨の誘いには乗らないつもりだった。
だが、変な予定を入れられたせいで、携帯いじりがはかどらない。
集中できないのだ。
あっという間に約束の十七時がやって来て、部屋から出てこない尚に痺れを切らした時雨が車のクラクションを鳴らし始めた。
なんて近所迷惑な男だ。
一階に住む男が「うるせえええっ」と怒鳴っている。
腕に入れ墨だらけのヤク中ヤクザの声だと思う。
「喧嘩する?かかってきなよ」と時雨が言い返す声が聞こえてきた。案外、好戦的な性格のようだ。
「今ここで警察沙汰は困るんだってっ!」
コタツテーブルの上にあった神様スタンプカードは、扇風機で風に飛ばされ、いつもリュックを置いている壁際に落ちていた。なので、一番上のファスナーに突っ込んだ。
持っていかなければグダグダ言うだろうし、破り捨てたら「はい。再発行」と渡してきそうだからだ。
急いで階段を駆け下りた。
「五分遅刻」
車に乗り込むと、今日はボタンシャツと黒っぽい細身のパンツ姿の脅迫者が文句を言ってくる。
「動画、四つ全部消せよ」
「普通、一個でしょ」
今いる場所はお台場のようだ。土地が広い分、どの建物も馬鹿でかい。でも、人通りは全然無い。まるでゲームの世界に放り込まれた気分になる。
そこからの会話は一回だけ。
「約束守って競馬場に付き合ったんだから、動画を消してくれよ」
「もちろん」
十分もしないうちに、時雨が運転する車は門前仲町の尚のアパート前についた。
時雨が、携帯をいじって動画を削除するのを確認した尚は別れの挨拶もせずリュックを片手に車を降りる。
時雨が運転席をドアを開けて降りて来た。
「尚。明日はストーカーをストーカーする仕事だから」
「そんな約束、した覚えはないんだけど?」
「動画まだ四つある。あの晩、五時間分録画したから。長時間過ぎて一個の動画には収まらなかった」
尚は瞬時に手を振り上げた。
「俺は、あんたと遊んでいる暇なんて無いっ」
だが、時雨は平然と尚の手を片腕で簡単に抑え込んできて、神様スタンプカードを「これ、忘れ物」と取り出す余裕さえあった。
時雨がカードを開き、右下のマス目の空白がある隣のドクロを人差し指で隠した。
「二十九歳までキス経験の無い話。はい。確かにあなたの不幸、買い取りました。一個消すね」
時雨の指の下にあったドクロは消え、それと同時に尚は息がしやすくなる。
さらに、血流もよくなったようだ。
体内のノンアルコール酒が一気に回りだし、立っていることもできなくなる。
時雨が尚を慌てることなく支える。
「おっと、かなり足に来ている。部屋まで送る」
「あんた、こうなることが分かって……」
「そんなに怒こらないで。何もしない」
尚の腕を自分の肩に回させ、時雨は鉄骨階段を登り始める。
そして、部屋の扉を開けると、尚のスニーカーを脱がせ、四畳半の部屋に敷きっぱなしの布団に尚を寝かした。
「この部屋、本当に暑い」
と言って扇風機を回すと、冷蔵庫を開け冷たい水のペットボトルを尚の枕元に置く。
「神様スタンプカードはコタツテーブルの上ね。明日、忘れずに持ってきて。時間は、十七時。アパート前で待ってて。迎えに行くから。さあ、よく寝て」
時雨は、尚の隣に一瞬添い寝し、頭を撫でるとすぐ部屋から出ていった。
翌日こそ、絶対に時雨の誘いには乗らないつもりだった。
だが、変な予定を入れられたせいで、携帯いじりがはかどらない。
集中できないのだ。
あっという間に約束の十七時がやって来て、部屋から出てこない尚に痺れを切らした時雨が車のクラクションを鳴らし始めた。
なんて近所迷惑な男だ。
一階に住む男が「うるせえええっ」と怒鳴っている。
腕に入れ墨だらけのヤク中ヤクザの声だと思う。
「喧嘩する?かかってきなよ」と時雨が言い返す声が聞こえてきた。案外、好戦的な性格のようだ。
「今ここで警察沙汰は困るんだってっ!」
コタツテーブルの上にあった神様スタンプカードは、扇風機で風に飛ばされ、いつもリュックを置いている壁際に落ちていた。なので、一番上のファスナーに突っ込んだ。
持っていかなければグダグダ言うだろうし、破り捨てたら「はい。再発行」と渡してきそうだからだ。
急いで階段を駆け下りた。
「五分遅刻」
車に乗り込むと、今日はボタンシャツと黒っぽい細身のパンツ姿の脅迫者が文句を言ってくる。
「動画、四つ全部消せよ」
「普通、一個でしょ」
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