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第二章
18:まだ、酔いが覚めてなさそうだね。うち、来る?
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「尚のお陰で最高の結果だ。行こっ」
駐車場に戻り、車に乗り込む。
「楽しかったあ。尚の不幸って、馬と相性がいい」
「なにそれ」
「人によって違うんだって。競艇とか競輪とか。僕から見ても、そっち方面はディープだけどね」
「質屋さんって、おかし人だよな。見た目、ギャンブルするようには見えない」
「また、質屋さんって言った。どうぞ、時雨で」
ノンアルコールの酔いが覚めずシートベルトにもたもたしてる尚に、運転席から腰を浮かせて時雨は手を伸ばしてきて、カチッとそれをはめてくれた。
突然の接近に尚は圧力をかけられたみたいにシートに身体を沈める。
自分より身体の大きな男にパーソナルゾーンを超えて近寄られると、尚の身体は分かりやすくこうなる。十代のことからずっとだ。数人に囲まれたらもうパニックだ。
だから、酔ってたとはいえ、時雨の接触を許せた自分はすごい。
添い寝、それにキス。
「警戒しないでよ」
「そういう距離の詰められ方、実は苦手なんだ。名前を呼ぶのだって、友達みたいな感じがして落ち着かない」
人生の最後の数日で、友人めいた存在が出来てしまったら、忘れるのが困難になる。
キスしただけなら相手が盛っただけと、忘れるのも難しく無さそうな気がするけれど。
「それ系のところで友達を作るのを禁止されていた?」
「俺っ、もしかして、酔っ払ったときに?」
尚は焦った。
自分が、新興宗教組織の二世であることは誰にも知られたくない。
「いいや。不幸買い取りセンターにはその手の人も大勢来るから。反応が似ていただけ。他人に対しての過剰な警戒感が」
脱会して軽く十年は過ぎている。
なのに、バレた?
確かに、自分は人を信用できない。
触れられないし、触れられたくない。
胃のあたりから喉をつたって、熱い塊が上がってくる。
それは、怒りだ。
尚は冷静を装って、助手席の景色を見る。
東京の夜景は美しい。
でも、自分は新興宗教組織を逃れ、ボロ雑巾みたいな状態でこの街にたどり着いて、十年過ごしたってボロボロのままだった。
働くことだって、休み休みじゃないとできない。
国の支援はない。
親ガチャ、運が悪かった。挙句の果てには自己責任だと言われる。
助けてくれるはずのNPOも、頼れば頼ったで迷惑そうな顔をする。
尚は、すっかりぬるくなったノンアルコール酒を全て飲み干した。
そして、後部座席に置いていたリュックを、身体を捻って手を伸ばす。
「渋谷通るなら、そこらへんで降ろして」
電車賃がもったいないが、もうこの男の側にはいたくない。
あ、訳の分からない理由でもらった「不幸買い取り金」の五万円があった。
「帰り道は、渋谷をかすりもしないよ。ほら、左手にレインボーブリッジ見えるでしょ」
車は海沿いの道を走っていた。でかい橋がかかっている。遠くには、ビル群にまぎれて東京タワーの先端も見える。
「まだ、酔いが覚めてなさそうだね。うち、来る?」
「質屋さんの家?何の冗談?」
「時雨だってば」
「行ったら俺、洗脳されて信者にされるんだろ」
信号が赤になり、時雨が車を止めた。
車内は静かだ。
できるなら、ラジオでも付けて欲しい。
きっと、高性能なオーディオを積んでいるんだろうし。
尚は耐えきれなくなって、車の扉の取っ手に手をかけた。
すると、時雨が信号が青に代わったタイミングで車を急発進させる。
駐車場に戻り、車に乗り込む。
「楽しかったあ。尚の不幸って、馬と相性がいい」
「なにそれ」
「人によって違うんだって。競艇とか競輪とか。僕から見ても、そっち方面はディープだけどね」
「質屋さんって、おかし人だよな。見た目、ギャンブルするようには見えない」
「また、質屋さんって言った。どうぞ、時雨で」
ノンアルコールの酔いが覚めずシートベルトにもたもたしてる尚に、運転席から腰を浮かせて時雨は手を伸ばしてきて、カチッとそれをはめてくれた。
突然の接近に尚は圧力をかけられたみたいにシートに身体を沈める。
自分より身体の大きな男にパーソナルゾーンを超えて近寄られると、尚の身体は分かりやすくこうなる。十代のことからずっとだ。数人に囲まれたらもうパニックだ。
だから、酔ってたとはいえ、時雨の接触を許せた自分はすごい。
添い寝、それにキス。
「警戒しないでよ」
「そういう距離の詰められ方、実は苦手なんだ。名前を呼ぶのだって、友達みたいな感じがして落ち着かない」
人生の最後の数日で、友人めいた存在が出来てしまったら、忘れるのが困難になる。
キスしただけなら相手が盛っただけと、忘れるのも難しく無さそうな気がするけれど。
「それ系のところで友達を作るのを禁止されていた?」
「俺っ、もしかして、酔っ払ったときに?」
尚は焦った。
自分が、新興宗教組織の二世であることは誰にも知られたくない。
「いいや。不幸買い取りセンターにはその手の人も大勢来るから。反応が似ていただけ。他人に対しての過剰な警戒感が」
脱会して軽く十年は過ぎている。
なのに、バレた?
確かに、自分は人を信用できない。
触れられないし、触れられたくない。
胃のあたりから喉をつたって、熱い塊が上がってくる。
それは、怒りだ。
尚は冷静を装って、助手席の景色を見る。
東京の夜景は美しい。
でも、自分は新興宗教組織を逃れ、ボロ雑巾みたいな状態でこの街にたどり着いて、十年過ごしたってボロボロのままだった。
働くことだって、休み休みじゃないとできない。
国の支援はない。
親ガチャ、運が悪かった。挙句の果てには自己責任だと言われる。
助けてくれるはずのNPOも、頼れば頼ったで迷惑そうな顔をする。
尚は、すっかりぬるくなったノンアルコール酒を全て飲み干した。
そして、後部座席に置いていたリュックを、身体を捻って手を伸ばす。
「渋谷通るなら、そこらへんで降ろして」
電車賃がもったいないが、もうこの男の側にはいたくない。
あ、訳の分からない理由でもらった「不幸買い取り金」の五万円があった。
「帰り道は、渋谷をかすりもしないよ。ほら、左手にレインボーブリッジ見えるでしょ」
車は海沿いの道を走っていた。でかい橋がかかっている。遠くには、ビル群にまぎれて東京タワーの先端も見える。
「まだ、酔いが覚めてなさそうだね。うち、来る?」
「質屋さんの家?何の冗談?」
「時雨だってば」
「行ったら俺、洗脳されて信者にされるんだろ」
信号が赤になり、時雨が車を止めた。
車内は静かだ。
できるなら、ラジオでも付けて欲しい。
きっと、高性能なオーディオを積んでいるんだろうし。
尚は耐えきれなくなって、車の扉の取っ手に手をかけた。
すると、時雨が信号が青に代わったタイミングで車を急発進させる。
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