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第一章
9:ヨガ?誘いたいのは競馬だけど?大井町競馬のナイトレース
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時雨がカードに押し付けた指を離すと、ドクロマークは綺麗さっぱり消えている。
尚が、どんなトリックだと時雨を見ると、違うよというように肩をすくめた。
『これから、換金に向かってください。あなたの場合は、スクラッチくじがよさそうです。縦三列、横三列になっているオーソドックスなスクラッチくじを一枚だけ買ってください。一段目の左上が一。そこから順番に数えていって、三段目の右下が九とします。頭に浮かんだ一から九までの数字三つを削ってください』
話が一気に胡散臭くなってきたなと尚は思った。
『売り場はどこでもいいです。外れた場合、返金しますので、ビデオ通話アプリでスクラッチを削る様子をリアルタイムで送ってくださいね』
あ、この時雨のセリフはさっき聞いた。
『尚!』
呼びかける声が画面の中でして、時雨が動画をそこで止める。
「どう?」
と聞かれて、
「意味がわからない」
と素直に答える。
「これ、壮大なドッキリ?それか、詐欺?にしては質屋さんはあの人から金を一銭もらった様子がねえけど。そもそもスクラッチくじなんて当たるわけ……」
すると、時雨が携帯を見せてきた。
ビデオアプリが画面で立ち上がっている。
誰からコンタクトしてきたようだ。
時雨が震えて着信を告げるアプリをタップした。
『先程の者です。今から、買います』
女性の声がする。
場所は宝くじ売り場のようだ。
そこで、女性は、売り場の店員に『スクラッチくじを一枚ください』とか細い声で申し出て、三百円を払った。
そして、財布から一円玉を取り出し、『三、六、七がお店で思い浮かんだ数字なので削ります』と言う。
「はい。どうぞ」
時雨が答えると、女性は最初は少し迷ったように三の場所を削り、船の錨のマークが出ると、残りは立て続けに削った。
「お。三百万」
錨のマークが全て揃い、時雨が小声で言う。
「嘘だろっ!!」
そんなの子供の遊びに毛が生えたものだと尚は思ったので、その金額に驚いた。
画面も右に左に揺れ、激しくブレる。
どうやら女性は驚き、地面に携帯を落としてしまったらしい。
『すみません』
と言って拾い上げる。
売り場の女性に確認もしてもらい、本当に三百万円という金額が確定した。高額なので、後日銀行に行かなけれなならないようだ。
「くじは絶対に無くさないように。あと、ご家族には言わないほうがいいですよ。換金したら半額を弊社にお振込ください。では」
と時雨が念押ししてビデオ通話を切った。
「今ので、あの人に百五十万円、質屋さんに百五十万円入ってくるって?」
「そ」
「アホらしい。あの人が振り込んでくるもんか。三百万を丸々自分のものにするだろ、普通」
「そんなことしたら、次の不幸は買い取らないと広告の注意書きに書いてある」
「へえ。よくできたシステム」
尚が席を立ち、自動扉をくぐると時雨が追いかけてきた。
「尚さ。息が苦しいでしょう?楽にしてあげようか?」
「その次は、ヨガの勉強会に行かないとか誘ってくるんだろ?」
「ヨガ?誘いたいのは競馬だけど?大井町競馬のナイトレース」
駆け出して尚の目の前に回り込んだ時雨が、カードを取り出してきた。
片面は、定期券二枚ほどのサイズだ。
小学校低学年の持ち物みたいに、「さえきなお」とひらがなで書かれている。
尚が、どんなトリックだと時雨を見ると、違うよというように肩をすくめた。
『これから、換金に向かってください。あなたの場合は、スクラッチくじがよさそうです。縦三列、横三列になっているオーソドックスなスクラッチくじを一枚だけ買ってください。一段目の左上が一。そこから順番に数えていって、三段目の右下が九とします。頭に浮かんだ一から九までの数字三つを削ってください』
話が一気に胡散臭くなってきたなと尚は思った。
『売り場はどこでもいいです。外れた場合、返金しますので、ビデオ通話アプリでスクラッチを削る様子をリアルタイムで送ってくださいね』
あ、この時雨のセリフはさっき聞いた。
『尚!』
呼びかける声が画面の中でして、時雨が動画をそこで止める。
「どう?」
と聞かれて、
「意味がわからない」
と素直に答える。
「これ、壮大なドッキリ?それか、詐欺?にしては質屋さんはあの人から金を一銭もらった様子がねえけど。そもそもスクラッチくじなんて当たるわけ……」
すると、時雨が携帯を見せてきた。
ビデオアプリが画面で立ち上がっている。
誰からコンタクトしてきたようだ。
時雨が震えて着信を告げるアプリをタップした。
『先程の者です。今から、買います』
女性の声がする。
場所は宝くじ売り場のようだ。
そこで、女性は、売り場の店員に『スクラッチくじを一枚ください』とか細い声で申し出て、三百円を払った。
そして、財布から一円玉を取り出し、『三、六、七がお店で思い浮かんだ数字なので削ります』と言う。
「はい。どうぞ」
時雨が答えると、女性は最初は少し迷ったように三の場所を削り、船の錨のマークが出ると、残りは立て続けに削った。
「お。三百万」
錨のマークが全て揃い、時雨が小声で言う。
「嘘だろっ!!」
そんなの子供の遊びに毛が生えたものだと尚は思ったので、その金額に驚いた。
画面も右に左に揺れ、激しくブレる。
どうやら女性は驚き、地面に携帯を落としてしまったらしい。
『すみません』
と言って拾い上げる。
売り場の女性に確認もしてもらい、本当に三百万円という金額が確定した。高額なので、後日銀行に行かなけれなならないようだ。
「くじは絶対に無くさないように。あと、ご家族には言わないほうがいいですよ。換金したら半額を弊社にお振込ください。では」
と時雨が念押ししてビデオ通話を切った。
「今ので、あの人に百五十万円、質屋さんに百五十万円入ってくるって?」
「そ」
「アホらしい。あの人が振り込んでくるもんか。三百万を丸々自分のものにするだろ、普通」
「そんなことしたら、次の不幸は買い取らないと広告の注意書きに書いてある」
「へえ。よくできたシステム」
尚が席を立ち、自動扉をくぐると時雨が追いかけてきた。
「尚さ。息が苦しいでしょう?楽にしてあげようか?」
「その次は、ヨガの勉強会に行かないとか誘ってくるんだろ?」
「ヨガ?誘いたいのは競馬だけど?大井町競馬のナイトレース」
駆け出して尚の目の前に回り込んだ時雨が、カードを取り出してきた。
片面は、定期券二枚ほどのサイズだ。
小学校低学年の持ち物みたいに、「さえきなお」とひらがなで書かれている。
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