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魔法少女とラッキースケベ?
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歴史の授業でも習うのだが、魔法少女が死んだとしても、その身体には魔力が残っている。
その為、一般の墓に埋葬すると魔物が近くに発生する可能性があり、魔法少女は全員此処に埋葬される。
出来れば地元に埋葬したいと駄々をこねる者や、こっそり埋葬する馬鹿が居るが、たいてい魔物が発生してバレるか、盗まれてしまう。
盗んでるのはおそらく施設の関係者だろうが、今のところ証拠は見付かっていないとか。
「イニーちゃんもボサッとしてないで、お手入れ手伝って」
黄昏ていたら、スターネイルに注意されてしまった。
殺し合いをした魔法少女の墓参りとか、正直どうかと思うのだが、仕方あるまい。
ブルーコレットの墓石は、建てられてからあまり経っていないので綺麗なものだ。
軽く水拭きをして花を入れ換える。
最後に線香を立てて終わりだ。
スターネイルが最近の事や、マリンがランカー(仮)になったことなどを話しかけ、やわらかく笑う。
あの日喧嘩をしなければ。あの日俺を巻き込まなければ。俺が魔法少女にならなければ。
他にも色々とあるが、一つでもピースが当てはまらなければ、違う未来があったのかもしれない。
魔女という存在を作り出した世界が悪いのか、俺を魔法少女にしたアクマが悪いのか。あるいは姉の願いを叶えて、俺に寄生していたエルメスが悪いのか……。
全く、本当に運が悪い。
「――それじゃあ帰ろっか」
「はい。それでは失礼します」
「逃がさないわよ?」
しんみりとした空気になったので、流れで逃げようとしたが駄目でした。
「丁度良い時間だし、お昼にしましょう。何か案はある?」
「食べられれば何でも」
「うーん。せっかくの休みだし、何か珍しいものが食べたいかな」
スターネイルは体を揺らしながら、こちらをチラチラと見てくる。
珍しいものねぇ。
他国の郷土料理は大体珍しい料理だろうが、珍しいと美味いは一致しない。
下手に珍しい料理を食べる位なら、うどんでも食った方が満足出来る。
「なるほど。確かに珍しいものが食べたいわね」
スターネイルに続き、マリンも何故かにやけながら俺を見る。
……これは嫌な予感がするぞ。
「……何でしょうか?」
「珍しいものが食べたいなー」
「珍しいものが食べたいわ」
なるほど。確かに珍しいものだわな。
自分で食べる時以外で料理を作ったのはレンさんとイギリスに居た時だけだ。
ひとり暮らしだった男の料理など大雑把なものだが、他人でも食えることはレンさんにより実証されている。
身体が変わってから多少味覚の変化があったりしたので、あの時は人体実験も兼ねてもいた。
作るのはやぶさかではないが……。
「作るのは良いですが、期待はしないで下さいね」
「やった!」
マリンとスターネイルはハイタッチを交わし、俺の肩に手を置く。
はいはい、転移すればいいんでしょう。
(アクマ)
『はいはい。それと、運良くタラゴンはまだ帰ってきてないよ』
そいつは良いのか悪いのか判断が難しい報告だな。
1
ふたりを連れて家に帰り、リビングへと放り込んだ後に、キッチンへと入る。
タラゴンさんの家にある冷蔵庫は妖精印……妖精によって作られたもので、色々と機能が充実している。
空間も微妙に拡張され、何故か食材が長持ちする。
ついでにタラゴンさんは色々と買い込んでいるので、今回は買い出しに行かなくていい。
調味料系は俺のストックもあるので、味付けも問題ない。
ああ、そう言えば聞いておかないといけない事があったな。
「何か食べられないものや、アレルギーはありますか?」
「ナス以外なら大丈夫だよ」
「私は特にないかな」
マリンについては単純にナスがきらいなだけだろうな。
時期的に旬ではないが、日本で一般的に売られているような野菜は大体揃っていた気がする。
憂さ晴らしにわざとナスを使った料理を作ってもいいが、そんな大人げない事をするとアクマやエルメスに揶揄われそうなので止めておく。
さてと、何を作るかな……。
手の込んだものは作れないが、三人前を作るってのは地味に難易度が高い。
流石にうどんを茹ででテーブルの上にドンでは、絶対作り直しを要求されそうだ。
(簡単で見栄えの良い料理って何か知らないか?)
『食事を必要としない私に聞かれても、客観的な答えしか出ないよ?』
食事が必要無いと言うくせに、リンゴジュースだけはちょいちょい要求してくるんだよな。
しかも断ると拗ねるので、地味に面倒な反応をするようになる。
そこら辺についてはエルメスの方が扱いやすい。
野菜炒めは安易だし……ああ、昨日食べたあれなら地味に手が込んでいるように見えて、割と楽に作れるな。
卵と鶏肉。ついでに玉ねぎと三つ葉等の野菜と調理器具を用意する。
下ごしらえを始める前に、土鍋で米を炊く。
一応冷凍のご飯もあるが、折角なら炊き立ての方が良いだろう。
後は一品物のおかずが残っているみたいなので、温め直せばいいだろう。
「30分程掛かるので、おなかが空いているようなら軽くお菓子でも摘まんでいてください」
「分かったわ。その間イニーの部屋を見てて良い?」
マリンたち出来上がるまでの時間を伝えた所、再び部屋を見たいといわれてしまった。
止めようにも物理的な腕力では勝ち目もなく、どうせ見られて困るものはない。
「……好きにして下さい。ああ、クローゼットの中にある服ならいくらでも持ち帰って良いですよ」
「分かったわ」
一瞬マリンの目が光った気がするが、きっと気のせいだろう。
自分の意志で買って貰った服を捨てるのは忍びないが、譲渡なら別に良いだろう。
数十着程度なら、誤差と言える程度には増えているし。
マリンとスターネイルは揃って俺の部屋へと行ってしまった。
さてと、さっさと作ってしまうか。
まあ肉と野菜を切ったらほとんど準備は終わりである。
折角だし唐揚げも作っておくか。
鶏肉は低価格高たんぱくなので、使い勝手が良い。
……金の心配をする必要は全くないのだがな。
唐揚げを揚げてから皿に盛り付け、冷蔵庫にあったサラダと一緒にテーブルへ運ぶ。
丁度よく米が炊けたので、もうそろそろ呼びに行くか。
「もうでき……」
自室のドアを開いたら、中でふたりが着替えていたので、ゆっくりとドアを閉めた。
自室だからとノックをしなかった俺が悪いが、見た目はお互いに少女なので犯罪ではないだろう。
ふと思い出したが、身長的に俺とマリンたちでは結構違う。
なんなら発育状態も違うのだが、クローゼットの中には物理的に大きさの変わる服が結構ある。
どれもこれも妖精界で売っているお高い奴だが、タラゴンさんのお金が底を尽くことは絶対無いだろう。
「もう直ぐ出来るので、片付けが終わったら来てください」
『分かったわ』
『はーい』
ドア越しに声を掛け、キッチンへと戻る。
マリンはともかく、スターネイルは少しくらい気にしてくれませんかね?
2
アロンガンテからランカー(仮)の認定を受け、スターネイルと共に無理をするなと怒られたマリンは、スターネイルの提案でブルーコレットの墓参りに行くことになった。
マリンは渋々といった感じだが、一応とはいえブルーコレットは元仲間だったのだ。
意固地となり、断るのもバツが悪かった。
妖精界にある魔法少女用の霊園。ワルプルギスの箱庭。
魔法少女に一度でもなった者は、此処に埋葬する事が法律で決まっている。
日本の様に火葬してから埋めれば少しはマシだが、土葬となると死体から滲み出た魔力が地面へと染み渡り、その魔力が魔物を引き寄せるのだ。
また、魔法少女の死体は研究材料として裏の世界では重宝されており、盗まれる事件が発生している。
それでも秘密裏に埋葬をしようとする者が居るが、妖精局が監視しているので、見つけしだい妖精がワルプルギスの箱庭に遺骨や遺体を移している。
初めは魔法少女の事なので、魔法少女が担当していたのだが、精神を病んでしまう者が増えたので、妖精が代わりに働くようになった。
実は妖精界でも魔物は湧くのだが、妖精女王によって直ぐに駆逐されている。
また、一定以上強い魔物が湧かないように、魔力の濃度を調整していたりする。
マリンとスターネイルはテレポーターでワルプルギスの庭園近くのテレポーターへとテレポートし、店で花や線香などを買った。
「あれからもう2ヶ月以上経ってるんだね」
「そうね。危うく2人揃って殺されるところだったわ」
魔女の薬によって魔物へと姿を変えたブルーコレット。
当時のふたりを圧倒し、イニーが結界内に来なければ負けていた。
イニーが結界内に侵入した時点でスターネイルの両腕は無くなっており、後数分遅ければ、失血死していた恐れもあった。
「コレットちゃんが悪いのもあるけど、本当に悪いのはあいつらだから……」
スターネイルはブルーコレットの最後を思い出し、手を強く握る。
表情こそ変わらないように意識しているが、少しだけ険しいものになっていた。
悪いのは公園で史郎だった頃のイニーを自分たちの喧嘩に巻き込んでしまった事だ。
史郎に家族が居なかったせいで糾弾はされなかったが、世間の目はかなり厳しいものだった。
悪い事をしたならば、罪を償わなければならない。
それは当たり前の事だが、それをさせる時間すら奪ったのが魔女だ。
魔女の甘言に乗るのが悪いと言えばそれまでだが、成人すらしていない少女を誑かした方が悪いはずだ。
当時は玉砕でも良いから復讐したいと意気込んだスターネイルだが、イニーに論されてからは表面上諦めている。
だが当時の事を思い出すと、胸の奥にくすぶる感情があった。
「そうね。新魔大戦やオーストラリアでの事件。この前もイニーやアロンガンテさんを拉致したり、世界中で死人も出ているわ」
「早く平和になると良いんだけどね……」
暗い話をしながらワルプルギスの庭園に入り、ブルーコレットの墓の位置を確認してから進む。
すると、ポツンと誰かが立っているのが見えた。
見渡す限り一面の墓なので、マリンたち以外に墓参りへ来る人が居てもおかしくない。
しかし服装を目視できる程度まで近づくと、ふたりは首傾げた。
「ねえ」
「うん。あの白いローブは多分……」
顔をすっぽりと覆っている白いローブ。それはふたりが知っている人物だろうと、頷きあう。
少しだけ歩く速さを上げ、白いローブの人物に近づいていく。
ジッと線香の煙を見ていた白いローブの人物は掃除を始め、マリンたちが来ている方に振り返り、一瞬固まった。
「やっぱりイニーね」
墓地で偶然出会うなど、奇跡以外の何物でもない。
マリンは駆け寄りたい衝動に駆られるが、場所が場所のために自重した。
「奇遇ですね。こんな所で出会う事は流石にないと思っていました」
「そうね。どうして此処に?」
理由なんて墓参りしかないのだが、イニーが墓参りをする相手が居るなど思わなかったのだ。
「アヤ……メ?」
「榛名?」
イニーが固まっている内に。マリンたちはイニーが訪れていた墓石の名前を読み、揃って疑問を浮かべた。
マリンが疑問に思ったのは、イニーが使っていた偽名と墓の名前が一緒だったことだ。
アヤメとイニーの関係性。
死人の名前を使っていた事を知りたいと思った。
ただの疑問でしかないマリンとは違い、イニーの正体を知っているスターネイルは、アヤメの本名を見て衝撃を受けた。
イニーの本名は榛名史郎。
そして墓石に刻まれている苗字は榛名。
死んだ年から、史郎よりも年上だった事が読み取れる。
様子から見るに親戚や知り合いよりも深い関係の様に見えた。
おそらく、史郎の姉だったのだろう。
魔法少女が命を落とす事は仕方のない事だが、どうして死んだのかが、スターネイルは気になった。
「……知人に頼まれて墓の掃除をしていました。それよりも、ふたりはどうして此処に?」
間が開いたものの、イニーの答えはなんともありきたりのモノだった。
あからさまな誤魔化しだったか、イニーの声にはあまり感情が乗っておらず、動揺してついた嘘なのか、本当の事なのかはマリンには判断できない。
だが、スターネイルには嘘だと簡単に見破る事が出来た。
「コレットちゃんの墓参りだよ。マリンちゃんが一応ランカーになったから、その報告にね」
「一応は余計ですが、私はただの付き添いです。スターネイルがどうしてもと言うので」
此処で追及しても良いのだが、マリンが居るので悪いと思い、イニーの嘘を聞かなかった事にした。
それから逃げようとするイニーをマリンが捕まえ、三人でブルーコレットの眠る墓へと向かった。
その為、一般の墓に埋葬すると魔物が近くに発生する可能性があり、魔法少女は全員此処に埋葬される。
出来れば地元に埋葬したいと駄々をこねる者や、こっそり埋葬する馬鹿が居るが、たいてい魔物が発生してバレるか、盗まれてしまう。
盗んでるのはおそらく施設の関係者だろうが、今のところ証拠は見付かっていないとか。
「イニーちゃんもボサッとしてないで、お手入れ手伝って」
黄昏ていたら、スターネイルに注意されてしまった。
殺し合いをした魔法少女の墓参りとか、正直どうかと思うのだが、仕方あるまい。
ブルーコレットの墓石は、建てられてからあまり経っていないので綺麗なものだ。
軽く水拭きをして花を入れ換える。
最後に線香を立てて終わりだ。
スターネイルが最近の事や、マリンがランカー(仮)になったことなどを話しかけ、やわらかく笑う。
あの日喧嘩をしなければ。あの日俺を巻き込まなければ。俺が魔法少女にならなければ。
他にも色々とあるが、一つでもピースが当てはまらなければ、違う未来があったのかもしれない。
魔女という存在を作り出した世界が悪いのか、俺を魔法少女にしたアクマが悪いのか。あるいは姉の願いを叶えて、俺に寄生していたエルメスが悪いのか……。
全く、本当に運が悪い。
「――それじゃあ帰ろっか」
「はい。それでは失礼します」
「逃がさないわよ?」
しんみりとした空気になったので、流れで逃げようとしたが駄目でした。
「丁度良い時間だし、お昼にしましょう。何か案はある?」
「食べられれば何でも」
「うーん。せっかくの休みだし、何か珍しいものが食べたいかな」
スターネイルは体を揺らしながら、こちらをチラチラと見てくる。
珍しいものねぇ。
他国の郷土料理は大体珍しい料理だろうが、珍しいと美味いは一致しない。
下手に珍しい料理を食べる位なら、うどんでも食った方が満足出来る。
「なるほど。確かに珍しいものが食べたいわね」
スターネイルに続き、マリンも何故かにやけながら俺を見る。
……これは嫌な予感がするぞ。
「……何でしょうか?」
「珍しいものが食べたいなー」
「珍しいものが食べたいわ」
なるほど。確かに珍しいものだわな。
自分で食べる時以外で料理を作ったのはレンさんとイギリスに居た時だけだ。
ひとり暮らしだった男の料理など大雑把なものだが、他人でも食えることはレンさんにより実証されている。
身体が変わってから多少味覚の変化があったりしたので、あの時は人体実験も兼ねてもいた。
作るのはやぶさかではないが……。
「作るのは良いですが、期待はしないで下さいね」
「やった!」
マリンとスターネイルはハイタッチを交わし、俺の肩に手を置く。
はいはい、転移すればいいんでしょう。
(アクマ)
『はいはい。それと、運良くタラゴンはまだ帰ってきてないよ』
そいつは良いのか悪いのか判断が難しい報告だな。
1
ふたりを連れて家に帰り、リビングへと放り込んだ後に、キッチンへと入る。
タラゴンさんの家にある冷蔵庫は妖精印……妖精によって作られたもので、色々と機能が充実している。
空間も微妙に拡張され、何故か食材が長持ちする。
ついでにタラゴンさんは色々と買い込んでいるので、今回は買い出しに行かなくていい。
調味料系は俺のストックもあるので、味付けも問題ない。
ああ、そう言えば聞いておかないといけない事があったな。
「何か食べられないものや、アレルギーはありますか?」
「ナス以外なら大丈夫だよ」
「私は特にないかな」
マリンについては単純にナスがきらいなだけだろうな。
時期的に旬ではないが、日本で一般的に売られているような野菜は大体揃っていた気がする。
憂さ晴らしにわざとナスを使った料理を作ってもいいが、そんな大人げない事をするとアクマやエルメスに揶揄われそうなので止めておく。
さてと、何を作るかな……。
手の込んだものは作れないが、三人前を作るってのは地味に難易度が高い。
流石にうどんを茹ででテーブルの上にドンでは、絶対作り直しを要求されそうだ。
(簡単で見栄えの良い料理って何か知らないか?)
『食事を必要としない私に聞かれても、客観的な答えしか出ないよ?』
食事が必要無いと言うくせに、リンゴジュースだけはちょいちょい要求してくるんだよな。
しかも断ると拗ねるので、地味に面倒な反応をするようになる。
そこら辺についてはエルメスの方が扱いやすい。
野菜炒めは安易だし……ああ、昨日食べたあれなら地味に手が込んでいるように見えて、割と楽に作れるな。
卵と鶏肉。ついでに玉ねぎと三つ葉等の野菜と調理器具を用意する。
下ごしらえを始める前に、土鍋で米を炊く。
一応冷凍のご飯もあるが、折角なら炊き立ての方が良いだろう。
後は一品物のおかずが残っているみたいなので、温め直せばいいだろう。
「30分程掛かるので、おなかが空いているようなら軽くお菓子でも摘まんでいてください」
「分かったわ。その間イニーの部屋を見てて良い?」
マリンたち出来上がるまでの時間を伝えた所、再び部屋を見たいといわれてしまった。
止めようにも物理的な腕力では勝ち目もなく、どうせ見られて困るものはない。
「……好きにして下さい。ああ、クローゼットの中にある服ならいくらでも持ち帰って良いですよ」
「分かったわ」
一瞬マリンの目が光った気がするが、きっと気のせいだろう。
自分の意志で買って貰った服を捨てるのは忍びないが、譲渡なら別に良いだろう。
数十着程度なら、誤差と言える程度には増えているし。
マリンとスターネイルは揃って俺の部屋へと行ってしまった。
さてと、さっさと作ってしまうか。
まあ肉と野菜を切ったらほとんど準備は終わりである。
折角だし唐揚げも作っておくか。
鶏肉は低価格高たんぱくなので、使い勝手が良い。
……金の心配をする必要は全くないのだがな。
唐揚げを揚げてから皿に盛り付け、冷蔵庫にあったサラダと一緒にテーブルへ運ぶ。
丁度よく米が炊けたので、もうそろそろ呼びに行くか。
「もうでき……」
自室のドアを開いたら、中でふたりが着替えていたので、ゆっくりとドアを閉めた。
自室だからとノックをしなかった俺が悪いが、見た目はお互いに少女なので犯罪ではないだろう。
ふと思い出したが、身長的に俺とマリンたちでは結構違う。
なんなら発育状態も違うのだが、クローゼットの中には物理的に大きさの変わる服が結構ある。
どれもこれも妖精界で売っているお高い奴だが、タラゴンさんのお金が底を尽くことは絶対無いだろう。
「もう直ぐ出来るので、片付けが終わったら来てください」
『分かったわ』
『はーい』
ドア越しに声を掛け、キッチンへと戻る。
マリンはともかく、スターネイルは少しくらい気にしてくれませんかね?
2
アロンガンテからランカー(仮)の認定を受け、スターネイルと共に無理をするなと怒られたマリンは、スターネイルの提案でブルーコレットの墓参りに行くことになった。
マリンは渋々といった感じだが、一応とはいえブルーコレットは元仲間だったのだ。
意固地となり、断るのもバツが悪かった。
妖精界にある魔法少女用の霊園。ワルプルギスの箱庭。
魔法少女に一度でもなった者は、此処に埋葬する事が法律で決まっている。
日本の様に火葬してから埋めれば少しはマシだが、土葬となると死体から滲み出た魔力が地面へと染み渡り、その魔力が魔物を引き寄せるのだ。
また、魔法少女の死体は研究材料として裏の世界では重宝されており、盗まれる事件が発生している。
それでも秘密裏に埋葬をしようとする者が居るが、妖精局が監視しているので、見つけしだい妖精がワルプルギスの箱庭に遺骨や遺体を移している。
初めは魔法少女の事なので、魔法少女が担当していたのだが、精神を病んでしまう者が増えたので、妖精が代わりに働くようになった。
実は妖精界でも魔物は湧くのだが、妖精女王によって直ぐに駆逐されている。
また、一定以上強い魔物が湧かないように、魔力の濃度を調整していたりする。
マリンとスターネイルはテレポーターでワルプルギスの庭園近くのテレポーターへとテレポートし、店で花や線香などを買った。
「あれからもう2ヶ月以上経ってるんだね」
「そうね。危うく2人揃って殺されるところだったわ」
魔女の薬によって魔物へと姿を変えたブルーコレット。
当時のふたりを圧倒し、イニーが結界内に来なければ負けていた。
イニーが結界内に侵入した時点でスターネイルの両腕は無くなっており、後数分遅ければ、失血死していた恐れもあった。
「コレットちゃんが悪いのもあるけど、本当に悪いのはあいつらだから……」
スターネイルはブルーコレットの最後を思い出し、手を強く握る。
表情こそ変わらないように意識しているが、少しだけ険しいものになっていた。
悪いのは公園で史郎だった頃のイニーを自分たちの喧嘩に巻き込んでしまった事だ。
史郎に家族が居なかったせいで糾弾はされなかったが、世間の目はかなり厳しいものだった。
悪い事をしたならば、罪を償わなければならない。
それは当たり前の事だが、それをさせる時間すら奪ったのが魔女だ。
魔女の甘言に乗るのが悪いと言えばそれまでだが、成人すらしていない少女を誑かした方が悪いはずだ。
当時は玉砕でも良いから復讐したいと意気込んだスターネイルだが、イニーに論されてからは表面上諦めている。
だが当時の事を思い出すと、胸の奥にくすぶる感情があった。
「そうね。新魔大戦やオーストラリアでの事件。この前もイニーやアロンガンテさんを拉致したり、世界中で死人も出ているわ」
「早く平和になると良いんだけどね……」
暗い話をしながらワルプルギスの庭園に入り、ブルーコレットの墓の位置を確認してから進む。
すると、ポツンと誰かが立っているのが見えた。
見渡す限り一面の墓なので、マリンたち以外に墓参りへ来る人が居てもおかしくない。
しかし服装を目視できる程度まで近づくと、ふたりは首傾げた。
「ねえ」
「うん。あの白いローブは多分……」
顔をすっぽりと覆っている白いローブ。それはふたりが知っている人物だろうと、頷きあう。
少しだけ歩く速さを上げ、白いローブの人物に近づいていく。
ジッと線香の煙を見ていた白いローブの人物は掃除を始め、マリンたちが来ている方に振り返り、一瞬固まった。
「やっぱりイニーね」
墓地で偶然出会うなど、奇跡以外の何物でもない。
マリンは駆け寄りたい衝動に駆られるが、場所が場所のために自重した。
「奇遇ですね。こんな所で出会う事は流石にないと思っていました」
「そうね。どうして此処に?」
理由なんて墓参りしかないのだが、イニーが墓参りをする相手が居るなど思わなかったのだ。
「アヤ……メ?」
「榛名?」
イニーが固まっている内に。マリンたちはイニーが訪れていた墓石の名前を読み、揃って疑問を浮かべた。
マリンが疑問に思ったのは、イニーが使っていた偽名と墓の名前が一緒だったことだ。
アヤメとイニーの関係性。
死人の名前を使っていた事を知りたいと思った。
ただの疑問でしかないマリンとは違い、イニーの正体を知っているスターネイルは、アヤメの本名を見て衝撃を受けた。
イニーの本名は榛名史郎。
そして墓石に刻まれている苗字は榛名。
死んだ年から、史郎よりも年上だった事が読み取れる。
様子から見るに親戚や知り合いよりも深い関係の様に見えた。
おそらく、史郎の姉だったのだろう。
魔法少女が命を落とす事は仕方のない事だが、どうして死んだのかが、スターネイルは気になった。
「……知人に頼まれて墓の掃除をしていました。それよりも、ふたりはどうして此処に?」
間が開いたものの、イニーの答えはなんともありきたりのモノだった。
あからさまな誤魔化しだったか、イニーの声にはあまり感情が乗っておらず、動揺してついた嘘なのか、本当の事なのかはマリンには判断できない。
だが、スターネイルには嘘だと簡単に見破る事が出来た。
「コレットちゃんの墓参りだよ。マリンちゃんが一応ランカーになったから、その報告にね」
「一応は余計ですが、私はただの付き添いです。スターネイルがどうしてもと言うので」
此処で追及しても良いのだが、マリンが居るので悪いと思い、イニーの嘘を聞かなかった事にした。
それから逃げようとするイニーをマリンが捕まえ、三人でブルーコレットの眠る墓へと向かった。
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