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魔法少女は完全復活する
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朝……と言っても、時間が朝なだけで、妖精界だと朝とか夜とかの概念が分かり難い。
時間まで動くことも出来ないので、アクマの目覚ましも無く目が覚めてしまったが、一度シャワーでも浴びておくか。
俺が起きてもアクマが声を掛けてこないので、寝ているか出掛けているのだろう。
いつもアクマが洗っているが、別にひとりでも洗うことは出来る。
昔スケートで全身筋肉痛になった時よりも重い身体を引きずり、シャワーを浴びる。
アクマが居なくてもと考えていたが、今はアクマが居てくれた方がありがたかったな。
身体が温まってきた位でシャワーを止めて、髪や身体を雑に拭いてから着替える。
この疲労感とも後少しすればおさらばだが、貧血の方はまだまだどうしようもない。
「なんだ。いないと思ったが、シャワーを浴びていたのか」
シャワー室から出て部屋に戻ると、そこにはブレードさんが居た。
(アクマ……は反応ないし、エルメス)
『外の事はあまり分からないんですけどね。どうやら討伐依頼が終わってからまっすぐ此処に来たようです』
つまり俺に用があるってことか。
ジャンヌさんに会いに来るにしてはおかしいし、目的もなく来るはずもない。
最低限それが知れただけでもありがたい。
「……私に用ですか?」
ブレードさんは直ぐには答えず、俺をジロジロと見ながら妙な顔をする。
本調子ならともかく、今の体調でブレードさんに会うのは非常にまずい。
ブレードさんはタラゴンさんと同じく、色々な噂に事欠かない魔法少女だ。
桃童子さんとは違った脳筋であり、ブレードさんに辻切された魔法少女は数多い。
正確には少し違うが、アクマから聞いた掲示板の話ではそんな感じに語られていた。
俺を見ながら何を考えているのか分からないが、せめてジャンヌさんでも来てくれないものか……。
「ふーむ。やはりお前か?」
「はい?」
やっと話したと思ったらこれである。
本当に何の用なんだ?
『なんかいつの間に変な事になってるね』
(本当にな)
アクマが帰ってきたが、そのタイミングで仮眠室の扉が開いた。
入ってきたのはジャンヌさんだった。
「おや? 珍しいのが居るじゃないか」
「もう来たのか。まあ、丁度良いか」
ブレードさんの気がそれている内に、ベッドに座わってまだ濡れている髪を拭く。
「報告書のあれ。殺ったのはイニーだろ?」
「何故皆そう報告書を嘘呼ばわりするんだね?」
まだまだ頭が回らないせいで忘れていたが、ブレードさんと桃童子さんはライバル的な関係だったな。
ならば気になって聞きに来るのも分かるが、どうやって俺が此処に居るって分かったんだ?
ニュースやアクマの情報では、俺の居場所は公式上では病院となっている。
俺が此処に居るのを知っているのはジャンヌさんとアロンガンテさんだけだ。
そこから数人に情報が洩れているが、誰からか聞いたってことかな?
「その言葉で大体理解できた。死んだのは仕方ないが、このおチビが…………ねぇ?」
「小さいのは同意するが、イニーが魔法少女になって直ぐにタラゴンと戦ったのを見たろう? アルカナによるものもあるみたいだが、その力は本物だ」
チビとか小さいとか随分な言いようだが、成長することは知っているし、好きで小さいままなので言い返すことは何もない。
それにしても機密扱いなのにそうホイホイ教えて良いのだろうか?
俺には誰にも話すなと言っていたが、分かる人には分かってしまうので仕方ないのだろうか?
「本物……か。桃童子の代わりはどうするんだい?」
「他から推薦がないなら、世代交換も含めて若いのを入れようと思っている。ふたりほど候補が居てね」
「なるほど。その言い方だとイニーじゃないって事か?」
ジャンヌさんが俺を見るので、首を横に振っておく。
「御覧の通り本人が拒否していてね。アロンガンテも何やら約束しているせいで、無理強いも出来ないんだ」
「アロンガンテが約束してるなら仕方ないか……此処に居るってことは体調が悪いのか?」
……もしかして当てずっぽうで、俺が居る場所当てたのか?
「そんなところさ。その内タラゴンが迎えに来る予定だが…………何を考えている?」
「何も。ずっと討伐に出たままだったせいで報告書位しか読んでいないが、面白い情報はあるか?」
「今の情勢で、面白い話なんてあるわけ無いだろう。――変な気は起こすなよ?」
会話から察するに、ブレードさんはやはり危険人物なのだろうか?
或いは俺と同じ様な感性を持っている可能性もあるが、下手に刺激しない方が良そうなので、黙っていよう。
「それは保証しかねるな。私の性分は知っているだろう?」
ブレードさんは女性にはあるまじき笑顔……笑顔でジャンヌさんを挑発する。
それに対してジャンヌさんは溜め息を吐く。
「あまり教えたくないのだが……仕方ないか。絶対に他言しないなら、面白い情報を1つ教えよう」
「ほお? 本当に面白いなら、他言しないと誓おう。ついでに、この騒動が終わるまでは何もしないでいよう」
(会話が抽象的なのたが、何か補足はあるか?)
『知っていると思うけど、ブレードは戦うことが好きなんだけど、魔物よりも魔法少女と戦う方が好きなんだ』
それくらいは知っているが、だからってジャンヌさんがここまで警戒するか?
これでは前科があると言っている様なものだ。
……えっ、あるのか?
(もしかして?)
『桃童子やアメリカの1位とかと、現実でやりあって結構な被害を出しているんだよね~』
前科有ったか―。
ジャンヌさんが、ここまで警戒するのも頷けるな。
ブレードさんとは戦ったことがないため、どれくらい強いかわからないが、もしも敵に回られたら面倒だ。
「――桃童子の能力を継承した魔法少女が居るよ。まだ青いけど、あれは化けるだろうね」
「報告書では囚われていたのはアロンガンテとイニーだけのはずだが、他にも居たのか?」
「いや。どんな原理か分からないが、桃童子はイニーに武器を託して、イニーの手によって継承が行われたんだ。現場は私が確認しているし、その後の戦いも見届けているよ」
話の流れで分かっていたが、どうやらミカちゃんは生贄に捧げられるようだ。
俺も体調が万全ならどんとこいなのだが、流石に今は無理だ。
ミカちゃんには悪いが、頑張ってもらおう。
「ふーん。それで、その魔法少女の名前は?」
「魔法少女タケミカヅチ。武器は身の丈ほどの円月輪だが、桃童子の籠手によって中々面白い戦い方をしていたよ。シミュレーション上の桃童子に負けはしなかったよ」
ほうほう。それは俺からしても面白い情報だな。
桃童子さんの本気に当てられてピーピー泣いていたのは記憶に新しいが、一体どんな風に化け始めているんだろうな?
「タケミカヅチ…………ああ、一度稽古をつけた事があったな。光るものは感じなかったが、そんなにか?」
「甘い部分はあるが、もしかしたら直ぐに……いやこれは黙っていた方が、ブレード的には面白いかな?」
「……そうだな。確かに面白い情報だった。イニーの強さも気になるが、ここは退いておくとするか。約束は守ろう」
ブレードさんはにこやかな笑顔を浮かべながら、部屋を出て行ってしまった。
突然の嵐は去ったようだが、今の内に数値だけ弄っておくか。
ジャンヌさんの事だからちゃんと医学も勉強していると思うが、数値が正常なら大丈夫だと押し通せば良い。
戦えないのは確かだが、此処で何日もお世話になるのは流石に悪いだろう。
ついでにシャワーだけじゃなくて、しっかりと風呂に入りたい。
「さてと、邪魔者は去ったので診察の時間だが……」
ジャンヌさんはそこで言葉を切り、俺をジッと見つめる。
「実際の体調はどんな感じなんだい?」
(どうする?)
『正直に答えて良いんじゃない? 最初に誤魔化したのは私だけど、ジャンヌならハルナの意思を尊重してくれると思うよ?』
とは言われても、間違いなく小言は言われそうなんだよな……。
先程数値だけ弄ったばかりだが、ジャンヌさんにはなんやかんやお世話になっているし、小言を言われても言い返すことは出来ない。
かと言って無下にする訳にもいかないので、聞き流すのも悪い。
まあ話せと言われたし、話すか。
「外傷は見ての通り無いですが、貧血と、内臓のほとんどが機能不全を起こしています。歩くのも辛い所ですが、後3日程寝て食べての生活をすれば、多少回復すると思います」
「多少……完全回復まではどれくらいかな?」
「最低2週間。無理をすることを含めれば3週間ですね」
今日が何日かまでは確認してないが、大体2月末位だ。
ソラが成長しなければアルカナの同時解放……今言った無茶が出来ない。
通常なら今言った日数必要だが、そんな余裕は残されていないだろう。
魔女がいつ動き出すか分からないが、流石に1ヶ月も待つは思えない。
丸々1週間前倒し出来れば良いが、最悪の場合不調のまま戦うことになる。
ただでさえ低い勝率が更に低くなる。
戦いたい欲はあるが、暫くは休みに徹する。
ついでにあの栄養バーを吐く寸前まで食べなければ……。
カロリーと栄養だけは素晴らしいが、他が酷過ぎる。
そんな俺の内心とは別に、ジャンヌさんは難しい顔をしている。
考えているのは俺の回復に掛かる時間についてだろうと予想はつく。
3週間。既に星喰いは向こうの手の中だ。
もしかしたら明日にでも魔女が動き出すかもしれない。
そう考えれば、長すぎるだろう。
「……まあ、イニーなら良いか」
長々と考えていたジャンヌさんは頭を掻きながらそう言った。
「どういうことですか?」
「イニーは虫の息だったから覚えがないだろうが、M・D・Wの時にイニーを治した方法を使おうと思ってね。私が1日倒れてしまうが、イニーなら代わりが務まるし、楓も許可を出すだろう」
M・D・Wとは随分と懐かしい……とも言えないな。
あれからまだ半年も経っていないので、どんな戦いだったかはまだ鮮明に覚えている。
自分の腹に杖を刺して、血と杖を触媒に魔法を発動した。
今ならば白魔道師状態でも勝てるだろうが、あの頃はまだまだ弱かった。
しかもM・D・Wの自爆を完全に防ぐ事は出来ず、アクマの機転がなければ死んでいただろう。
雪辱戦も兼ねて、今度シミュレーションで戦っておくか。
「良いのですか?」
「1日と3週間なら、1日の方が良いからね。それに全治3週間なのにケロっとしていられるイニーが心配ではあるが、治りさえすれば1日私の代わりに働くくらい問題ないだろう?」
「まあ……」
ジャンヌさんの奥の手の奥の手。
生きてさえいれば治す事が出来る奇跡の魔法。
永劫回帰
血や内臓も含め、身体を元の状態に戻す魔法だ。
これを使えば、健康状態になるが、この魔法は身体が記憶している状態にするので、俺の変異した細胞は戻らない。
ついでにソラもチビのままだが、摂取した栄養を全て回す事が出来るので、1週間もあればアルカナの同時解放も時間制限有りだが使えるようになるだはずだ。
この魔法は魔法の域を脱している気もするが、俺もこれ位凄い魔法が使えれば……。
それはそれとしてデメリットは、ジャンヌさんが倒れてしまう事だが……今言っているように俺が代われば問題ないだろう。
まあ、使うにしても先ずは許可を取らないとだけどな。
「もしもし、私だ。イニーの状態を鑑みて魔法を使う事にした。ああ。1日倒れるからよろしく。それと、アロンガンテにも伝えていてくれ。それじゃあ」
ジャンヌさんはさっさと楓さんに連絡を取り、許可を貰ってしまった。
治してもらえるのはありがたいし、これ以上は何も言うまい。
「それじゃあ魔法を使うからベッドから降りてくれ」
「はい」
ベッドから降りると、代わりにジャンヌさんがベッドへと横になる。
魔法を使えば気を失うので、先に横へなっておくのだろう。
見栄えは正直悪いが、俺がジャンヌさんをベッドに運ぶのは少々厳しいので、仕方ない。
「よいしょっと。それじゃあ後は頼んだよ。仕事についてはアロンガンテに聞いてくれ。永劫回帰」
魔法が発動して全身が光り、あまりの眩しさに目を閉じる。
感じでいた倦怠感や貧血による目眩が全て吹き飛び、世界が広がるような感覚が襲う。
健康体とは良いものだ。
魔法が終わるのを感じて目を開けると、ジャンヌさんは気を失っていた。
(アクマ)
『オールグリーンだね。健康体そのものだよ』
手を閉じたり開いたりしたり、軽く首を回しても違和感がない。
本当に、アクマに言われた通りジャンヌさんを助けておいて良かった。
昨日タラゴンさんが置いていった栄養バーを噛りながら部屋を出る。
タラゴンさんには悪いが、カレーは夕飯にしてもらおう。
時間まで動くことも出来ないので、アクマの目覚ましも無く目が覚めてしまったが、一度シャワーでも浴びておくか。
俺が起きてもアクマが声を掛けてこないので、寝ているか出掛けているのだろう。
いつもアクマが洗っているが、別にひとりでも洗うことは出来る。
昔スケートで全身筋肉痛になった時よりも重い身体を引きずり、シャワーを浴びる。
アクマが居なくてもと考えていたが、今はアクマが居てくれた方がありがたかったな。
身体が温まってきた位でシャワーを止めて、髪や身体を雑に拭いてから着替える。
この疲労感とも後少しすればおさらばだが、貧血の方はまだまだどうしようもない。
「なんだ。いないと思ったが、シャワーを浴びていたのか」
シャワー室から出て部屋に戻ると、そこにはブレードさんが居た。
(アクマ……は反応ないし、エルメス)
『外の事はあまり分からないんですけどね。どうやら討伐依頼が終わってからまっすぐ此処に来たようです』
つまり俺に用があるってことか。
ジャンヌさんに会いに来るにしてはおかしいし、目的もなく来るはずもない。
最低限それが知れただけでもありがたい。
「……私に用ですか?」
ブレードさんは直ぐには答えず、俺をジロジロと見ながら妙な顔をする。
本調子ならともかく、今の体調でブレードさんに会うのは非常にまずい。
ブレードさんはタラゴンさんと同じく、色々な噂に事欠かない魔法少女だ。
桃童子さんとは違った脳筋であり、ブレードさんに辻切された魔法少女は数多い。
正確には少し違うが、アクマから聞いた掲示板の話ではそんな感じに語られていた。
俺を見ながら何を考えているのか分からないが、せめてジャンヌさんでも来てくれないものか……。
「ふーむ。やはりお前か?」
「はい?」
やっと話したと思ったらこれである。
本当に何の用なんだ?
『なんかいつの間に変な事になってるね』
(本当にな)
アクマが帰ってきたが、そのタイミングで仮眠室の扉が開いた。
入ってきたのはジャンヌさんだった。
「おや? 珍しいのが居るじゃないか」
「もう来たのか。まあ、丁度良いか」
ブレードさんの気がそれている内に、ベッドに座わってまだ濡れている髪を拭く。
「報告書のあれ。殺ったのはイニーだろ?」
「何故皆そう報告書を嘘呼ばわりするんだね?」
まだまだ頭が回らないせいで忘れていたが、ブレードさんと桃童子さんはライバル的な関係だったな。
ならば気になって聞きに来るのも分かるが、どうやって俺が此処に居るって分かったんだ?
ニュースやアクマの情報では、俺の居場所は公式上では病院となっている。
俺が此処に居るのを知っているのはジャンヌさんとアロンガンテさんだけだ。
そこから数人に情報が洩れているが、誰からか聞いたってことかな?
「その言葉で大体理解できた。死んだのは仕方ないが、このおチビが…………ねぇ?」
「小さいのは同意するが、イニーが魔法少女になって直ぐにタラゴンと戦ったのを見たろう? アルカナによるものもあるみたいだが、その力は本物だ」
チビとか小さいとか随分な言いようだが、成長することは知っているし、好きで小さいままなので言い返すことは何もない。
それにしても機密扱いなのにそうホイホイ教えて良いのだろうか?
俺には誰にも話すなと言っていたが、分かる人には分かってしまうので仕方ないのだろうか?
「本物……か。桃童子の代わりはどうするんだい?」
「他から推薦がないなら、世代交換も含めて若いのを入れようと思っている。ふたりほど候補が居てね」
「なるほど。その言い方だとイニーじゃないって事か?」
ジャンヌさんが俺を見るので、首を横に振っておく。
「御覧の通り本人が拒否していてね。アロンガンテも何やら約束しているせいで、無理強いも出来ないんだ」
「アロンガンテが約束してるなら仕方ないか……此処に居るってことは体調が悪いのか?」
……もしかして当てずっぽうで、俺が居る場所当てたのか?
「そんなところさ。その内タラゴンが迎えに来る予定だが…………何を考えている?」
「何も。ずっと討伐に出たままだったせいで報告書位しか読んでいないが、面白い情報はあるか?」
「今の情勢で、面白い話なんてあるわけ無いだろう。――変な気は起こすなよ?」
会話から察するに、ブレードさんはやはり危険人物なのだろうか?
或いは俺と同じ様な感性を持っている可能性もあるが、下手に刺激しない方が良そうなので、黙っていよう。
「それは保証しかねるな。私の性分は知っているだろう?」
ブレードさんは女性にはあるまじき笑顔……笑顔でジャンヌさんを挑発する。
それに対してジャンヌさんは溜め息を吐く。
「あまり教えたくないのだが……仕方ないか。絶対に他言しないなら、面白い情報を1つ教えよう」
「ほお? 本当に面白いなら、他言しないと誓おう。ついでに、この騒動が終わるまでは何もしないでいよう」
(会話が抽象的なのたが、何か補足はあるか?)
『知っていると思うけど、ブレードは戦うことが好きなんだけど、魔物よりも魔法少女と戦う方が好きなんだ』
それくらいは知っているが、だからってジャンヌさんがここまで警戒するか?
これでは前科があると言っている様なものだ。
……えっ、あるのか?
(もしかして?)
『桃童子やアメリカの1位とかと、現実でやりあって結構な被害を出しているんだよね~』
前科有ったか―。
ジャンヌさんが、ここまで警戒するのも頷けるな。
ブレードさんとは戦ったことがないため、どれくらい強いかわからないが、もしも敵に回られたら面倒だ。
「――桃童子の能力を継承した魔法少女が居るよ。まだ青いけど、あれは化けるだろうね」
「報告書では囚われていたのはアロンガンテとイニーだけのはずだが、他にも居たのか?」
「いや。どんな原理か分からないが、桃童子はイニーに武器を託して、イニーの手によって継承が行われたんだ。現場は私が確認しているし、その後の戦いも見届けているよ」
話の流れで分かっていたが、どうやらミカちゃんは生贄に捧げられるようだ。
俺も体調が万全ならどんとこいなのだが、流石に今は無理だ。
ミカちゃんには悪いが、頑張ってもらおう。
「ふーん。それで、その魔法少女の名前は?」
「魔法少女タケミカヅチ。武器は身の丈ほどの円月輪だが、桃童子の籠手によって中々面白い戦い方をしていたよ。シミュレーション上の桃童子に負けはしなかったよ」
ほうほう。それは俺からしても面白い情報だな。
桃童子さんの本気に当てられてピーピー泣いていたのは記憶に新しいが、一体どんな風に化け始めているんだろうな?
「タケミカヅチ…………ああ、一度稽古をつけた事があったな。光るものは感じなかったが、そんなにか?」
「甘い部分はあるが、もしかしたら直ぐに……いやこれは黙っていた方が、ブレード的には面白いかな?」
「……そうだな。確かに面白い情報だった。イニーの強さも気になるが、ここは退いておくとするか。約束は守ろう」
ブレードさんはにこやかな笑顔を浮かべながら、部屋を出て行ってしまった。
突然の嵐は去ったようだが、今の内に数値だけ弄っておくか。
ジャンヌさんの事だからちゃんと医学も勉強していると思うが、数値が正常なら大丈夫だと押し通せば良い。
戦えないのは確かだが、此処で何日もお世話になるのは流石に悪いだろう。
ついでにシャワーだけじゃなくて、しっかりと風呂に入りたい。
「さてと、邪魔者は去ったので診察の時間だが……」
ジャンヌさんはそこで言葉を切り、俺をジッと見つめる。
「実際の体調はどんな感じなんだい?」
(どうする?)
『正直に答えて良いんじゃない? 最初に誤魔化したのは私だけど、ジャンヌならハルナの意思を尊重してくれると思うよ?』
とは言われても、間違いなく小言は言われそうなんだよな……。
先程数値だけ弄ったばかりだが、ジャンヌさんにはなんやかんやお世話になっているし、小言を言われても言い返すことは出来ない。
かと言って無下にする訳にもいかないので、聞き流すのも悪い。
まあ話せと言われたし、話すか。
「外傷は見ての通り無いですが、貧血と、内臓のほとんどが機能不全を起こしています。歩くのも辛い所ですが、後3日程寝て食べての生活をすれば、多少回復すると思います」
「多少……完全回復まではどれくらいかな?」
「最低2週間。無理をすることを含めれば3週間ですね」
今日が何日かまでは確認してないが、大体2月末位だ。
ソラが成長しなければアルカナの同時解放……今言った無茶が出来ない。
通常なら今言った日数必要だが、そんな余裕は残されていないだろう。
魔女がいつ動き出すか分からないが、流石に1ヶ月も待つは思えない。
丸々1週間前倒し出来れば良いが、最悪の場合不調のまま戦うことになる。
ただでさえ低い勝率が更に低くなる。
戦いたい欲はあるが、暫くは休みに徹する。
ついでにあの栄養バーを吐く寸前まで食べなければ……。
カロリーと栄養だけは素晴らしいが、他が酷過ぎる。
そんな俺の内心とは別に、ジャンヌさんは難しい顔をしている。
考えているのは俺の回復に掛かる時間についてだろうと予想はつく。
3週間。既に星喰いは向こうの手の中だ。
もしかしたら明日にでも魔女が動き出すかもしれない。
そう考えれば、長すぎるだろう。
「……まあ、イニーなら良いか」
長々と考えていたジャンヌさんは頭を掻きながらそう言った。
「どういうことですか?」
「イニーは虫の息だったから覚えがないだろうが、M・D・Wの時にイニーを治した方法を使おうと思ってね。私が1日倒れてしまうが、イニーなら代わりが務まるし、楓も許可を出すだろう」
M・D・Wとは随分と懐かしい……とも言えないな。
あれからまだ半年も経っていないので、どんな戦いだったかはまだ鮮明に覚えている。
自分の腹に杖を刺して、血と杖を触媒に魔法を発動した。
今ならば白魔道師状態でも勝てるだろうが、あの頃はまだまだ弱かった。
しかもM・D・Wの自爆を完全に防ぐ事は出来ず、アクマの機転がなければ死んでいただろう。
雪辱戦も兼ねて、今度シミュレーションで戦っておくか。
「良いのですか?」
「1日と3週間なら、1日の方が良いからね。それに全治3週間なのにケロっとしていられるイニーが心配ではあるが、治りさえすれば1日私の代わりに働くくらい問題ないだろう?」
「まあ……」
ジャンヌさんの奥の手の奥の手。
生きてさえいれば治す事が出来る奇跡の魔法。
永劫回帰
血や内臓も含め、身体を元の状態に戻す魔法だ。
これを使えば、健康状態になるが、この魔法は身体が記憶している状態にするので、俺の変異した細胞は戻らない。
ついでにソラもチビのままだが、摂取した栄養を全て回す事が出来るので、1週間もあればアルカナの同時解放も時間制限有りだが使えるようになるだはずだ。
この魔法は魔法の域を脱している気もするが、俺もこれ位凄い魔法が使えれば……。
それはそれとしてデメリットは、ジャンヌさんが倒れてしまう事だが……今言っているように俺が代われば問題ないだろう。
まあ、使うにしても先ずは許可を取らないとだけどな。
「もしもし、私だ。イニーの状態を鑑みて魔法を使う事にした。ああ。1日倒れるからよろしく。それと、アロンガンテにも伝えていてくれ。それじゃあ」
ジャンヌさんはさっさと楓さんに連絡を取り、許可を貰ってしまった。
治してもらえるのはありがたいし、これ以上は何も言うまい。
「それじゃあ魔法を使うからベッドから降りてくれ」
「はい」
ベッドから降りると、代わりにジャンヌさんがベッドへと横になる。
魔法を使えば気を失うので、先に横へなっておくのだろう。
見栄えは正直悪いが、俺がジャンヌさんをベッドに運ぶのは少々厳しいので、仕方ない。
「よいしょっと。それじゃあ後は頼んだよ。仕事についてはアロンガンテに聞いてくれ。永劫回帰」
魔法が発動して全身が光り、あまりの眩しさに目を閉じる。
感じでいた倦怠感や貧血による目眩が全て吹き飛び、世界が広がるような感覚が襲う。
健康体とは良いものだ。
魔法が終わるのを感じて目を開けると、ジャンヌさんは気を失っていた。
(アクマ)
『オールグリーンだね。健康体そのものだよ』
手を閉じたり開いたりしたり、軽く首を回しても違和感がない。
本当に、アクマに言われた通りジャンヌさんを助けておいて良かった。
昨日タラゴンさんが置いていった栄養バーを噛りながら部屋を出る。
タラゴンさんには悪いが、カレーは夕飯にしてもらおう。
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