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魔法少女の根回し

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 レンさんの提案により、一旦魔法少女たちの治療をすることになった。
 
 戦力増強のためだが、この前ジャンヌさんに付いて行ったおかげで熟練度が上がっている。
 その為素早くかつ、少ない魔力で治療する事が出来るだろう。

 まあ、重度の怪我については個別で直す必要があるが、エルメスのおかげで効率は上がっている。
 準備に少し掛かるが、始まれば2時間も掛からないだろう。

 オーストラリアの時みたいに国を覆うようにやっても良いが、流石に大々的にやるのは憚られる。
 破滅主義派が動いている可能性があるので意味はないかもしれないが、なるべく隠れて事を進めた方が良いだろう。

 さて、準備やなんだでイギリスの動ける魔法少女が減るだろうが、そこはレンさんが1人で頑張ってくれるだろう。

「それじゃあ行きますよ」
「行くってどこに?」
「先行投資にですよ」

 このまま準備が出来るまで待っていても良いが、どうせ暇なので先に動いてしまおう。
 どうせ医務室には、何人か魔法少女が寝込んでいるはずだ。
 
 先に治して安全性を示しておくにはもってこいだろう。
 なにせ俺が正式な依頼で治療をしたのはジャンヌさんとのボランティアの1回だけだ。

 一応オーストラリアで大盤振る舞いしたが、だからと言ってそこまで知名度は上がっていないだろう。
 それよりも魔物の討伐の方が、インパクトが強かっただろうからな。
 
 なので、円滑に話が進むようにしておきたいのだ。

 幸い魔法局の内部構造は大体理解できたし、アクマがいれば迷うことはないだろう。

 そわそわはしているリンデを連れて、アクマの案内で医務室に向かう。

「失礼します」
 
 医務室に入ると職員と思われる女性と、担当と思われる魔法少女が1人居た。
 どちらの顔も疲れ果てており、今にも倒れそうだ。 
 
「急患ですか? 命の危険性は?」
「患者ではなく、手伝いですよ」

 疲れている2人に、アロンガンテさんによく使っている疲労回復の魔法を使う。
 そうすると目を見開き、体の様子を確かめ始めた。

「こんな魔法があるなんて……」
「その内局長か誰からか通達があると思いますが、現在収容されている魔法少女を含め、全ての人を治療します」
「そんな無茶な事……」 

 職員が何を馬鹿なことと言おうとするが、それを魔法少女が遮った。

「あなたってもしかしてオーストラリアの?」
「知っているなら話が早いですね。先ずはここの患者の下に案内してくれますか?」
「……あなたが局長の名を受けたって証拠はあるのかしら?」

 此方を値踏みするように魔法少女は身構える。
 確かに治しに来ましたから通せってのは難しい話しだろう。

 向こうも出来れば治して欲しいのだろうが、許可がない事には勝手に話を進めることが出来ない。
 だから、面倒だがこいつを連れてきたのだ。

「この魔法少女が証拠ですよ」

 リンデを俺の前に出す。
 すると若干険しい表情をするが、頷いた。

「確かにその子なら証拠として十分ね。分かったわ。付いて来て」

 状況がよく分かっていないリンデが少し慌てるが、こいつは局長の孫であり、その孫が俺と一緒に居るとなれば、局長が俺を信用している証拠となる。

 魔法少女の後について行くと一室に通され、中にはベッドに横なっている魔法少女が数人居た。
 血の匂いはしないが、此方を見る目はあまり良くない。

「重症者順に紹介をお願いします」
「カルテを見た方が早いでしょう。どうぞ」

 確かにそうだな。
 一番酷いのは両腕の欠損か。
 他にも指の欠損や毒などもあるが、内臓さえ無事ならそこまで大変ではない。

 さっさとやってしまおう。

「分かりました。私でも問題なさそうなので、1人ずつやっていきましょう」
「……本当に大丈夫なんでしょうね?」
「ええ。ジャンヌさんのお墨付きを貰ってますからね」
「――師匠の?」

 おや? どうやらジャンヌさんの弟子みたいだな。
 あの人も回復魔法の素養がある人の面倒を見ていると言っていた気がするし、おかしくないか。

 一番奥に居る両腕がない魔法少女の所に行くと、生気の無い目で俺を見る。
 腕が無ければ何も出来ないから、そうなるのは理解できる。

 そして、変身を解除しないのは痛みが怖いからだろうか?
 色々と考察出来るが、治してしまえば問題ない。

回帰せよリアライズ

 この感覚だと腕が無くなってから結構経っているな。
 これじゃあもう治らないと悲観的になるのも頷ける。
 俺にとっては少しだけ消費魔力が増えるだけで、そこまで苦ではないがな。

 魔法による光が収まると、そこには腕が生えた魔法少女が居た。
 
「終わりです。腕を動かしてみて下さい」

 生気の無い目は戸惑いの色を宿し、そこから驚きに変わる。

「動く……」

 噛み締めるように呟いた。

 実際に治るのを目の当たりにした、他の魔法少女の態度は変わり、希望の火が宿る。

「魔力は大丈夫なの?」
「はい。この程度なら百人でも千人でも治せます」

 胡散臭いものを見るような、化物を見るような感じだが、実際に回復魔法を使える魔法少女には俺がどれだけ異常なのか分かるのだろう。

 まあ、そんな視線など気にならないし、他の患者たちも治してしまおう。

「順番に治しますので、静かに待っていて下さい。治療費は局長が払うので大丈夫です」

 本当はレンさん持ちだが、ここはバイエルンさんに花を持たせといた方が、印象が良くなるだろう。
 小さな事の積み重ねが大事なのだ。

 それから順番に治していき、病室に居た全員を治し終えた。
 
 仕事を終えたので、最後の仕上げといこうか。
 
「治療費はないですが、少々お願いがあります。動ける人で良いので、この事を各地で宣伝して下さい」
「それはどういう事ですか?」
「あなたたちの最初の反応が答えですよ」
 
 バイエルンさんや他の局長が声を掛けたからと言って、俺では人が集まり難いだろう。
 だが、実際に治してもらった人が居れば、多少は信用を得られるはずだ。

 何名かはどういう事だと首を傾げているので、もう少し詳しく話しておくか。
 
「私が治すと言って、本当に治ると思った方は居ますか?」

 全員目を逸らしたとさ。
 素直でよろしい。

「後数時間すればアナウンスがあると思いますが、先に宣伝をしといた方が、効果がありますからね。私に治してもらったと言い回ってください。先程も言いましたが、動ける人だけで結構です」
「あなたの名前は?」
「イニーフリューリング。日本の魔法少女です」

 若干恥ずかしくなってきたので、病室から出る。
 さっさと出ないと何を言われるか分からないからな。

「他に患者は居ますか?」
「此処には重傷者だけよ。軽症者で治せるのは治して、駄目なのは妖精界に送ったわ」

 駄目ってのかどの程度か分からないが、妥当な判断だな。

「そうですか。お疲れさまです」
「それをあなたに言われると釈然としないわね……そう言えば、なんでフードを被ったままのかしら?」
「顔を晒したくないからですよ」
 
 俺からは普通に見えているが、相手からは黒い空間が見えているだけだ。
 薄気味悪いだろうが、顔を見られるよりは良いだろう。

 変な顔をされたがそれ以上の追求はなかった。
 
「さっき言ってた治療をするって本当なんでしょうね?」
「はい。それが命令ですからね」

 魔法少女は何かを考えるような仕草をした後に一度頷いた。

「良かったら時間まで此処で待っていてくれないかしら?」
「それはどうしてですか?」
「聞いた感じだと結構な数になるのでしょう? あなた1人に任せるのはイギリスの魔法少女として申し訳ないから、人を集めてくるわ」

 動いてくれるというのなら、俺からとやかく言うつもりはない。
 
「分かりました」
「それと、患者については任せるわ。お願いね」

 そう言い残し、残っていた職員と共に医務室を出て行ってしまった。

「凄いんですね……」

 急にリンデが言葉を零した。
 
 凄いと言われても、これは俺が本来持ちえた力ではない。
 憎悪の残り物だ。
 
「凄くなんてないですよ。それより、何か飲み物でも飲みましょう。時間はまだありますからね」

 連絡が来るまで魔物の討伐をしたいが、任されてしまったからには此処で待つしかない。
 
 リンデが飲み物を持ってくるまで、診療用の椅子に座って待つ事にした。



 
1


 

 
 肌を刺すような冷たい風が吹き抜ける。
 
 否。それはただの風ではなかった。

 魔物の肌を撫でる様に吹き抜け、魔物を塵へと変える。
 風が通り過ぎた後には何も残らない。
 
 フリーレンシュラーフ……レンの能力は凍らせる事だ。
 タラゴンと似たような能力だが、その威力は比較にならない。

 レンが本気を出せば、勝てる魔法少女は楓位なものだろう。

 イギリスに現れた魔物は現れたそばから凍り付き、塵へと変わっていく。
 レンはバイエルンとの約束通り、魔物を殲滅していた。
 しかし、これだけ大きな魔法を使えば、イギリスで異変が起きていると教えるようなものだ。

「既に変なのが居るけど、どうするんだい?」
「どうしましょうね?」

 イギリスで起きている惨劇をモニターで見ながら、魔女とリンネは少し困っていた。
 
 アロンガンテの読み通り、魔女はイギリスで騒動を起こそうとしていたが、レンが暴れまわっているのを見てどうするか考えているのだ。

「居ると思うかしら?」
「さあね。そっちでは追えないの?」
「今は無理ね。常にアクマが隠蔽してるから、能力でも使ってくれないと探せないわ」

 フールによってアルカナ2人分のリソースがあるアクマは魔女の捜索だけではなく、自分たちの隠蔽もやっていた。

 本来ならどちらが片方しか出来ないが、パワーアップしたアクマだからこそ出来ることだ。

「そうか……私は居ると思うよ」
「その言葉を信じるとするわ。北極の準備も粗方終わったし最後の遊びといきましょうか」
「遂にか…………あなたとの付き合いも長いが、これでお別れか」

 リンネは軽く笑った。

「そうね……いや、そうならないかもね」
「期待……してるのかい?」
「いいえ。ただの好奇心と言ったところかしら? もしも彼女が勝つと言うのなら、その時初めて期待させてもらうわ」

 魔女の目的は世界を滅ぼすことだ。

 しかし、真の目的は別にある。

 その事は誰にも話しておらず、知る者は誰も居ない。

 だがリンネは、その真の目的が何なのか、なんとなく分かっていた。

 だから独断に近い形でイニーを見逃したり、出来うる限り見守る様にしている。

 それももうすぐ終わりを迎える。
 魔女の準備はほとんど整い、後は来るべき時を待つくらいだ。

 だがら、イニーを試すのも今回で最後となる予定だった。
 魔女の心変わりで変わる可能性もあるが、それを知るのは魔女だけだ。

「今回は私の方に任せてくれないか? 次がないと言うのなら、やってみたいことがあるんだ」
「へぇ……構わないわよ、一体どんな作戦なの?」
「そんなに面白いものではないさ。ただ、最後だと言うのなら、盛大に打ち上げようってだけさ」
  
 リンネは自分が考えた計画を魔女に話す。
 それを聞いた魔女はただ頷き、リンネが計画を実行する事を許可した。

「確かに面白みがないけど、それはそれで有りね。それに、今の彼女に既存の魔物を差し向けても意味がほとんどないでしょうし、そうするしかないわね」
「ああ。出来れば結界外でやりたいが、流石にそれでは横槍が入ってしまうからね。他への対処はお願いしても?」
「分かった。実行はいつ?」
「2月14日……今から5日後にしよう」

 リンネがこの日を選んだ事に深い意味はない。

 ただ、勝つにせよ負けるにせよ、最後となる彼女たちに僅かばかりの休暇を与えるため、5日間の日を空ける事にしたに過ぎない。

 最後の残るものは何も無い。

 破滅の未来が……直ぐそこまで迫っていた。



 
 
 「そうだ。折角だし、彼女も使おう」



 
 

 世界に蔓延しているのは、希望悲しみと言う名の絶望想いだけだ。
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