上 下
140 / 250

魔法少女は弟子になる

しおりを挟む
 やはりというか、分かっていた事だが、起きても身長は縮んだままだった。
 流石に着られる服が無いので、ぬいぐるみパジャマを着る事にした。
 多少だぼだぼだが、これなら着る事が出来る。

 今日はジャンヌさんの所に行けと言われているので、面倒だが行かなければならない。

『おはよー。あちこちから連絡が来てるよ。一番重要な連絡は9時に来てくれってジャンヌからの連絡かな』
 
(了解。今何時だ?)

『7時半だよ。まだまだ余裕があるね。後アロンガンテとマリンからも連絡が来てるから後で見といた方が良いかも』

 アロンガンテさんのは世界会議についてだろうか?
 マリンはどうせ俺が先に帰ったことについてだろうな。

 外は晴れているが、雪が凄い事になっている。

 雪が積もっているって事はタラゴンさんが帰って来ていない事を意味する。

 朝食を自分で準備しなければいけないのは少々面倒だが、周りを気にしないで朝食を食べる事が出来るな。
 
 軽く体を動かし、ゆっくりと風呂に入ってから素うどんを食べて準備完了だ。
 朝は軽くで、妖精界でしっかりと食べれば良いだろう。

 この身体ではご飯を作るのも一苦労だ。

 一苦労で思い出したが、晨曦との戦いで剣が折れてしまったが、影響はあるのだろうか?
 ついでにエルメスと契約した事による影響も確認したいが、身体が治るまではやらない方が良いだろう。

 魔力の消費が激しいのもあるが、身体への負担もあるだろうからな。

『そろそろ行く?』

(そうだな。施設の前まで頼む)

 変身してからアクマに転移してもらう。
 ダボダボのローブを引きずりながらジャンヌさんの執務室を目指していると、妙に執務室まで遠く感じた。

 ……いや、原因は分かっているが、もどかしいものだな。

 いつもより時間を掛けて歩き、執務室の扉をノックする。

「開いてるよ」

 ジャンプしてノブを掴み、何とか扉を開けて入室する。

「失礼します」

 執務室に入るとジャンヌさんが固まっていた。

「ジャンヌさん?」
「……失礼。アロンガンテから話は聞いていたが、本当に小さくなってるんだね。とりあえず診てしまうからそこに座ってくれ」

 ジャンヌさんに言われた通りに座った後、腕を触られた。

「ふむ。体調面では問題なさそうだが、変身してなくてもその状態なのかい?」
「はい。後1日程で戻る予定ですね。アルカナの副作用みたいなものです」
 
 エルメスが言っていた通りなら明日には戻るが、予定通りに事が運んだことがないから、素直に戻る事が出来るだろうか……。

「なるほどね。因みに戦闘面はどうかね?」
「出来ない事もないですが、杖を持てないので、B級以上は難しいですね」

 杖がないと色々と制約が付いてしまうからな。
 いや、持てないこともないが、杖を持って動く事が出来ないので、固定砲台にしかならない。
 
 ついでにいつもより能力が低下している感じがする。

「そうか……ふむ、イニー次第だが、良ければ私の仕事を手伝ってくれないかい?」
 
 仕事ねー。ボランティアの事を思い出すな。
 あの時は問題なく終わると思いきや、ロックヴェルトに襲われて大変だった。
 しかも杖が無いせいで魔力もギリギリだったし、グリントさんが居なければ、ドラゴンによって丸焦げにされていただろう。
 
(どうする?)
 
『内容次第じゃない? 今は戦うこともできないしね。それに、先手を取るのは中々難しいからね』

「仕事とは一体何をするんですか?」
「回復魔法の使い手が足りない魔法局を回って、回復してやるのさ。一応私は世界で一番の回復魔法の使い手だからね。こんな時にこそ働くのが役目なのさ」

 他の回復魔法の使い手と、比べものにならない位ジャンヌさんの回復魔法は優れているからな。

 俺が言えた義理ではないが、それだけの闇を抱えているのだろう。
 俺の場合は年月の分濃縮されたのもあるだろうけどな。

 しかし、どうしたものか……。
 今の状態で無理して戦う気はない。
 本気で戦えないのはあまり楽しくないからな。

 だからジャンヌさんの話に乗るのは良いのだが、人前に出るのはあまり好きではない。
 頼みの綱であるフードは被ると前が見えなくなるし、半端に被っても効果を発揮しない。

 ついでに、それなりに恨みを買っているから弱体化している今はリスクを伴う。

「手伝うのは構わないのですが……」
「今なら変装すればイニーと分かる者も少ないだろう。一応映像を確認したが、戦いが終わると共に終わっていたからね」

 ふむ、そうなると俺の事を知っているのはほとんど居ないのか……。
 
 少々面倒だが、ジャンヌさんには世話になってるし、借りを返す意味でも手伝っておくか。
 借りた借りは必ず返す。
 人として当然の事だろう。

「分かりました。お引き受けします」
「それは良かった」

 ジャンヌさんは胡散臭げに笑い、3着の服を出してきた。

「最近は魔法少女用の服も充実してきたからね。この中から好きなのを選びたまえ」

 1つはジャンヌさんと同じ白衣。
 1つはミカちゃんが選びそうな動物型の着ぐるみだ。
 これは顔の部分だけが開いているので、呼吸は楽そうだが、何故ウサギをチョイスした?
 最後のは囚人服だ。

「因みに変装先は弟子、親戚の子、囚人だ。好きなのを選びたまえ」
「弟子で」

 実質一択だよな。親戚の子も悪くないが、着ぐるみは流石に嫌だ。
 それに囚人は流石にネタだろう。

 こんな子供がどんな犯罪を出来るというのだ?

「そうか。なら向こうの部屋で着替えてきてくれ」
「それは大丈夫です」

(アクマ)

『了解。サクッと換装しちゃうよ』

 白衣を手に持つと、一瞬光ってローブから白衣に変わる。
 ついでに、中に着ていた服も黒い服とズボンに変わる。

「便利なものだが、それもアルカナとやらの力かね?」
「そうです」

 普通に着替えることもあるが、面倒な時はアクマがやってくれる。
 問題点はアクマチョイスの服しか着させてくれない事だろう。

「そうか……着替えの手間が省けるのは良いな。本来なら急いだ方が良いのだが、一杯どうかな?」

 ここ最近は怪我で戦線離脱したり、魔法少女を辞める決断をする者が増えてきている。
 それに、一般人にも無視できない被害が出ているので、急いだ方が良いのだろう。

 だが……。

「いただきます」
「ふっ。君ならそう言うと思ったよ」

 珈琲の魔力には抗えなかった。
 なにせジャンヌさんの所で飲める珈琲は非売品の物ばかりであり、家で飲んでいる奴より1段か2段程上質だ。

 飲める時に飲んでおきたい。
 
 ジャンヌさんは珈琲を淹れに行き、少ししたらマグカップを2つ持って戻ってきた。
 
「お待たせ、ついでだから手伝いの詳細も話しておこう。先ずはミグーリアに行って仕事をする予定だ。ここはまだ各国との繋がりが弱く、支援ができていないので、こっちに回ってきた感じだね。その後は中国で終わりだ。メインは魔法少女たちだが、余力があるなら一般人もだね。因みに私の弟子たちは全員死屍累々状態だ」

 丁度人手が足りなかった所に俺が来たのか。
 運が良いのか悪いのか……。

「本来なら戦闘要員として誰か連れて行くのだが、オーストラリアの件で何処もピリピリしていてね。更に日本のランカーたちも慌ただしいからね。頼むのは少々気が引けていたんだ」
「分かりました。珈琲の分はしっかりと働きます」
「それで構わないさ。さて、偽名だが……リリーで良いか」

 安直だが太郎や五右衛門とか付けられるよりはマシか。

「それで大丈夫です」
「それでは今日だけは私の弟子の、魔法少女リリーだ。宜しく」

 リリーとイニー。
 イントネーションも似ているし、偽名だが親しみが持てる。
 間違うこともないだろう。

 珈琲を一杯飲み、一息ついてからテレポーターに向かう。
 しかし、ここで一つ問題が起きた。

 ――俺の足が遅いのだ。
 ジャンヌさんの身長は多分160後半くらいだろう。
 対する俺は……まあ、気にするな。

「私はどちらかと言えば子供は苦手なんだが……リリーみたいな子ならありだな」
「そうですか」

 現在俺はジャンヌさんに肩車されています。
 有事の際に両手は使えた方が良いから仕方ないのはわかるが、俺の尊厳はボロボロである。

 さて、ジャンヌさんと話しても良いが、鼻歌を歌いながら歩いてるのを邪魔するのも悪いし、念のため情報収集しておくか
 
(ミグーリアの情報を頼む)
 
『了解。人口とか魔法少女の総数は置いといて、ここは魔法少女の育成に力を入れているけど、まだ全体的な強さは微妙かな。ランカーでは3人被害が出てるね』
 
 3人か……10人の内3人も減れば戦力はガタ落ちだ。
 抜けたからと言って同等の魔法少女なんて居る訳ないだろうし、大変だろうな。

『それと回復魔法を使える魔法少女が少ないせいで戦力も減る一方だね。回復魔法を使える魔法少女も結構追い詰められてるし、後2週間もすれば国としての体制を保てなくなりそうだね』
 
 結構ギリギリなのか。
 それならジャンヌさんが行かなければならない理由も分かるな。
 しかし。魔法少女の育成に力を入れていると聞いた記憶があるが、回復魔法については駄目だったのか。

 素養が魔物への憎悪とかならまだしも、世界への憎悪だからな。
 必死に生きようとしているミグーリアに、回復魔法の素養持ちが少ないのは道理だろう。

(ジャンヌさんの言っていた国同士の繋がりは?)
 
『繋がりというか、ミグーリアを支援する意味がほとんどないせいで、他国と関係を築けていないみたいだね』
 
 ……ああ。通常なら軍事や国境など他国と関わる必要性があるが、軍は魔法少女が代用され、国境なんて今の世ではほとんど関係ない。

 土地だけなら余ってるからな。
 戦争も俺が生まれてから一度も無いし、魔物と戦ってくれるならなんだってウェルカムなのだだろう。

 大国からすれば、体のいい捨て駒と言ったところか?

(そう言えば、新魔大戦に出ていた魔法少女が居たと思うが、まだ生きてるのか?)

『登録はされたままだから生きてはいるね。ただ……まあ行けば会うだろうし、お楽しみって事で』 
 
 それって正体がバレるフラグな気もするが、流石に大丈夫か?
 新魔大戦の時も実際に話していないし、あの時はそれ処ではなかったからな。

 何ならデンドロビウム以外の名前は忘れている。
 ああ、オーストラリアのはこの前会ったからまだ覚えているな。

 アクマと話しているとジャンヌさんの鼻歌が終わり、テレポーターの前に着いた。

「さて、このままテレポートしても良いが、師匠の上に居る弟子ってのは印象が悪くなるから一旦降りようか」
「分かりました」
 
 ジャンヌさんの肩から降りて、一緒にテレポーターへ入る。

 どうか何も問題が起きない事を祈るばかりだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛プロデュース〜年下彼の誘惑〜

氷萌
恋愛
30歳を迎えた私は彼氏もいない地味なOL。 そんな私が、突然、人気モデルに? 陰気な私が光り輝く外の世界に飛び出す シンデレラ・ストーリー 恋もオシャレも興味なし:日陰女子 綺咲 由凪《きさき ゆいな》 30歳:独身 ハイスペックモデル:太陽男子 鳴瀬 然《なるせ ぜん》 26歳:イケてるメンズ 甘く優しい年下の彼。 仕事も恋愛もハイスペック。 けれど実は 甘いのは仕事だけで――――

戦場で死ぬはずだった俺が、女騎士に拾われて王に祭り上げられる(改訂版)

ぽとりひょん
ファンタジー
 ほむらは、ある国家の工作員をしていたが消されそうになる。死を偽装してゲリラになるが戦闘で死ぬ運命にあった。そんな彼を女騎士に助けられるが国の王に祭り上げられてしまう。彼は強大な軍を動かして地球を運命を左右する戦いに身を投じていく。  この作品はカクヨムで連載したものに加筆修正したものです。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

ほつれた心も縫い留めて ~三十路の女王は紳士な針子にぬいぐるみごと愛でられる~

穂祥 舞
恋愛
亜希(あき)はチェーンスーパーの店舗事務でチーフを務める。その威圧感から職場では「女王」と呼ばれ、30歳に手が届いた現在、彼氏なし。そんな彼女の趣味は、うさぎのぬいぐるみを撮影し、SNSにアップすることだ。 ある日の朝、公園で撮影をしていた亜希は、自分と年齢の近い男性にその現場を目撃され、逃げ帰る。その日の夕刻、店長の代わりに弁当をぬいぐるみ病院に配達した亜希は、公園で出会った男性・千種(ちぐさ)がその病院の「医師」であることを知る。 ぬいぐるみを大切にする人を馬鹿にしない千種に、亜希は好印象を抱く。ぬいぐるみの修理を千種に依頼しようとする亜希だが、その1ヶ月の間、預けた子の代わりに自分がなろうと、千種が奇妙な提案をしてきて……。 ☆この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは、何の関係もありません。★エブリスタにも掲載しています。

処理中です...