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魔法少女マリンの本懐
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その連絡は唐突だった。
いや、可能性としてはあり得ると思っていた。
しかし、内容は彼女の思っていたものとは違った……。
端末を確認したマリンは直ぐにテレポーターに向かい、指定された場所に跳んだ。
場所はオーストラリア近海に停泊している特殊な、船とは名ばかりの戦艦だ。
テレポーター室に居る妖精へ事情を話したマリンは、真っすぐにアロンガンテから指定された部屋へ向かった。
そして5回ノックすると、扉が開かれた。
「来ましたね。ゼアー」
マリンが部屋に入るとアロンガンテと、マリンの知らない魔法少女が居た。
誰なのか尋ねたいが、アロンガンテはその時間すら惜しいと言わんばかりに行動を開始する。
「分かってるわよ。ちゃんと準備出来てるわ。ただ、思ったよりプロテクトが強いから、この後私は何もできないからね。ゲートオープン」
部屋の中央に黒い空間が現れる。
先を見通すことは出来ず、それは黄泉に繋がる門の様に、マリンは感じた。
「場所はなるべくイニーの近くに設定してるけど、どうなるかは分からないわよ。個人的にはオススメしないけど、覚悟が出来たら入りなさい。それじゃあ頑張ってね」
ゼアーはやることをやるとアロンガンンテの影に沈んでいき、姿を消してしまった。
「さっきの人は誰ですか?」
「10位のゼアーフィールです。少々手助けしてくれました。さて、本当に宜しいのですね? 一度潜れば待っているのは地獄です。イニーが生存していればいいですが、死んでいた場合マリンが助かる術はありません。それでも行ってくれますか?」
マリンは迷いの無い眼差しでアロンガンテを見る。
マリンの心は既に決まっている。
例え危険であったとしてもイニーの力になれるのなら、地の底だろうが地獄だろうが、迷わず行くと決めている。
「構いません。イニ-の助けとなるなら、私は行きます」
「そうですか……分かりました。これ以上は何も言いません。最後にですが、イニーは破滅主義派のメンバーと戦っていると思われます。その場合は無理に手を出さず、状況をしっかりと見極めて下さい。それでは気を付けて」
「はい」
マリンがゲートに入ると、小高い丘に出る。
眼下には魔物が溢れ、地平線には大型の魔物が、動いてるのが見えた。
「地獄……ね」
映像だけでは分からない、結界内に充満する魔力を感じて、マリンは唾を呑みこむ。
これだけの魔物をマリンが倒すことは出来ない。何よりSS級の魔物を単独で倒すのはマリンにはまだ荷が重い。
だが、魔物の事は二の次であり、大事なのはイニーを見つける事だ。
ゼアーが言っていた通りなら、そう遠くない位置にイニーが居るはずだが、こんな広い荒野で人を探すのは不可能に近い。
だが、魔法少女は魔力を感じ取る方法がある。
マリンはイニーに重い感情を向けている為、多少の障害は物ともしない。
だが、イニーの溢れる様な魔力を感じ取ることは出来ず、漂うのは僅かな残滓のみ。
最悪の事態がマリンの脳裏を過るが、マリンはそれを振り払うようにして、最も残滓が濃い場所に向かう。
幸いマリンが進む方向に魔物は少なく、襲われることは殆どなかった。
襲い来る魔物を倒しながら、マリンはイニーを探す。
しかし、イニーの姿は見つからない。
(おかしいわね。イニーの魔力は確かに感じるのに、イニーが見つからない……)
もしも死んでしまったのなら、戦闘痕や血などが残るはずなのに、それらが全く見つからない。
街からも離れている為聞こえるのは魔物の鳴き声ばかりで、戦闘音も聞こえない。
焦燥感が募り始めた頃、禍々しく淀んだ魔力が突如として現れた。
マリンは発現場所に急行すると、そこには倒れている見慣れた白いローブと、その白いローブに呼び掛ける何かが居た。
白いローブには今も赤い血が滲み出ており、その量は死んでいてもおかしくない程だ。
僅かに見える四肢は変色しており、微動だにしていない。
「っ! マリン! どうして此処に?」
「イニーは? イニーは大丈夫なの?」
マリンは最悪の事態が脳裏に過り、おぼつかない足取りでイニーに近付いていく。
「触るな!」
近づこうとするマリンとイニーの間に何か……アクマが入り、マリンを威嚇する。
イニーの事で頭が一杯なマリンだが、今の手掛かりはこの何かしか居ないのだ。
何かの様子はイニーを心配していることから、敵ではないのは確かだろう。
だが、相手はマリンの名前を知っている。
気を抜くことは出来ない。
「あなたは何なの?」
僅かに冷静になったマリンは伸ばしていた手を引っ込めた。
「私はイニーの契約妖精だよ。マリンはどうして此処に?」
「イニーに問題が起きたかも知れないってアロンガンテさんに言われて、イニーを探しに来ました……けど……」
微動だにしないイニーをちらりとマリンは見る。
「まだ、まだ死んではいないよ。でも此処から動かすことも不可能だよ。イニーの中身は人としての機能を維持していないし、魔力も回復しない。けど、契約は切れてないから死んではいない……」
マリンは契約という言葉に疑問符が浮かぶが、大事なのはまだイニーが死んではいないという情報だ。
だが、様子を見る限りでは生きているとは思えない。
僅かに覗く口からも血が流れており、とても呼吸が出来ているようには見えないのだ。
しかし、この妖精が言う通りなら……。
「――私に何か出来る事はありますか?」
今のマリンがイニーにしてあげられることはないかもしれない。
だが、まだ可能性があると言うのならば、最後まで足掻きたいのだ。
「……正直、今のハルナに何かしてあげられる事はない。けど待ってる間にも魔物が襲ってくるだろうから、それを倒して……そうすれば……もしかすれば……」
「分かったわ」
マリンがイニーの所に来るまでに倒した魔物はそこまで強くなかったが、これから先はどうなるか分からない。
幸い周りにSS級の姿は見えないが、今のオーストラリアでは何が起きてもおかしくない。
「少しだけ援護してあげる。だから、ハルナを守って……」
マリンはアクマの切実な思いに頷いて答え、頭に走った痛みに少し驚く。
そして援護の意味が分かり、強化フォームに変身する。
アクマがしたのは、イニーにしたマップの下位バージョンの魔法だ。
範囲は数十メートルだが、それだけあれば守りやすくなる。
イニーが助かるかは分からない。
それでも可能性があるのならば、マリンは戦うことが出来る。
マリンは高く跳び上がり、イニーに群がってくる魔物に向かって弓を射つ。
矢は地面に当ると爆発し、魔物を吹き飛ばした。
直ぐにマリンは刀に切り替え、魔物の群れに突っ込んでいく。
マリンのマップには大量の魔物が向かってくるのが見え、イニーを狙っているのが分かる。
弓と刀を状況に応じ使い分け、マリンはひたすら魔物と戦い続けた。
その戦いは奇しくも、M・D・Wの時に一般人を守りながら戦っていた時と似ていた。
しかし、魔物の量や質はあの時に比べれば雲泥の差である。
そして、マリンが脅威であると分かった魔物はイニーを狙いながらも、マリンにも攻撃をする様になった。
それなりに多数との戦いの訓練を積んできたマリンだが、魔法系の魔法少女に比べれば殲滅力が落ちてしまう。
弓でならそれなりに広範囲の攻撃ができるが、魔力の消費が激しい。
先の見えない戦いで弓だけを使う判断は出来なかった。
だからと言って弓を使わなければ空を飛ぶ魔物などを倒すことは出来ない。
少しずつマリンの怪我が増え、戦いの激しさに比例するように魔力が減っていく。
しかしマリンの闘志が陰ることはない。
仮にここで死ぬとしても、1人ではない。
少しずつイニーと魔物の距離が近づき、戦いを見守るアクマは懸命にイニーへと声を掛け続ける。
契約が切れていないとはいえ、イニーの心臓は完全に止まっている。
じりじりと焼けつくような時間が過ぎ去り、アクマが諦めようとした時、イニーに変化が起きた。
イニーを光の繭が包み込み、変色した肌は元の色に戻り、血だらけのローブが元の白さを取り戻す。
先程まで空っぽだった魔力は身体を巡り、再び供給が始まった。
そして、イニーは…………。
いや、可能性としてはあり得ると思っていた。
しかし、内容は彼女の思っていたものとは違った……。
端末を確認したマリンは直ぐにテレポーターに向かい、指定された場所に跳んだ。
場所はオーストラリア近海に停泊している特殊な、船とは名ばかりの戦艦だ。
テレポーター室に居る妖精へ事情を話したマリンは、真っすぐにアロンガンテから指定された部屋へ向かった。
そして5回ノックすると、扉が開かれた。
「来ましたね。ゼアー」
マリンが部屋に入るとアロンガンテと、マリンの知らない魔法少女が居た。
誰なのか尋ねたいが、アロンガンテはその時間すら惜しいと言わんばかりに行動を開始する。
「分かってるわよ。ちゃんと準備出来てるわ。ただ、思ったよりプロテクトが強いから、この後私は何もできないからね。ゲートオープン」
部屋の中央に黒い空間が現れる。
先を見通すことは出来ず、それは黄泉に繋がる門の様に、マリンは感じた。
「場所はなるべくイニーの近くに設定してるけど、どうなるかは分からないわよ。個人的にはオススメしないけど、覚悟が出来たら入りなさい。それじゃあ頑張ってね」
ゼアーはやることをやるとアロンガンンテの影に沈んでいき、姿を消してしまった。
「さっきの人は誰ですか?」
「10位のゼアーフィールです。少々手助けしてくれました。さて、本当に宜しいのですね? 一度潜れば待っているのは地獄です。イニーが生存していればいいですが、死んでいた場合マリンが助かる術はありません。それでも行ってくれますか?」
マリンは迷いの無い眼差しでアロンガンテを見る。
マリンの心は既に決まっている。
例え危険であったとしてもイニーの力になれるのなら、地の底だろうが地獄だろうが、迷わず行くと決めている。
「構いません。イニ-の助けとなるなら、私は行きます」
「そうですか……分かりました。これ以上は何も言いません。最後にですが、イニーは破滅主義派のメンバーと戦っていると思われます。その場合は無理に手を出さず、状況をしっかりと見極めて下さい。それでは気を付けて」
「はい」
マリンがゲートに入ると、小高い丘に出る。
眼下には魔物が溢れ、地平線には大型の魔物が、動いてるのが見えた。
「地獄……ね」
映像だけでは分からない、結界内に充満する魔力を感じて、マリンは唾を呑みこむ。
これだけの魔物をマリンが倒すことは出来ない。何よりSS級の魔物を単独で倒すのはマリンにはまだ荷が重い。
だが、魔物の事は二の次であり、大事なのはイニーを見つける事だ。
ゼアーが言っていた通りなら、そう遠くない位置にイニーが居るはずだが、こんな広い荒野で人を探すのは不可能に近い。
だが、魔法少女は魔力を感じ取る方法がある。
マリンはイニーに重い感情を向けている為、多少の障害は物ともしない。
だが、イニーの溢れる様な魔力を感じ取ることは出来ず、漂うのは僅かな残滓のみ。
最悪の事態がマリンの脳裏を過るが、マリンはそれを振り払うようにして、最も残滓が濃い場所に向かう。
幸いマリンが進む方向に魔物は少なく、襲われることは殆どなかった。
襲い来る魔物を倒しながら、マリンはイニーを探す。
しかし、イニーの姿は見つからない。
(おかしいわね。イニーの魔力は確かに感じるのに、イニーが見つからない……)
もしも死んでしまったのなら、戦闘痕や血などが残るはずなのに、それらが全く見つからない。
街からも離れている為聞こえるのは魔物の鳴き声ばかりで、戦闘音も聞こえない。
焦燥感が募り始めた頃、禍々しく淀んだ魔力が突如として現れた。
マリンは発現場所に急行すると、そこには倒れている見慣れた白いローブと、その白いローブに呼び掛ける何かが居た。
白いローブには今も赤い血が滲み出ており、その量は死んでいてもおかしくない程だ。
僅かに見える四肢は変色しており、微動だにしていない。
「っ! マリン! どうして此処に?」
「イニーは? イニーは大丈夫なの?」
マリンは最悪の事態が脳裏に過り、おぼつかない足取りでイニーに近付いていく。
「触るな!」
近づこうとするマリンとイニーの間に何か……アクマが入り、マリンを威嚇する。
イニーの事で頭が一杯なマリンだが、今の手掛かりはこの何かしか居ないのだ。
何かの様子はイニーを心配していることから、敵ではないのは確かだろう。
だが、相手はマリンの名前を知っている。
気を抜くことは出来ない。
「あなたは何なの?」
僅かに冷静になったマリンは伸ばしていた手を引っ込めた。
「私はイニーの契約妖精だよ。マリンはどうして此処に?」
「イニーに問題が起きたかも知れないってアロンガンテさんに言われて、イニーを探しに来ました……けど……」
微動だにしないイニーをちらりとマリンは見る。
「まだ、まだ死んではいないよ。でも此処から動かすことも不可能だよ。イニーの中身は人としての機能を維持していないし、魔力も回復しない。けど、契約は切れてないから死んではいない……」
マリンは契約という言葉に疑問符が浮かぶが、大事なのはまだイニーが死んではいないという情報だ。
だが、様子を見る限りでは生きているとは思えない。
僅かに覗く口からも血が流れており、とても呼吸が出来ているようには見えないのだ。
しかし、この妖精が言う通りなら……。
「――私に何か出来る事はありますか?」
今のマリンがイニーにしてあげられることはないかもしれない。
だが、まだ可能性があると言うのならば、最後まで足掻きたいのだ。
「……正直、今のハルナに何かしてあげられる事はない。けど待ってる間にも魔物が襲ってくるだろうから、それを倒して……そうすれば……もしかすれば……」
「分かったわ」
マリンがイニーの所に来るまでに倒した魔物はそこまで強くなかったが、これから先はどうなるか分からない。
幸い周りにSS級の姿は見えないが、今のオーストラリアでは何が起きてもおかしくない。
「少しだけ援護してあげる。だから、ハルナを守って……」
マリンはアクマの切実な思いに頷いて答え、頭に走った痛みに少し驚く。
そして援護の意味が分かり、強化フォームに変身する。
アクマがしたのは、イニーにしたマップの下位バージョンの魔法だ。
範囲は数十メートルだが、それだけあれば守りやすくなる。
イニーが助かるかは分からない。
それでも可能性があるのならば、マリンは戦うことが出来る。
マリンは高く跳び上がり、イニーに群がってくる魔物に向かって弓を射つ。
矢は地面に当ると爆発し、魔物を吹き飛ばした。
直ぐにマリンは刀に切り替え、魔物の群れに突っ込んでいく。
マリンのマップには大量の魔物が向かってくるのが見え、イニーを狙っているのが分かる。
弓と刀を状況に応じ使い分け、マリンはひたすら魔物と戦い続けた。
その戦いは奇しくも、M・D・Wの時に一般人を守りながら戦っていた時と似ていた。
しかし、魔物の量や質はあの時に比べれば雲泥の差である。
そして、マリンが脅威であると分かった魔物はイニーを狙いながらも、マリンにも攻撃をする様になった。
それなりに多数との戦いの訓練を積んできたマリンだが、魔法系の魔法少女に比べれば殲滅力が落ちてしまう。
弓でならそれなりに広範囲の攻撃ができるが、魔力の消費が激しい。
先の見えない戦いで弓だけを使う判断は出来なかった。
だからと言って弓を使わなければ空を飛ぶ魔物などを倒すことは出来ない。
少しずつマリンの怪我が増え、戦いの激しさに比例するように魔力が減っていく。
しかしマリンの闘志が陰ることはない。
仮にここで死ぬとしても、1人ではない。
少しずつイニーと魔物の距離が近づき、戦いを見守るアクマは懸命にイニーへと声を掛け続ける。
契約が切れていないとはいえ、イニーの心臓は完全に止まっている。
じりじりと焼けつくような時間が過ぎ去り、アクマが諦めようとした時、イニーに変化が起きた。
イニーを光の繭が包み込み、変色した肌は元の色に戻り、血だらけのローブが元の白さを取り戻す。
先程まで空っぽだった魔力は身体を巡り、再び供給が始まった。
そして、イニーは…………。
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