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魔法少女と1>4

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「始まるね」

 モニターに映る5人の魔法少女たちを見てジャンヌが呟いた。

 観客は2人……いや、3人居た。

 アロンガンテの姉であるミナトと、戦力外の為戦いに参加しなかったジャンヌ。

 そして、ジャンヌの影から現れたゼアーだ。
 
「ランカ-4人を相手にしての戦いか。勝てると思うかい?」

 突如現れたゼアーに驚くこともせず、ジャンヌはゼアーに声を掛ける。
 白橿は声を上げることはなかったが、突如現れたゼアーに驚いて目を見開いた。

「1人の魔法少女としてなら、分からないと答えるけど、個人的には勝ってもらわないと困るのよね」
「それはどうしてかしら?」
 
 ゼアーの事を知っている人間は殆ど……いや、誰もいない。
 そんな彼女がイニーに勝ってもらわなければ困ると言うのだから、白橿は気になって理由を聞いた。

「魔女と戦うと言っておいて、たかがランカー相手に負けるようなら、話にならないもの。そうは思わないかしら」
「……その言い分だと、彼女たちでは魔女に勝てないって事かしら?」
「彼女たちだけではなく、今生きている魔法少女では誰も勝てないわ。正確には勝てなかった、と言った方が正しいかしら」

 ゼアーは他の世界での出来事を知っているから誰も勝てないと分かっているが、ジャンヌや白橿からすれば不可解な発言でしかない。
 何ならスパイと疑われも仕方ないだろう。

「そんな目で見ないでよ。私はイニーの味方なだけよ」
「別に何も思ってないわよ。それより、そろそろ始まるわ」

 既にランカーの4人は強化フォームになっており、イニーも愚者の力を開放していた。

「初めから本気みたいだね。煽られてたから当然と言えば当然か」

 1対1の提案を意味がないとバッサリ切り捨て、1対4を提案した。
 更に本気で来いと煽られたのなら、それ相応の対応をしなければならない。
 魔法少女は力こそが全てだ。その力を侮られるのなら黙っていられない。

 相手がたとえ幼い少女だろうが、やるからには全力だ。

 カウントが始まり、緊張が走る。

 そして、戦いが始まった。
 
 開幕はフルールの魔法からだった。
 植物がフィールドに生い茂り、緑色に染めていく。
 
「先ずは戦いやすい環境の作成か。そして次は足止めにタラゴンが牽制。桃が突っ込んで倒すか、倒せない場合はアロンガンテが頭上から仕留めるって戦法かな」
「この4人ならそうでしょうね」

 ランカーとは1人で戦うのが基本だが、日本の場合はタラゴン主導で連携での戦いも練習している。
 他国はランカーの仲間とはいえ、蹴落とす事を考える者が多く、仲が良い国は少ない。
 ランカー内で師弟が居たりする場合は違うが、日本は珍しいと言えるだろう。

 仲良く一緒に戦いましょうと言っても、馬鹿にされて終わりだが、日本はそうではなかったのだ。
 
 幸か不幸か、ほとんどのランカーは戦う事しか考えておらず、そこまでランキングに執着していないのだ。
 何より平和な世界を作りたいと言う目標を全員で掲げているので、他国に比べて仲が良いのだ。

 例外として10位のゼアーが居るが、別に邪魔はしていないので問題ない。

「だが、この程度の魔法は意味がないだろうね」

 イニーが唱えた魔法により、周辺の植物が消失する。

 モニターに映るフルールとタラゴンは驚いているが、直ぐに次の行動に移る。

「アロンガンテは予想通り上空で待機。桃は突っ込み、他の2人は援護だが……」
 
 ジャンヌは冷静に戦いの流れを分析し、白橿は黙ってイニーのモニターを見る。

 イニーがどの様な行動に出るか期待が集まるのか、空中に門の様なものが現れる。

 それは魔法陣と呼ぶにはあまりにも異形であり、異質なものだった。

「――何よあれ」

 初手から自分が知っている魔法少女の概念から離れた事をされ、白橿は魔法陣を見ながら呟く。

「最初から驚かせてくれるね。さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 魔法陣が開き、大きな剣が姿を現す。イニーに突撃していた桃童子は一瞬立ち止まり、剣を受ける姿勢を取る。
 そこにフルールが援護に入り、2人で剣を破壊しようとする。
 
「あれ、概念が込められてそうね」
「概念?」
「そうよ。もしくは指向性と例えても良いかもね。近い存在だと、ブレードの様に斬れないものが切れたり、フリーレンみたいに本来凍るはずのないものを凍らす事が出来たりとかかしら。まあ、ブレードは例外として、通常なら魔力が足りなくてそんな理解不能な事をするなんて無理よ」
 
 白橿はゼアーが言った事に軽く頬を引きつらせる。
 確かにブレードとフリーレンは魔法少女として理解しがたい極地に居る。

 そもそも魔法とは理解できないものだと、白橿は考えている。
 魔力という不可解なエネルギーでのみ発動する事ができ、効果は千差万別だ。

 そこに概念。この魔法はこうあるべきだと、意味を持たせる行為は考えても実行することは出来ない。
 ゼアーが言う通り、魔力の消費が跳ね上がるのだ。

 分かりやすいものだと結界が良い例だろう。世界を丸々塗り替える結界は、妖精界の技術と魔石があるから出来る事であり、結界を使う事が出来る魔法少女は例外を除き存在しない。

 無理に使おうものなら、魔力が枯渇して死んでしまうだろう。

「概念――差し詰め、避ける事が出来ないとかかな?」
「そうじゃないかしら? まあ、あの規模の魔法を避けたとしても余波が酷くなりそうだから、破壊した方が良いと思うけどね」
「今のイニーってどれ位魔力があるのよ……」

 通常状態のイニーの強さについては考察が進んでいるが、アルカナの力を解放した状態は全くの未知数だった。
 分かっているのはSS級を圧倒出来る強さがある事くらいだ。

「ああ。そう言えばアルカナについては何も知らないんだったわね。今のイニーの魔力は実質無限よ」
「……それって本当なの?」
「本当よ。流石に出力や一度に使える魔力量はイニーに依存するけど、あの状態なら無尽蔵に魔力が使えるわ」

 魔力を無尽蔵に使える。
 魔法少女なら喉から手が出るほど欲しい力だ。

 ジャンヌはアクマが言っていた意味が、何となく分かった気がした。

(魔力を無尽蔵にね。確かにそれなら1対1でイニーに勝つのは不可能だろう。正にチートだな)

 魔法系の魔法少女の唯一の弱点は、魔力をやりくりしなければならない点と言っても過言ではない。
 どのタイミングでどれだけの威力の魔法を使い、どれだけ魔力を残すか。

 剣や槍といった武器を使う魔法少女よりも、魔力の事を考えなければならない。

 しかし、今のイニーにはそんな煩わしいことを考える必要がない。
 好きな魔法を好きなように使うことができる。

 桃童子の援護にフルールが入り、一時的に2人の足止めにイニーは成功する。

 タラゴンからの爆撃を防ぎながら、次の行動に移ろうするイニーを上空から狙う者が居た。

 そう、アロンガンテだ。

 アロンガンテの構えているレールガンは青く輝き、発射の時を今か今かと待ちわびている。

 強化フォームとなり、更にチャージしたレールガンの一撃。
 当たれば、人など瞬く間に蒸発してしまうだろう。

 1人での戦いでチャージなどしていられず、チームでの戦いだからこそ撃てる一撃。

 それが今、イニーに放たれようとしていた。

「あれ、当たると思うかい?」

 ジャンヌが白橿に聞く。

「当たらないどころか、反撃でもされるんじゃない?」

 しかし、評価はとても辛辣なものだった。
 確かにアロンガンテの一撃は現実なら地球から月を砕く程の威力がある。
 その規模から避ける事は出来ず、防ぐのも難しい。
 だが、相手がイニーであり、魔力を無限に使えるならどうにかなると思ってしまうのだ。
 
「姉なのにひどい言い草ね。あれだってまともに防げる魔法少女は片手で数えられる程度しかいないでしょう?」
「そうは言ってもイニーの動きを見る限り、焦っているようには見えないし、何かしら手があるんじゃない?」

星滅砲ステラ
 
 白橿が投げやりにそう言った時、アロンガンテのレールガンが放たれた。

 まばたきする間もなく、イニーに着弾する……はずだった。

『神撃・乖離』
 
 レーザーの様にして放たれたレールガンは、イニーの魔法に食い破られて四散する。

 そして、アロンガンテは防御する間もなく、死亡判定となった。

「……」
「……」
「事務ばかりじゃなくて、たまには討伐やシミュレーションもさせた方が良さそうね」

 アロンガンテには防御機構という防御形態がある。
 もしもこれを使えていれば、死亡することはなかっただろう。

 では、何故使わなかったのかというと、ブランクのせいで判断を見誤ったのだ。
 何とも言えない空気が漂う中、アロンガンテが待機室に帰ってくる。
 姉と目が合ったアロンガンテはスッと目を逸らして、空いてる席に座った。

 イニーは魔法を薙ぎ払い、タラゴンを倒そうとするが、避けられてしまう。
 
 あっという間に終わったアロンガンテとイニーの攻防だが、その間に桃童子とフルールが剣を打ち砕く。
 直ぐに桃童子はイニーに向かって行き、フルールが補助の為に世界樹の魔法を使う。
 桃童子も空を移動できないわけではないが、しっかりとした足場があった方が強い。
 桃童子が跳んでイニーに向かっていると、イニーに変化があった。

『ナンバー15フィフティーン悪魔解放』

「あっ」

 その声を聞いたゼアーが声を上げた。

「なんだい。その忘れていた事を思い出したような声は?」
「いやね、ずっと変だなーとは思ってたのよ。イニーと契約しているのは悪魔の筈なのに、ずっと愚者の力しか使ってなかったから」

 悪魔と愚者の、2つの力を持っている事が普通ではないのだが、イニーは人の目がある場所では愚者の力しか使ってなかった。

 ゼアーはその事を不思議に思いながらも、特に気にしてこなかった。

「イニーの奥の手と言った所かしら?」
「どうだろうね。単純に桃童子に対しては愚者だと分が悪いからかもしれないわ」

 イニーが道化の明るい色から、黒くて禍々しい服装に変わる。
 浮いていた2つの玉が消え、長い棒が現れて湾曲した刃が生える。
  
「悪魔……なのよね?」

 白橿が疑問の声を上げた。
 
 通常の人ならば、悪魔と言ったら角と翼が最初に頭に浮かぶだろう。
 武器も槍や戦斧といったところだ。

 だがモニターに映るイニーはボロボロの外装に大きな鎌。
 どうみても死神の様な見た目をしていた。

 なぜこんな見た目になったのかは、ちょっとした訳があった。
 アルカナとしての悪魔の能力は魂――魔力に干渉する能力がある。
 死神の方は感情に干渉する能力があり、名前と能力が逆な様な気もするが、その理由を知るのはアルカナの創造主だけだ。

 そして、イニーには第二形態と呼ばれるものがあり、こちらはイニーの心情が色濃く反映されている。

 同じくアルカナの開放には、イニーの心情が反映されているのだ。

 安易なのだが、イニーは魂を司る能力って死神っぽいと思っており、その想いがそのまま反映されてしまったのだ。
 実はタラゴンの家で暇をしていた頃に、解放時の姿についてイニーとアクマは話し合っていたのだが、イニーが考えていた事がアクマにバレて、少しの間アクマが拗ねる問題が発生した。

 つまる所、イニーの思い込みでこんな姿になっているのだが、その事を知る者は誰も居ない。
 
「愚者の姿はまだ分かるけど、あの姿は一体何でかしらね?」

 白橿は勿論、裏事情を知っているゼアーも首を傾げる。
 誰がアルカナの力を開放しても、アルカナ毎に共通点が普通有るのだが、イニーにはそれが当てはまらないのだ。

 そんな待機室の困惑を知らないイニーは、桃童子に向かって落ちていくのだった。
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