魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~

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魔法少女アロンガンテの奮闘(瀕死)

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「吹き飛びなさい!」

 タラゴンは魔物を爆発させて倒す。
 魔物が全て消滅し、タラゴンが一息吐くと結界が解かれる。

 新魔大戦後のお茶会の後、タラゴンたちランカーは魔物の討伐に掛り切りとなっていた。

 引っ切りなしに魔物の討伐依頼が届き、次から次に討伐して回っている。

 早く倒せば倒した分楽になると思いきや、新魔大戦の日からまた1人ランカーが行方不明となり、そのしわ寄せのせいで、全く楽にならないのだ。

(人数に対して魔物の数が多すぎるわね……。大元を潰さないと意味がないけど、そんな余裕は無いわね……)

 タラゴンが端末を取り出すと、タイミングよく音が鳴り、着信が入る。
 画面にはジャンヌと表示されていた。

「もしもし? どうしたの?」

『遂に魔法局がやってくれたよ。イニーが正式に指定討伐種として、指定された』

 タラゴンの身体から炎が噴き出て、足元を焦がす。
 魔法局に対する怒りもあるが、何とかすると言っていたゼアーフィール――ゼアーが役に立たなかった事にも怒っている。
 
「ゼアーは何か言ってた?」

『3日待ってくれとさ。それまで他の魔法少女に対する牽制を頼むと言っていたよ』

「使えないわね。これなら無理矢理アロンガンテにやらせた方が良かったんじゃない?」

『そう言ってやるな。アロンガンテにこれ以上仕事を振ると、本当に寝る時間が無くなってしまう……いや、既に無くなっているかもな』

 現在、日本のランカーは戦闘組と雑務組に分かれて活動している。

 しかし、戦闘の方が人数が必要となり、結果的にジャンヌとアロンガンテ以外は、戦闘組として各地を転々としている。

 そのジャンヌも回復魔法の使い手不足のため駆り出されているので、実質アロンガンテ1人が頑張っている状態だ。
 
 そしてゼアーは個別で動いている為、ここでは数えない。

「イニーの件で、危ない動きをしている魔法少女は居るの?」

『危ないと言えば破滅主義派だが、全く足取りが掴めないね。そのくせ、此方の痛い所を付いてくる』

「私たちが破滅主義派を追うように動けば魔物の被害が増え、かと言って放置してれば、このまま破滅主義派の連中に好きな様にされるし……楓は何か言ってた?」
 
 後手に回っている関係上、このままでは魔女の思惑通りに人類は滅亡させられるだろう。
 破滅主義派と戦うための戦力が、魔女の召喚している魔物と戦っているのだ。

 破滅主義派は完全にフリーな状態となっている。

 魔女がどうやって新魔大戦のプログラムを書き換えたのかは、未だに解明されていない。
 そして、ランカーすら破壊出来ない結界の技術。或いは魔法。

 総合的な戦力や技術面でも、勝てていない。

『楓は1人で北極の防衛に当たって居るよ。それと、空いた分の穴埋めはなるべく自分の方でやっとくとさ』

「仕方ないとはいえ、やるせないわね。とにかく、3日後に結果が出ないなら、容赦しないって言っておいて」

『連絡が来たら伝えておくさ。タラゴンも無理をしない様にね』

「分かってるわよ」

 タラゴンは通信を切り、次の任地に向かう。

(――イニーだけか)

 何者にも縛られず、個人の戦力として上位に入り、瞬時に移動できる。
 そんな魔法少女はイニーだけとなる。

 そして、ランカーと同じか、それ以上の変身も出来る。

 まだランカーだけで事足りてる間に、イニーに戦ってもらうしかない。

 タラゴンはそう考えた。

 しかし、そのイニーは現在、魔法局と敵対関係になっている。
 
 妖精局は事の詳細だけを知りたい為、静観の姿勢だが、あまり良い状態とは言えない。

 妖精女王フェアリークイーンが沈黙を貫いてるため、妖精たちも表だって行動をしてないが、不満を抱えているのは明らかだった。

 ゼアーに提示された3日間。

 ここが世界の命運を分ける、分岐点だろう。




1



 

「全く。今回の魔女は好き勝手やってくれちゃって……」

 ゼアーはお茶会で何とかするとは言ったものの、困っていた。

 ゼアーから見た魔女は、大まかに2種類に分かれている。
 直ぐに行動を起こす魔女と、じわじわと行動を起こす魔女。

 今回はじわじわと行動を起こす魔女だと思っていたが、イニーに関することだけは素早く動いていると感じた。

 その結果後手に回ってしまい、失態を犯してしまったのだ。

(残ったアルカナたちも連絡を寄こさないし、一体どうしろってのよ……)

 ランキング10位。魔法少女ゼアーフィールは、普通の魔法少女ではない。

 いつの日か現れるアルカナや、その契約者を陰ながら助けるために、存在している。

 そのはずなのだが、本来なら上位者やアルカナから連絡や指示が来るはずなのに、誰からも連絡が来ないのだ。

 イニーが契約者であると知ったのは、新魔大戦で変身した時だ。
 既に魔法局の不穏な動きを察知していたゼアーだったが、知るのが遅すぎたせいで、魔女に後れを取ってしまった。

 せめてイニーと契約しているアルカナが連絡をくれれば、ゼアーとしても少しは動きやすくなるのだが、全く音沙汰がない。

 仕方なく、自分から動く事にしたのだ。

(さて、何か情報はあるかしら……)

 ゼアーは影の魔法を使う事ができる魔法少女だ。
 
 影の魔法の中には、影から影に移動する魔法があり、ゼアーはそれを使って、魔法局の重鎮の部屋を漁っている。
 
(これは普通に汚職のネタで。こっちはロンダリングの記録か。こいつは外れね)

 今の魔法局の上層部では、汚職をしていない人物を探す方が難しい。
 それほどまでに腐ってしまったのは、ここ5年程の話だ。

 そして、それは楓が1位になってからの時期と重なる。
 
 やりすぎてしまったのだ。楓は。

 これまでは魔法少女のお茶会よりも、魔法局の方が主体で動くのが基本だった。

 それが楓の台頭により、魔法少女が主体となって動くように変わっていった。

 魔法局が主体だった頃よりも魔物の被害は減り、危険な魔物は楓を含む、世界各国の1位が対処するようになったことで、仮初の平和を手に入れた。

 魔物によって慌ただしい日々を送っていたが、余裕が出来てしまったせいで、邪念が生まれたのだ。

 それは魔法局に所属する者だけではなく、魔法少女もだ。

 ランキングの不正。討伐の横取り。魔法少女同士での諍い。

 楓もこの事態を解決しようとしたが、動くのが遅かった。

 その結果が今だ。
 決して楓が悪い訳ではない。
 ただ、人が愚かだったのだ……。

「おっ、やっと見つけたわ」

 ゼアーは遂に欲しい証拠を見つけ、口角を上げる。

 ついでに数々の不正の証拠を集め、影の中に溶けていく。

(さて、このまま魔法局に動かれると、イニーが困りそうだし、データをアロンガンテにでも渡しておこうかしら)

 今の魔法局の動きは、あからさまに魔女を贔屓している。
 このまま好き勝手動かれると邪魔になると考えたゼアーは、魔法局を潰す事を決意する。

 だが、下手に魔法局を潰せば、困る者が多い。

 そのため、最近動きの怪しいアロンガンテにデータを渡す事にした。

 戦いこそ苦手なゼアーだが、情報戦や隠密行動は得意である。
 元が契約者たちのサポートをするために居るので、当たり前と言えば当たり前である。
 影の魔法は万能ではあるが、一応制約もある。

 地球と妖精界を移動する事が出来なかったり、移動距離によって魔力を消費したりだ。

 地球と妖精界を直接移動は出来ないが、他人の影に入って移動することは出来るので、ゼアーの移動履歴は基本的に残ってはいない。
 
 影の中を移動し、アロンガンテが仕事をしてい近くの影から外に出る。
 直接アロンガンテの影から出ると、誤って攻撃される可能性があるので、離れた場所に出たのだ。

「やあアロンガンテ」
「――その声はゼアーですか。どうかしましたか?」

 アロンガンテはテーブルの上に置かれた大量の書類や、空中に投影した電子書類を次々と処理していた。
 その為、入って来たゼアーの事を見ずに、声で判断したのだ。

「魔女と魔法局の上層部が繋がっていた証拠と、汚職の証拠を持って来たわ。あなたが進めている事に役立ててちょうだい」

 アロンガンテの手が止まり、視線をゼアーに向ける。

 今アロンガンテが進めている計画。
 魔法局に代わる新たな組織の設立だが、言わば反乱の様なものだ。
 下手な人物にバレれば、今のイニーの様な状態になる可能性がある。
 
 なので、秘密裏に進めているはずなのに、何故かゼアーは知っていた。

 ゼアーを見るアロンガンテの目は、とても鋭かった。
 
「そんな目で見ないでよ。誰にも話さないし、興味もないわ。それより、このネタでイニーへの圧をどうにかしてちょうだい」
「……分かりましたが、せめて後2日早く持ってこれなかったのですか?」
 
 先日ニュースで流れた、イニーがブルーコレットを殺した事件のせいで、世界的にイニーの株が下がっていた。

 もしもイニーが温情を掛けずに、魔物として殺してくれば、違った結果になったかもしれないが、時既に遅かった。

 そして、魔女はそれを見越して、魔法局に手紙を送っていたのだ。
 
「こんな事態になるなんて思わないじゃない。それに、気づかれない様に探すのも大変なのよ」

 アロンガンテはゼアーが持ってきた資料に目通す。

(これは良いですね。これだけの証拠があれば、一気に攻勢に出られそうです)

 寝不足のせいで、変な笑いが出そうになるのを、アロンガンテは堪える。
 
「先ずは証拠集めありがとうございました。この後の仕事は何かありますか?」

 アロンガンテの目には先ほどの鋭さは無くなり、大きな隈が目立つ、疲れた女性のものとなる。

 ゼアーはアロンガンテが何を言おうとしてるのかを察して、苦い顔をする。

「嫌よ」
「そこを何とかお願いします。流石にほぼ全員ぼランカーの仕事を私1人で捌くのは無理なんです」

 アロンガンテは楓から始まり、ほぼ全員の書類仕事を肩代わりしていた。
 更に姉と共に進めている組織の準備や、本来の仕事もやっている。

 睡眠時間だけではなく、食事の時間すら削って仕事をしていた。
 
「こっちだって寝る間を惜しんで潜入してたのよ? 少しくらい休ませてよ」
「今の私を見てその言葉を吐きますか……」

 魔法少女だからギリギリ保っているが、常人ならとっくに倒れている。
 いや、死んでいてもおかしくないだろう。

 ついでに、アロンガンテが倒れれば、この仕事の山は本来の持ち主の元に戻されるだろう。

 そうなれば、最終的にランカーの活動時間が短くなり、破滅主義派が更に幅を利かせるようになる恐れがある。

 ゼアーは嫌と言っているものの、イニーの手助けという面で見れば、アロンガンテを手伝うしかないのだ。
 
「――分かったわよ。手伝ってあげるわ。それと、私が代わるから少し寝てきなさい」
「ありがとうございます」

 アロンガンテはふらつきながら立ち上がり部屋から出て行く。

 先程までアロンガンテが座っていた椅子に座り、作業の続きを始める。

(……あれ? もしかして、アロンガンテが起きるまで魔法局関係の仕事って進まない?)

 別にゼアーが進めても良いのだが、ゼアーの存在は魔女たちに知られない方が、都合が良い。

 あくまでもサポートとして、影に徹するのがゼアーなのだ。

 アロンガンテが起きたのは、6時間後だった。
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