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魔法少女は着せ替え人形
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「うむむ……」
「やはり私のコーデが一番ではなくて?」
「それではアヤメさん。お選びください」
呼ばれた声にほいほい付いて行ったら、1人当たり5着程持ってこられて驚きました。
そこから全てを試着し、1人1着に絞り込んだ。
ミカちゃんが選んだのはうさ耳付きのパーカーと尻尾の付いたズボンだ。
可愛らしいデザインは微妙たが、フードがあるのは高得点である。
他の服も動物をモチーフにしていた服ばかりであり、年相応の感性を感じさせた。
マリンが選んだのはへそ出しの黒い服とスリットの入った長いスカート。
動きやすくはあるのだが、マリンのセンスが分からない……。
他の服も似たり寄ったりであり、何故かへそ出しが多い。
誰かがこれを着てれば目を引かれるだろうが、俺が着るものではないだろう。
そして、茨姫が選んだのはイブニングドレスを元に作られたであろうバトルドレスだ。
他の服もドレス系だったが、一番マシなのがこれだった。
普段着るものとしては物騒だが、戦うことを考えるとあり……なのかもしれない。
どうせ全部買うのだが、一番気に入ったのはどれですかと聞かれ、今に至る。
(どれ選ぶ?)
『ミカのは論外だとして、マリンか茨姫のだけど、悩むね』
俺はその論外が一番良いよ。うさ耳と尻尾を我慢すれば良いだけだし。
誰も足が広く露出するものを持ってこなかったのは魔法少女としての経験からくるものなのか?
戦闘中の足の怪我は事故や死亡に繋がるからな。
腕なら逃げればいいが、足を怪我すると逃げるのが難しい。
まあ、魔法少女の衣装で短いスカートや、ロックヴェルトみたいなレオタードみたいな奴もいるので一概には言えないけどな。
俺も怪我したとしても治せばいいし。
『よし、マリンのにしよう。ドレスも良いけど。マリンの方ならまだ日常的に着られるからね』
やっと決まったか……実際は数秒だろうが、今の俺にとってはその数秒が辛い。
「では……マリンさんのを選ばさせていただきます」
「ぐぬ!」
「私が負けるなんて……」
妙にどや顔のマリンに向かって、敗者の2人が吠える。
楽しそうで何よりです。
俺は早く帰りたいよ……。
「ふふん。私のコーデ力が一番高かったみたいですね」
「流石委員長なのじゃ。悔しいが負けを認めるのじゃ」
「次は負けませんわ」
「……皆さん元気ですね」
これが若さのパワーというものか……三十路近かった俺には眩しいぜ……。
それと、次は一生無いからな?
「ありがとうございましたー」
店員に見送られ、店を出る。
今回買った中で1番高かったのは、茨姫が選んだバトルドレスであった。
最新の防御魔法に新繊維を使い、多少の傷なら自己修復する機能。
妖精の魔法により端末に登録もできるので、お着替えも簡単にできる機能などが備わっている。
お値段なんと300万円。
因みにミカちゃんが選んだパーカーの上下セットは5万円だ。
支払いは円ではなく、妖精界の通貨なのだが、日本人としては円の方が理解しやすい。
会計で300万と表示された時に、茨姫の顔が青ざめたのを俺は見逃さなかった。
恐らく、値段など見ないで選んでただろうな。
俺が何の反応を示さないで会計を終えた時にチラチラと此方を見ていた。
それなりの量の服を買い込み、ラビアンを出ようとしたらマリンの端末が鳴った。
魔物でも出たのかな?
「はい。はい。分かりました。今から戻ります」
「どうしたのじゃ?」
「B級以上の反応があったとかで、私が出ることになりました。すみませんが、これで失礼します」
マリンは礼儀正しく頭を下げ、ショッピングモールの外に向かう。
テレポーターから北関東支部に行くのだろうな。
仕方ないからとマリンの事を諦め、次はどの店に行くのかと話していると、今度は茨姫の端末が鳴る。
「……そうなのですね。分かりましたわ。私の方も人手が足りないので出動してくれとのことですわ。すみませんが、私も失礼します」
魔法少女に休日は無いとは言ったものだが、2人も運が無いな……。
(大丈夫だとは思うが、どちらか見に行くか?)
『茨姫の方は雑魚を倒す人員がいないから呼ばれただけみたいだね。マリンの方はA級らしいけど、少し不穏かな~』
(流石にM・D・Wみたいなことはないだろう?)
あんなことが2度も3度も起きるなら、とっくに日本は滅んでいる。
「のうのう」
考え事をしていると、ミカちゃんに服を引っ張られた。
そういえばこいつが俺に声を掛けなければ、こんな事にならなかったんだよな……いや、全てはアクマが悪いのだ。
「どうかしましたか?」
「どうしてその姿でいるのじゃ?」
「……罰ゲーム……と言った所ですね」
ミカちゃんは首を傾げて悩むが、理解はできないだろうな。
さて、厄介な魔法少女も居なくなったし、行きますか。
「それではミカちゃん。私も行きますね」
「どこに行くのかえ?」
「仕事ですよ」
(それじゃあ頼んだ)
『うい~』
荷物は全て寮に送り、俺はマリンの出撃予定地点に先回りする。
何時でも何処でも転移できるのは楽で良いな。
ついでに白魔導師に戻っておく。
若い少女達に弄ばれる結果となったが…………人と関わるのはやはり慣れんな。
やはり1人が良い。
(さて、時間はどれ位あるんだ?)
『後20分位かな?』
なるほど。ならゆっくりと……何かおかしくないか?
場所は栃木の鹿沼になるらしいが、違和感を感じる。
木が生い茂り、自然豊かなはずなのに。息苦しさを感じる。
まるで閉鎖空間にいるみたいな……。
(違和感を感じないか?)
『少し待ってね…………これはまさか……この私としたことがやられたね』
珍しくアクマがイラだたしく声を上げる。
これは何か起きたな……。
俺の糞運は何時になったら良くなるのやら……。
(それで、何が起こったんだ?)
『私の転移に割り込まれて召喚されたんだ。こんなことできる奴は……』
後ろから枯れ木を踏んだ様な足音がした。
「今回は初めましてかな?」
振り合えると、あからさまに怪しい人物が立っていた。
黒いフード付きのローブか……声から女性だとは思うが、俺と同じように、フードの奥は見えない。
今回と言ってたが、どういうことだ?
「今回とはどの様な意味ですか?」
「これは君に向けた言葉じゃないわ。ねえ、アクマ?」
憑依しているアクマが俺の外に出てくる。その顔は今までに見たことない不機嫌な顔だ。
「思ったよりも早い登場じゃないか」
「アクマが能力をつかったからね。今回はどうだい? 1回目は防げたみたいだけど、次の準備は大丈夫?」
ふむふむ。1回目……防ぐ……か。
該当するのはどう考えても”あれ”しかないよな。
「別に防ぎたくて防いだわけじゃないさ。私は私のやりたいようにしてるだけだよ」
「能力を使っといてかい? 使えば私に知られると分かっていただろうに」
「ふん! 私だって使いたくて使ったんじゃないさ」
完全に置いてかれているが、何か確執があるみたいだな。
俺が知らない何かがあるのだろうが、できれば情報が欲しい。
「あなたは誰なんですか?」
「ああ、あなたの報告も貰ってるわ。分かりやすく言うなら、ロックヴェルトの親玉と言った所かしら。魔女とでも呼んでちょうだい」
「この性悪は、ババアで十分だよ」
つまり破滅主義派のボスと言った所か……。
世界の終焉を目指しているとかアクマが言ってたが、それだけではなさそうだな。
これは後でアクマに説明してもらわないとな……もうそろそろだんまりとはいかんだろう。
「今日はあいさつに来ただけだから、これで失礼するわ。じゃあね、イニーフリューリングとアクマちゃん」
何時の間にか魔法陣が魔女の足元に現れており、その中に魔女の姿が消えていく。
先程まで感じていた息苦しさがなくなり、風が木々を揺らす音が聞こえる。
一体何だったんだ?
「それで、どういう事なんですか?」
「……そうだね。できれば話さないでおきたかったけど、話すよ」
やれやれといった感じのアクマが、先程の魔女と自分の事を話してくれた。
破滅主義派のボスこと魔女。”終末の日”と呼ばれる原因となる魔物を召喚しようと暗躍している……いや、既に”終末の日”を幾度となく起こしている。
ある魔物によって引き起こされた全ての人類及び妖精の虐殺と世界的魔力汚染。それが終末の日と呼ばれるものだ。
アクマは幾多の世界の意志から生まれた存在であり、人数は全部で21人居た。
理由は伏せられたが、タロットカードど同じ名前を与えられ、アルカナと呼ばれているとか。
幾度となく魔女と戦い、その度にある方法で時間を遡ったり、並行世界に逃げたりとしてきた。
終わる事のない戦いに辟易としていたアクマは、戦いから逃げ出した。
そこで偶然会ったのが俺だったと言うわけだ。
どの世界線や時間軸でも魔女は暗躍しており、それからアクマは逃げていたが、M・D・Wとの戦いの際に俺と契約し、俺を生き残らせる為に能力を使った。
アクマに与えられているのは他のアルカナも持っている、転移や情報をアカシックレコードから引っ張ったりできる能力。
それと、アクマ固有の魂の操作ができる能力がある。
魂の操作は運命に干渉する為、膨大な魔力が必要だ。これをすると他のアルカナや魔女に位置がバレるらしい。
それで俺を少女にしたり、俺が身体を対価に魔法を使った際に、対価先を元の身体に差し替えたりしていたらしい。
すり減った魂も、史郎としての身体から抜き取ったのと、アクマの魔法で代用したとか。
ついでに、M・D・Wの時はタラゴンさんが俺を見つけていなかったら本当に死んでいたとか……。
そこは運命の操作で見つかるようにはしてたらしいが、確実ではなかったようだ。
「何となく分かったが、アクマは俺に何をしてほしいんだ?」
「本当は私も1度は逃げた身だから言い難いんだけど、あの性悪女を倒すのに力を貸してくれない? 断ったら…………終末の日までゆっくりと過ごすって感じかな」
なるほど……断ったらその終末の日とやらで確実に死に、戦う事を選んだら終末の日の前に奴らに殺される可能性があると……。
この世界の行く末は決まっていたんだな……。
信じ難い話ではあるが、今俺が生きていて、少女として生きているのが、先程の話があり得る話だと物語っている。
「なんでそんな危ない魔物を召喚して、終末の日なんて起こそうとしてるですか?」
「情報規制があるから詳しくは話せないけど、これは1人の魔法少女が絶望したことによって引き起こされたものなんだ。彼女はとても優しく、強かったんだけどね……終わりのない戦いと、救いようの無い人類に絶望したんだ。そして、自らの手で世界を滅ぼした……」
「それが全ての世界で引き起こされていると?」
途方もない話だが、魔法なんてファンタジーがあるのだから、時間操作や世界線の移動ができても可笑しくないだろう。
「彼女が何を目的として世界を滅ぼしているのかは分からないけど、彼女……性悪ババアを止めるのが私たちの目的だよ」
「なるほど。なら、頑張るとしましょう」
アクマの目的に付き合うと、あの時契約している。
「……良いんだね? 痛いだけじゃすまないかもしれないし、それより辛い事が待っているかもしれないよ?」
「既に契約済みですからね。元々死んでいた身ですから、どこまでも付き合いますよ。報酬は元の身体で良いですか?」
「ククク。それは全てが終わってから考えようよ」
アクマも調子が戻って来たみたいだな。
とんでもない事となったが、魔物を殺し、破滅主義派の奴らを倒し、魔女と和解する、か戦うかして事態を収める。
纏めればそんな所だろう。
まあ、勝てる見込みがないんだがな……どうしたものか。
「時間的にマリンも戦っているでしょうから、見に行きますか」
「そうだね。念には念を入れとかないと」
アクマが改めて俺に憑依し、アクマの能力で結界に潜り込む。
マリンの戦闘を遠目から眺める。
既に戦いも佳境らしく、強化フォームで戦っている。白く光る髪が残光を残し、駆け抜けている。
そのまま雑魚を蹴散らし、A級の魔物の懐に踏み込み、刀で一閃して倒した。
昔はB級に負けていたのに、今ではA級が一撃か……魔法少女とは末恐ろしいな。
さて、問題無さそうだし、マリンにバレる前に帰るとするかな。
……世界を滅ぼすか。
その気持ちは俺には痛いほど理解できる。
今の世界は腐っているし、救い様などないのかもしれない。
だが、だけど…………今の俺は魔法少女なのだ。
アクマとの契約がある以上、この身が果てる事になろうとも、戦うだけだ。
「やはり私のコーデが一番ではなくて?」
「それではアヤメさん。お選びください」
呼ばれた声にほいほい付いて行ったら、1人当たり5着程持ってこられて驚きました。
そこから全てを試着し、1人1着に絞り込んだ。
ミカちゃんが選んだのはうさ耳付きのパーカーと尻尾の付いたズボンだ。
可愛らしいデザインは微妙たが、フードがあるのは高得点である。
他の服も動物をモチーフにしていた服ばかりであり、年相応の感性を感じさせた。
マリンが選んだのはへそ出しの黒い服とスリットの入った長いスカート。
動きやすくはあるのだが、マリンのセンスが分からない……。
他の服も似たり寄ったりであり、何故かへそ出しが多い。
誰かがこれを着てれば目を引かれるだろうが、俺が着るものではないだろう。
そして、茨姫が選んだのはイブニングドレスを元に作られたであろうバトルドレスだ。
他の服もドレス系だったが、一番マシなのがこれだった。
普段着るものとしては物騒だが、戦うことを考えるとあり……なのかもしれない。
どうせ全部買うのだが、一番気に入ったのはどれですかと聞かれ、今に至る。
(どれ選ぶ?)
『ミカのは論外だとして、マリンか茨姫のだけど、悩むね』
俺はその論外が一番良いよ。うさ耳と尻尾を我慢すれば良いだけだし。
誰も足が広く露出するものを持ってこなかったのは魔法少女としての経験からくるものなのか?
戦闘中の足の怪我は事故や死亡に繋がるからな。
腕なら逃げればいいが、足を怪我すると逃げるのが難しい。
まあ、魔法少女の衣装で短いスカートや、ロックヴェルトみたいなレオタードみたいな奴もいるので一概には言えないけどな。
俺も怪我したとしても治せばいいし。
『よし、マリンのにしよう。ドレスも良いけど。マリンの方ならまだ日常的に着られるからね』
やっと決まったか……実際は数秒だろうが、今の俺にとってはその数秒が辛い。
「では……マリンさんのを選ばさせていただきます」
「ぐぬ!」
「私が負けるなんて……」
妙にどや顔のマリンに向かって、敗者の2人が吠える。
楽しそうで何よりです。
俺は早く帰りたいよ……。
「ふふん。私のコーデ力が一番高かったみたいですね」
「流石委員長なのじゃ。悔しいが負けを認めるのじゃ」
「次は負けませんわ」
「……皆さん元気ですね」
これが若さのパワーというものか……三十路近かった俺には眩しいぜ……。
それと、次は一生無いからな?
「ありがとうございましたー」
店員に見送られ、店を出る。
今回買った中で1番高かったのは、茨姫が選んだバトルドレスであった。
最新の防御魔法に新繊維を使い、多少の傷なら自己修復する機能。
妖精の魔法により端末に登録もできるので、お着替えも簡単にできる機能などが備わっている。
お値段なんと300万円。
因みにミカちゃんが選んだパーカーの上下セットは5万円だ。
支払いは円ではなく、妖精界の通貨なのだが、日本人としては円の方が理解しやすい。
会計で300万と表示された時に、茨姫の顔が青ざめたのを俺は見逃さなかった。
恐らく、値段など見ないで選んでただろうな。
俺が何の反応を示さないで会計を終えた時にチラチラと此方を見ていた。
それなりの量の服を買い込み、ラビアンを出ようとしたらマリンの端末が鳴った。
魔物でも出たのかな?
「はい。はい。分かりました。今から戻ります」
「どうしたのじゃ?」
「B級以上の反応があったとかで、私が出ることになりました。すみませんが、これで失礼します」
マリンは礼儀正しく頭を下げ、ショッピングモールの外に向かう。
テレポーターから北関東支部に行くのだろうな。
仕方ないからとマリンの事を諦め、次はどの店に行くのかと話していると、今度は茨姫の端末が鳴る。
「……そうなのですね。分かりましたわ。私の方も人手が足りないので出動してくれとのことですわ。すみませんが、私も失礼します」
魔法少女に休日は無いとは言ったものだが、2人も運が無いな……。
(大丈夫だとは思うが、どちらか見に行くか?)
『茨姫の方は雑魚を倒す人員がいないから呼ばれただけみたいだね。マリンの方はA級らしいけど、少し不穏かな~』
(流石にM・D・Wみたいなことはないだろう?)
あんなことが2度も3度も起きるなら、とっくに日本は滅んでいる。
「のうのう」
考え事をしていると、ミカちゃんに服を引っ張られた。
そういえばこいつが俺に声を掛けなければ、こんな事にならなかったんだよな……いや、全てはアクマが悪いのだ。
「どうかしましたか?」
「どうしてその姿でいるのじゃ?」
「……罰ゲーム……と言った所ですね」
ミカちゃんは首を傾げて悩むが、理解はできないだろうな。
さて、厄介な魔法少女も居なくなったし、行きますか。
「それではミカちゃん。私も行きますね」
「どこに行くのかえ?」
「仕事ですよ」
(それじゃあ頼んだ)
『うい~』
荷物は全て寮に送り、俺はマリンの出撃予定地点に先回りする。
何時でも何処でも転移できるのは楽で良いな。
ついでに白魔導師に戻っておく。
若い少女達に弄ばれる結果となったが…………人と関わるのはやはり慣れんな。
やはり1人が良い。
(さて、時間はどれ位あるんだ?)
『後20分位かな?』
なるほど。ならゆっくりと……何かおかしくないか?
場所は栃木の鹿沼になるらしいが、違和感を感じる。
木が生い茂り、自然豊かなはずなのに。息苦しさを感じる。
まるで閉鎖空間にいるみたいな……。
(違和感を感じないか?)
『少し待ってね…………これはまさか……この私としたことがやられたね』
珍しくアクマがイラだたしく声を上げる。
これは何か起きたな……。
俺の糞運は何時になったら良くなるのやら……。
(それで、何が起こったんだ?)
『私の転移に割り込まれて召喚されたんだ。こんなことできる奴は……』
後ろから枯れ木を踏んだ様な足音がした。
「今回は初めましてかな?」
振り合えると、あからさまに怪しい人物が立っていた。
黒いフード付きのローブか……声から女性だとは思うが、俺と同じように、フードの奥は見えない。
今回と言ってたが、どういうことだ?
「今回とはどの様な意味ですか?」
「これは君に向けた言葉じゃないわ。ねえ、アクマ?」
憑依しているアクマが俺の外に出てくる。その顔は今までに見たことない不機嫌な顔だ。
「思ったよりも早い登場じゃないか」
「アクマが能力をつかったからね。今回はどうだい? 1回目は防げたみたいだけど、次の準備は大丈夫?」
ふむふむ。1回目……防ぐ……か。
該当するのはどう考えても”あれ”しかないよな。
「別に防ぎたくて防いだわけじゃないさ。私は私のやりたいようにしてるだけだよ」
「能力を使っといてかい? 使えば私に知られると分かっていただろうに」
「ふん! 私だって使いたくて使ったんじゃないさ」
完全に置いてかれているが、何か確執があるみたいだな。
俺が知らない何かがあるのだろうが、できれば情報が欲しい。
「あなたは誰なんですか?」
「ああ、あなたの報告も貰ってるわ。分かりやすく言うなら、ロックヴェルトの親玉と言った所かしら。魔女とでも呼んでちょうだい」
「この性悪は、ババアで十分だよ」
つまり破滅主義派のボスと言った所か……。
世界の終焉を目指しているとかアクマが言ってたが、それだけではなさそうだな。
これは後でアクマに説明してもらわないとな……もうそろそろだんまりとはいかんだろう。
「今日はあいさつに来ただけだから、これで失礼するわ。じゃあね、イニーフリューリングとアクマちゃん」
何時の間にか魔法陣が魔女の足元に現れており、その中に魔女の姿が消えていく。
先程まで感じていた息苦しさがなくなり、風が木々を揺らす音が聞こえる。
一体何だったんだ?
「それで、どういう事なんですか?」
「……そうだね。できれば話さないでおきたかったけど、話すよ」
やれやれといった感じのアクマが、先程の魔女と自分の事を話してくれた。
破滅主義派のボスこと魔女。”終末の日”と呼ばれる原因となる魔物を召喚しようと暗躍している……いや、既に”終末の日”を幾度となく起こしている。
ある魔物によって引き起こされた全ての人類及び妖精の虐殺と世界的魔力汚染。それが終末の日と呼ばれるものだ。
アクマは幾多の世界の意志から生まれた存在であり、人数は全部で21人居た。
理由は伏せられたが、タロットカードど同じ名前を与えられ、アルカナと呼ばれているとか。
幾度となく魔女と戦い、その度にある方法で時間を遡ったり、並行世界に逃げたりとしてきた。
終わる事のない戦いに辟易としていたアクマは、戦いから逃げ出した。
そこで偶然会ったのが俺だったと言うわけだ。
どの世界線や時間軸でも魔女は暗躍しており、それからアクマは逃げていたが、M・D・Wとの戦いの際に俺と契約し、俺を生き残らせる為に能力を使った。
アクマに与えられているのは他のアルカナも持っている、転移や情報をアカシックレコードから引っ張ったりできる能力。
それと、アクマ固有の魂の操作ができる能力がある。
魂の操作は運命に干渉する為、膨大な魔力が必要だ。これをすると他のアルカナや魔女に位置がバレるらしい。
それで俺を少女にしたり、俺が身体を対価に魔法を使った際に、対価先を元の身体に差し替えたりしていたらしい。
すり減った魂も、史郎としての身体から抜き取ったのと、アクマの魔法で代用したとか。
ついでに、M・D・Wの時はタラゴンさんが俺を見つけていなかったら本当に死んでいたとか……。
そこは運命の操作で見つかるようにはしてたらしいが、確実ではなかったようだ。
「何となく分かったが、アクマは俺に何をしてほしいんだ?」
「本当は私も1度は逃げた身だから言い難いんだけど、あの性悪女を倒すのに力を貸してくれない? 断ったら…………終末の日までゆっくりと過ごすって感じかな」
なるほど……断ったらその終末の日とやらで確実に死に、戦う事を選んだら終末の日の前に奴らに殺される可能性があると……。
この世界の行く末は決まっていたんだな……。
信じ難い話ではあるが、今俺が生きていて、少女として生きているのが、先程の話があり得る話だと物語っている。
「なんでそんな危ない魔物を召喚して、終末の日なんて起こそうとしてるですか?」
「情報規制があるから詳しくは話せないけど、これは1人の魔法少女が絶望したことによって引き起こされたものなんだ。彼女はとても優しく、強かったんだけどね……終わりのない戦いと、救いようの無い人類に絶望したんだ。そして、自らの手で世界を滅ぼした……」
「それが全ての世界で引き起こされていると?」
途方もない話だが、魔法なんてファンタジーがあるのだから、時間操作や世界線の移動ができても可笑しくないだろう。
「彼女が何を目的として世界を滅ぼしているのかは分からないけど、彼女……性悪ババアを止めるのが私たちの目的だよ」
「なるほど。なら、頑張るとしましょう」
アクマの目的に付き合うと、あの時契約している。
「……良いんだね? 痛いだけじゃすまないかもしれないし、それより辛い事が待っているかもしれないよ?」
「既に契約済みですからね。元々死んでいた身ですから、どこまでも付き合いますよ。報酬は元の身体で良いですか?」
「ククク。それは全てが終わってから考えようよ」
アクマも調子が戻って来たみたいだな。
とんでもない事となったが、魔物を殺し、破滅主義派の奴らを倒し、魔女と和解する、か戦うかして事態を収める。
纏めればそんな所だろう。
まあ、勝てる見込みがないんだがな……どうしたものか。
「時間的にマリンも戦っているでしょうから、見に行きますか」
「そうだね。念には念を入れとかないと」
アクマが改めて俺に憑依し、アクマの能力で結界に潜り込む。
マリンの戦闘を遠目から眺める。
既に戦いも佳境らしく、強化フォームで戦っている。白く光る髪が残光を残し、駆け抜けている。
そのまま雑魚を蹴散らし、A級の魔物の懐に踏み込み、刀で一閃して倒した。
昔はB級に負けていたのに、今ではA級が一撃か……魔法少女とは末恐ろしいな。
さて、問題無さそうだし、マリンにバレる前に帰るとするかな。
……世界を滅ぼすか。
その気持ちは俺には痛いほど理解できる。
今の世界は腐っているし、救い様などないのかもしれない。
だが、だけど…………今の俺は魔法少女なのだ。
アクマとの契約がある以上、この身が果てる事になろうとも、戦うだけだ。
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ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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