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魔法少女駄々をこねる
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会議に召集される事になった後も、俺の日常はあまり変わらない。
朝そこそこの時間に起き、アクマに運ばれるまま魔物を討伐し、シミュレーターで新しい魔法の実験をしたり。買い出し中、警察に迷子か訊ねられたりと、そこまで変わらない日々を送っていた。
だが、アクマから仕草や歩き方を直すように言われる事が増えた。
分からなくもないが、今の俺は美少女と言える顔だ。寝癖を放置したり、風呂上がりにビールを飲んだりするのはアクマ的に宜しくなかった様だ。
なお、ビールを飲んでみたところ、気持ち悪くなって倒れてしまった。中身もしっかりと少女らしい。
アクマも性別的には女性なので、美少女がだらしない格好をするのを、見たくないのだろう。
なので、気を付ける様に心掛け始めたのが会議の前日であった。そもそもだが、会議で何をするのか俺は知らない。
明日が会議だが、一応アクマに聞いておく事にした。
「それでは、アクマ先生お願いします」
「はいはい。先ず、このお茶会はランカーのみが参加者として出席でき、それ以外の者はゲストとなります」
その後、長々とアクマによる話は続いた。要約すると、お茶会は魔法少女による、魔法少女の為の会議である。
魔法少女内での諍いや指定討伐種の状況。魔法局や妖精局との円滑な協力体制の構築を主な議題としている。
また、世代を重ねる毎に方針や会議方法が変わったりする。お茶会が始まるようになってから数えると、今は第3世代となる。
今回俺が呼ばれた理由だが、結界に侵入でき、B級を容易く葬る事が出来る能力に目を付けたからだそうだ。
一応拒否権は有ったが、アクマの意向で強制参加となった。
開催場所は妖精界にお茶会専用の場所がある。アクマも実際に参加した事は無く、参加するのが目標の1つであったらしい。
まあ、何時かは妖精界にも行かなければならないとは考えていた。それが少し早まっただけと考えれば良い。
行きたくない理由としてはこんな状態で他人に会うのが酷く憂鬱だからだ。
そんな事をうだうだとアクマに話してたら、魔物討伐に連行された。
(何となく出荷される豚の気持ちが、分かった気がする)
『馬鹿言ってないで、さっさと倒してね』
サクッと変身し、フードを被る。何時もお世話になっている杖を地面に挿して、寄っかかる。
「セット、氷と岩よ。槍となれ」
空中に魔法を待機させ、後は魔物の登場を待つだけだ。
『どんどん器用というか、変な魔法の使い方をするようになったね』
(出来る限り楽をしたいからね。これなら魔物が出た瞬間に発射して終わりさ)
しかも俺に追随するしないも選択出来たり、相手次第ではトラップとしても使える。
『私は退屈しないから良いけどね。あっ魔物……さあ、次行こうか!』
魔物を視認してから倒すまで3秒。最初に比べれば楽になったものだ。
フィジカルなら全ての魔法少女の中でも下位だが、マジカルなら上位に入れるのではないだろうか?
空中待機系の魔法は開けた場所ではないと使い難い面もあるが、他にも魔法はあるのでやり方は幾らでもある。
被害の事を考えて魔法を使わなければならないのは、世知辛いがな。
夜まで雑魚を狩り、立ち寄った公園の自販機でココアを買って、一息いれる。
(また始まりを告げる音みたいなスカッとする魔法が使いたいな~)
『結界内じゃないと高火力系は使えないからね。おや?』
(どうした?)
『ちょい離れた場所で魔法少女っぽいのを2人捕捉。争ってるぽいね』
せめて争うなら妖精界でやれば良いのに……これだから魔法少女は……。
ドロリと、黒い感情が胸で渦巻く。俺がこうなる原因になったのも、魔法少女のせいだ。
若干この状況を楽しんでいる自分も居るが、それでも俺はあの時の、恐怖と苦しみを忘れる事は出来ないだろう。
(どうする?)
『ハルナさえ良ければ仲裁して欲しいけど、どうかな?』
(了解。オーダーは?)
アクマからのお願いや依頼は毎回何かしらの制限が付く。別に破っても構わないが、大人として仕事は完璧にこなしたい。
『対象魔法少女の無力化と被害拡大の阻止。後遺症が残らない程度の怪我は不問とする。今回は第二形態での戦闘を申請します』
(マジで?)
『だって今のメンタルで魔法使えば、殺しちゃう可能性があるでしょ? 第二形態なら手加減も出来るし、何よりコスチュームがアクマ好みだからです』
可能性は否定できないぜ……。
しゃあないが、あっちで戦うか。
1
「さっさとやられなさい! 私よりランキングが上だからって生意気なのよ!」
空中から相手をかち割る様に大剣が振られ、それを回避した少女が、槍で一突きするものの、バックステップで躱される。
「負け惜しみを言う暇があるならさっさとランキングを上げたらどう?」
大剣を持った魔法少女と槍を持った魔法少女。2人の争いにより、アスファルトは割られ、木々は圧し折られていた。
幸い、住宅街で戦う様なことはしてないのが唯一の救いだろう。
2人は同期なのだが、槍の魔法少女の方が戦い方にセンスがあり、大剣の魔法少女よりも早くランキングを駆け上がった。
所属の魔法局支部でも、槍の魔法少女の評価は高く、未来のエースとして期待されている程だ。
しかし、これには裏があった。槍の魔法少女は他の魔法少女と組んで戦う時に、魔物を掠め取っていたのだ。
特に雑魚は倒した魔法少女にしか討伐数が加算されず、2人1組で動いていたこの2人には、どうしても討伐数に差が出てしまった。
上位なら参加者全員に討伐数が加算されたが、運が良いのか悪いのか。2人共、上位には当たらなかった。
そして今日。徐々に溜まっていた大剣の魔法少女の鬱憤は、槍の魔法少女のランキング自慢により爆発した。
「そんな大振りの攻撃に当るわけ無いでしょう」
「ふん! だからってそっちの槍だって私に当たってないじゃない!」
お互いがお互いの攻撃を避けるので、ダメージは無いのだが、周りはそうではない。修繕や再塗装もタダでは無いのだ。
修繕や修理費用は魔法少女の給料から支払いがされるが、世間的にはあまり良い顔をされない。
もし壊されたのが道路なら直るまで通行止めとなり、公共施設が壊された場合、目も当てられない状態となる。
ここら辺の関係もあるので、アクマは口を酸っぱくしてハルナに破壊をしないようにお願いしてる。
2人の争いが最終局面に移ろうとしてると、2人の間に一本の黒剣が突き刺さる。その剣は2人の争いを邪魔する様に、その存在を主張する。
「誰だ! 邪魔するなら容赦しないわよ!」
大剣の魔法少女は威嚇する様に周りを見渡し、槍の魔法少女は周りを気にしながらも油断なく、大剣の魔法少女の隙を窺う。
コツン、コツンと足音が響いた。チカチカと壊れた街灯に一瞬だけ少女の様なシルエットが映り、2人に緊張が走る。
街灯は少しだけ長く暗くなり、再び光が灯った時には、その場に誰も居なかった。いや、確かに人は居ないが濃厚な魔力の気配を2人は感じた。
その気配は先程剣が突き刺さった場所からだ。2人は視線を剣が突き刺さっていた場所に戻すと、
そこには剣を引き抜く1人の少女が居た。
暗い夜でも美しく光る銀髪。黒いゴスロリとも和服ともとれる服。そして、濃厚な魔力と黒い剣。
それは、この少女が魔法少女である証拠だった。
「何を争っているのですか?」
新たに現れた魔法少女は2人に問う。
「こいつが私の獲物を横取りしたのよ!」
「それは貴女が遅いからって何回も言ったじゃない。勘違いで怒らないでくれないかしら?」
新たな魔法少女の介入により、多少冷静になっていた2人だが、ちょっとした火種で直ぐに爆発してしまう。
そんな2人を尻目に、少女は少し考えた後に、剣を構えた。姿は少女のはずなのに、そこには歴戦の戦士を彷彿《ほうふつ》とさせる、気迫があった。
「面倒なので2人纏めて倒します。次回の喧嘩は妖精界でお願いします」
気迫のせいか、コケにするような物言いのせいか。火の付いていた2人は、ほぼ同時に少女に斬り掛かった。
薙ぎ払われる大剣を受け流し、大剣の少女を蹴り上げる。その隙に突かれる槍を蹴り上げた時の反動を利用して、空中に回避する。
「なに!」
槍の魔法少女が驚きの声を上げ、空中で回避する少女と目が合う。追撃の為、槍を振り上げ様とするが。剣の腹で横っ面を叩かれて吹き飛ぶ。その一撃で、槍の少女は気を失ってしまった。
「くたばれぇ! 地衝斬!」
先程空に吹き飛んでいた大剣の魔法少女が大剣を構えて落ちてくる。
その一撃を食らえば人など真っ二つになるだろう一撃だ。それに対して彼女は、そっと手の平を大剣に向ける。
何の真似か分からないが、大剣の魔法少女は勝ちを確信してニヤリと笑った。
そして、大剣と手の平がぶつかる。普通に考えれば少女の身体は腕ごと真っ二つになっただろう。
だが、大剣は少女の手に衝突すると、そこで止まってしまった。
いくら力を入れても、大剣は少女の手から進む事はなく、まるで斬る事の出来ない壁を斬っている様だった。
「存外耐えるものですね」
何をもって放たれた言葉なのだろうか? その言葉の意味は言った本人にしか分からない。
大剣の魔法少女は仕切り直そうと距離を取るが、その時ほんの一瞬。そう。ほんの少しだけ少女から視線を逸らしただけなのに、少女を見失う。
大剣を構えたまま、周囲を窺う。同期の少女が一撃で倒されているのを空から見ていたので油断などはしない。油断などしていなかった……。
(何処だ! 何処に居る!)
周りに障害物となりそうなものは無いのに姿が見えない。その事に動揺しながらも、少しだけ槍の魔法少女の方を見たその時だった。
背中に何かを突き立てたような、チクリとした痛みが少女に走る。
(背後にあの少女が居る……)
「次回からは妖精界で争うように。次現実に迷惑を掛けたら……分かりますね?」
恐らく二度目は無いと言いたいのだろう。それが理解できた少女は頷く事しか出来なかった。
「分かって頂けて幸いです。それでは御機嫌よう」
本当にそう思っているのか分からない声音で別れを告げられ、少女は思う。後で槍の魔法少女を殴ろう。
頭に鈍い痛みを感じて、少女は気を失った。
2
(お仕事終了!)
『魔法少女相手だとこっちの方が良いね』
(個人的には服が気に入らないが、能力は良いからね)
白魔導師と違って一切魔法が使えないのがネックなのと、アクマが憑依していないと変身は出来ず。第二形態の能力の出力は、俺の負の感情によって変わる。
主な能力は身体能力の向上と透明な障壁の展開。
先程戦った2人のように、特化型に分類される。
アクマが憑依してなければ、第二形態になれない理由もあり、俺のリソースは上記2つ分にしか割り振ることが出来ず、武装が無い。アクマが憑依していることによって、初めて武装が使える。
杖も第二形態になると無くなるので、実質第二形態と言うよりは、魔法少女アクマと言ったところだろうか?
基本的に魔法少女が好きではない俺が魔法少女相手に闇落ち形態で戦えばそこそこの出力が出るが。正直そこまで何とも思っていない魔物には、安定して能力が使えない。
第二形態に初めてなった時に、アクマが望んでた対魔法少女用の力があって良かったね~って言ったら頭を叩かれた。
そもそも、第二形態とか普通はピンチになったり、行き詰まった時に覚醒してなるものだと思うのだが?
現実にお約束なんて物は無いのであった。
『唯一懸念されてた障壁もちゃんと機能して良かったね』
(あの大剣の攻撃を食らってびくともしなかったからな。魔物の攻撃には簡単に割られそうだけど)
『普通は魔物に憎悪。魔法少女に希望をだからね~』
どうしても実害を殆ど受けてこなかった魔物より、魔法少女に悪感情を持ってしまう。魔物の被害が今と比較できない昔だったらまた変わったかもしれない。
『今回が初の実戦運用だったけど、ハルナはどうだった?』
(思ったより魔力の消費が激しいね。理論上は俺とアクマ2人分の魔力があるはずなんだけどな。白魔導師形態と切り替えながら戦うとかはできなさそうだ)
『対魔物用フォームと対魔法少女用フォームと割り切るしかないね』
(それが無難だな)
期待していた近接系なのに、好き勝手使えないのが無念だ。
意識を切り替えて白魔導師状態に戻る。魔力はごっそりと減っており、およそ4割程度しか残ってない。
第二形態になる前からも減っていたが、やはり使い難い力だ。
(この後はどうするんだ?)
『今日はもう終わりにしよう。明日はお茶会だし』
そう言えば明日だったな。馬鹿達のせいで忘れてた。
折角少女らしさを学ぼうとしてたのに、何もせずに1日が終わってしまった。
(明日の注意事項とかなんかある?)
『今のお茶会がどうなってるか知らないんだよね。私も憑依して一緒に行くから、何かあったら助言はするよ』
最悪の場合アクマの転移で逃げれば良いか。
後は妖精界で美味い物食べたり、折角だからシミュレーションのランキングに挑んでみるのも良いだろう。
叶うなら4位の人のロボットを直で見てみたい。そう考えると、明日への憂鬱が少しはマシになる。
念の為、気絶させた2人に回復魔法を唱え、多少マシな地面に転がしておく。
寝ている姿は可愛いものなのに、魔法少女になればこの惨状を作り出す事が出来る。
(魔法少女とは恐ろしい化け物だな)
『指導する側の大人も今は腐ってきてるからね。そこら辺もハルナには頑張ってもらうから』
(乗り掛かった舟だからな。大人として、やることはやるさ)
見た目は少女。中身は大人ってやつだな。
今日は明日に備えて帰るとするか。
(そんじゃ帰りますか)
『了解。明日寝坊しないようにね』
朝そこそこの時間に起き、アクマに運ばれるまま魔物を討伐し、シミュレーターで新しい魔法の実験をしたり。買い出し中、警察に迷子か訊ねられたりと、そこまで変わらない日々を送っていた。
だが、アクマから仕草や歩き方を直すように言われる事が増えた。
分からなくもないが、今の俺は美少女と言える顔だ。寝癖を放置したり、風呂上がりにビールを飲んだりするのはアクマ的に宜しくなかった様だ。
なお、ビールを飲んでみたところ、気持ち悪くなって倒れてしまった。中身もしっかりと少女らしい。
アクマも性別的には女性なので、美少女がだらしない格好をするのを、見たくないのだろう。
なので、気を付ける様に心掛け始めたのが会議の前日であった。そもそもだが、会議で何をするのか俺は知らない。
明日が会議だが、一応アクマに聞いておく事にした。
「それでは、アクマ先生お願いします」
「はいはい。先ず、このお茶会はランカーのみが参加者として出席でき、それ以外の者はゲストとなります」
その後、長々とアクマによる話は続いた。要約すると、お茶会は魔法少女による、魔法少女の為の会議である。
魔法少女内での諍いや指定討伐種の状況。魔法局や妖精局との円滑な協力体制の構築を主な議題としている。
また、世代を重ねる毎に方針や会議方法が変わったりする。お茶会が始まるようになってから数えると、今は第3世代となる。
今回俺が呼ばれた理由だが、結界に侵入でき、B級を容易く葬る事が出来る能力に目を付けたからだそうだ。
一応拒否権は有ったが、アクマの意向で強制参加となった。
開催場所は妖精界にお茶会専用の場所がある。アクマも実際に参加した事は無く、参加するのが目標の1つであったらしい。
まあ、何時かは妖精界にも行かなければならないとは考えていた。それが少し早まっただけと考えれば良い。
行きたくない理由としてはこんな状態で他人に会うのが酷く憂鬱だからだ。
そんな事をうだうだとアクマに話してたら、魔物討伐に連行された。
(何となく出荷される豚の気持ちが、分かった気がする)
『馬鹿言ってないで、さっさと倒してね』
サクッと変身し、フードを被る。何時もお世話になっている杖を地面に挿して、寄っかかる。
「セット、氷と岩よ。槍となれ」
空中に魔法を待機させ、後は魔物の登場を待つだけだ。
『どんどん器用というか、変な魔法の使い方をするようになったね』
(出来る限り楽をしたいからね。これなら魔物が出た瞬間に発射して終わりさ)
しかも俺に追随するしないも選択出来たり、相手次第ではトラップとしても使える。
『私は退屈しないから良いけどね。あっ魔物……さあ、次行こうか!』
魔物を視認してから倒すまで3秒。最初に比べれば楽になったものだ。
フィジカルなら全ての魔法少女の中でも下位だが、マジカルなら上位に入れるのではないだろうか?
空中待機系の魔法は開けた場所ではないと使い難い面もあるが、他にも魔法はあるのでやり方は幾らでもある。
被害の事を考えて魔法を使わなければならないのは、世知辛いがな。
夜まで雑魚を狩り、立ち寄った公園の自販機でココアを買って、一息いれる。
(また始まりを告げる音みたいなスカッとする魔法が使いたいな~)
『結界内じゃないと高火力系は使えないからね。おや?』
(どうした?)
『ちょい離れた場所で魔法少女っぽいのを2人捕捉。争ってるぽいね』
せめて争うなら妖精界でやれば良いのに……これだから魔法少女は……。
ドロリと、黒い感情が胸で渦巻く。俺がこうなる原因になったのも、魔法少女のせいだ。
若干この状況を楽しんでいる自分も居るが、それでも俺はあの時の、恐怖と苦しみを忘れる事は出来ないだろう。
(どうする?)
『ハルナさえ良ければ仲裁して欲しいけど、どうかな?』
(了解。オーダーは?)
アクマからのお願いや依頼は毎回何かしらの制限が付く。別に破っても構わないが、大人として仕事は完璧にこなしたい。
『対象魔法少女の無力化と被害拡大の阻止。後遺症が残らない程度の怪我は不問とする。今回は第二形態での戦闘を申請します』
(マジで?)
『だって今のメンタルで魔法使えば、殺しちゃう可能性があるでしょ? 第二形態なら手加減も出来るし、何よりコスチュームがアクマ好みだからです』
可能性は否定できないぜ……。
しゃあないが、あっちで戦うか。
1
「さっさとやられなさい! 私よりランキングが上だからって生意気なのよ!」
空中から相手をかち割る様に大剣が振られ、それを回避した少女が、槍で一突きするものの、バックステップで躱される。
「負け惜しみを言う暇があるならさっさとランキングを上げたらどう?」
大剣を持った魔法少女と槍を持った魔法少女。2人の争いにより、アスファルトは割られ、木々は圧し折られていた。
幸い、住宅街で戦う様なことはしてないのが唯一の救いだろう。
2人は同期なのだが、槍の魔法少女の方が戦い方にセンスがあり、大剣の魔法少女よりも早くランキングを駆け上がった。
所属の魔法局支部でも、槍の魔法少女の評価は高く、未来のエースとして期待されている程だ。
しかし、これには裏があった。槍の魔法少女は他の魔法少女と組んで戦う時に、魔物を掠め取っていたのだ。
特に雑魚は倒した魔法少女にしか討伐数が加算されず、2人1組で動いていたこの2人には、どうしても討伐数に差が出てしまった。
上位なら参加者全員に討伐数が加算されたが、運が良いのか悪いのか。2人共、上位には当たらなかった。
そして今日。徐々に溜まっていた大剣の魔法少女の鬱憤は、槍の魔法少女のランキング自慢により爆発した。
「そんな大振りの攻撃に当るわけ無いでしょう」
「ふん! だからってそっちの槍だって私に当たってないじゃない!」
お互いがお互いの攻撃を避けるので、ダメージは無いのだが、周りはそうではない。修繕や再塗装もタダでは無いのだ。
修繕や修理費用は魔法少女の給料から支払いがされるが、世間的にはあまり良い顔をされない。
もし壊されたのが道路なら直るまで通行止めとなり、公共施設が壊された場合、目も当てられない状態となる。
ここら辺の関係もあるので、アクマは口を酸っぱくしてハルナに破壊をしないようにお願いしてる。
2人の争いが最終局面に移ろうとしてると、2人の間に一本の黒剣が突き刺さる。その剣は2人の争いを邪魔する様に、その存在を主張する。
「誰だ! 邪魔するなら容赦しないわよ!」
大剣の魔法少女は威嚇する様に周りを見渡し、槍の魔法少女は周りを気にしながらも油断なく、大剣の魔法少女の隙を窺う。
コツン、コツンと足音が響いた。チカチカと壊れた街灯に一瞬だけ少女の様なシルエットが映り、2人に緊張が走る。
街灯は少しだけ長く暗くなり、再び光が灯った時には、その場に誰も居なかった。いや、確かに人は居ないが濃厚な魔力の気配を2人は感じた。
その気配は先程剣が突き刺さった場所からだ。2人は視線を剣が突き刺さっていた場所に戻すと、
そこには剣を引き抜く1人の少女が居た。
暗い夜でも美しく光る銀髪。黒いゴスロリとも和服ともとれる服。そして、濃厚な魔力と黒い剣。
それは、この少女が魔法少女である証拠だった。
「何を争っているのですか?」
新たに現れた魔法少女は2人に問う。
「こいつが私の獲物を横取りしたのよ!」
「それは貴女が遅いからって何回も言ったじゃない。勘違いで怒らないでくれないかしら?」
新たな魔法少女の介入により、多少冷静になっていた2人だが、ちょっとした火種で直ぐに爆発してしまう。
そんな2人を尻目に、少女は少し考えた後に、剣を構えた。姿は少女のはずなのに、そこには歴戦の戦士を彷彿《ほうふつ》とさせる、気迫があった。
「面倒なので2人纏めて倒します。次回の喧嘩は妖精界でお願いします」
気迫のせいか、コケにするような物言いのせいか。火の付いていた2人は、ほぼ同時に少女に斬り掛かった。
薙ぎ払われる大剣を受け流し、大剣の少女を蹴り上げる。その隙に突かれる槍を蹴り上げた時の反動を利用して、空中に回避する。
「なに!」
槍の魔法少女が驚きの声を上げ、空中で回避する少女と目が合う。追撃の為、槍を振り上げ様とするが。剣の腹で横っ面を叩かれて吹き飛ぶ。その一撃で、槍の少女は気を失ってしまった。
「くたばれぇ! 地衝斬!」
先程空に吹き飛んでいた大剣の魔法少女が大剣を構えて落ちてくる。
その一撃を食らえば人など真っ二つになるだろう一撃だ。それに対して彼女は、そっと手の平を大剣に向ける。
何の真似か分からないが、大剣の魔法少女は勝ちを確信してニヤリと笑った。
そして、大剣と手の平がぶつかる。普通に考えれば少女の身体は腕ごと真っ二つになっただろう。
だが、大剣は少女の手に衝突すると、そこで止まってしまった。
いくら力を入れても、大剣は少女の手から進む事はなく、まるで斬る事の出来ない壁を斬っている様だった。
「存外耐えるものですね」
何をもって放たれた言葉なのだろうか? その言葉の意味は言った本人にしか分からない。
大剣の魔法少女は仕切り直そうと距離を取るが、その時ほんの一瞬。そう。ほんの少しだけ少女から視線を逸らしただけなのに、少女を見失う。
大剣を構えたまま、周囲を窺う。同期の少女が一撃で倒されているのを空から見ていたので油断などはしない。油断などしていなかった……。
(何処だ! 何処に居る!)
周りに障害物となりそうなものは無いのに姿が見えない。その事に動揺しながらも、少しだけ槍の魔法少女の方を見たその時だった。
背中に何かを突き立てたような、チクリとした痛みが少女に走る。
(背後にあの少女が居る……)
「次回からは妖精界で争うように。次現実に迷惑を掛けたら……分かりますね?」
恐らく二度目は無いと言いたいのだろう。それが理解できた少女は頷く事しか出来なかった。
「分かって頂けて幸いです。それでは御機嫌よう」
本当にそう思っているのか分からない声音で別れを告げられ、少女は思う。後で槍の魔法少女を殴ろう。
頭に鈍い痛みを感じて、少女は気を失った。
2
(お仕事終了!)
『魔法少女相手だとこっちの方が良いね』
(個人的には服が気に入らないが、能力は良いからね)
白魔導師と違って一切魔法が使えないのがネックなのと、アクマが憑依していないと変身は出来ず。第二形態の能力の出力は、俺の負の感情によって変わる。
主な能力は身体能力の向上と透明な障壁の展開。
先程戦った2人のように、特化型に分類される。
アクマが憑依してなければ、第二形態になれない理由もあり、俺のリソースは上記2つ分にしか割り振ることが出来ず、武装が無い。アクマが憑依していることによって、初めて武装が使える。
杖も第二形態になると無くなるので、実質第二形態と言うよりは、魔法少女アクマと言ったところだろうか?
基本的に魔法少女が好きではない俺が魔法少女相手に闇落ち形態で戦えばそこそこの出力が出るが。正直そこまで何とも思っていない魔物には、安定して能力が使えない。
第二形態に初めてなった時に、アクマが望んでた対魔法少女用の力があって良かったね~って言ったら頭を叩かれた。
そもそも、第二形態とか普通はピンチになったり、行き詰まった時に覚醒してなるものだと思うのだが?
現実にお約束なんて物は無いのであった。
『唯一懸念されてた障壁もちゃんと機能して良かったね』
(あの大剣の攻撃を食らってびくともしなかったからな。魔物の攻撃には簡単に割られそうだけど)
『普通は魔物に憎悪。魔法少女に希望をだからね~』
どうしても実害を殆ど受けてこなかった魔物より、魔法少女に悪感情を持ってしまう。魔物の被害が今と比較できない昔だったらまた変わったかもしれない。
『今回が初の実戦運用だったけど、ハルナはどうだった?』
(思ったより魔力の消費が激しいね。理論上は俺とアクマ2人分の魔力があるはずなんだけどな。白魔導師形態と切り替えながら戦うとかはできなさそうだ)
『対魔物用フォームと対魔法少女用フォームと割り切るしかないね』
(それが無難だな)
期待していた近接系なのに、好き勝手使えないのが無念だ。
意識を切り替えて白魔導師状態に戻る。魔力はごっそりと減っており、およそ4割程度しか残ってない。
第二形態になる前からも減っていたが、やはり使い難い力だ。
(この後はどうするんだ?)
『今日はもう終わりにしよう。明日はお茶会だし』
そう言えば明日だったな。馬鹿達のせいで忘れてた。
折角少女らしさを学ぼうとしてたのに、何もせずに1日が終わってしまった。
(明日の注意事項とかなんかある?)
『今のお茶会がどうなってるか知らないんだよね。私も憑依して一緒に行くから、何かあったら助言はするよ』
最悪の場合アクマの転移で逃げれば良いか。
後は妖精界で美味い物食べたり、折角だからシミュレーションのランキングに挑んでみるのも良いだろう。
叶うなら4位の人のロボットを直で見てみたい。そう考えると、明日への憂鬱が少しはマシになる。
念の為、気絶させた2人に回復魔法を唱え、多少マシな地面に転がしておく。
寝ている姿は可愛いものなのに、魔法少女になればこの惨状を作り出す事が出来る。
(魔法少女とは恐ろしい化け物だな)
『指導する側の大人も今は腐ってきてるからね。そこら辺もハルナには頑張ってもらうから』
(乗り掛かった舟だからな。大人として、やることはやるさ)
見た目は少女。中身は大人ってやつだな。
今日は明日に備えて帰るとするか。
(そんじゃ帰りますか)
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
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クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
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