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魔法少女、出頭命令が出る
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ハルナがヘッドギアで訓練してる頃、魔法局は騒々しくなっていた。
先日起きた魔法少女の不祥事に関する仕事や、出動したのに既に魔物が倒されていたとクレームをいれてくる魔法少女達のせいで、殆どの職員が寝る間も惜しんで対応をしていた。
そんな中、件の魔法少女が遂に公式サイトに登録され、その魔法少女に対する対応を、どの様にするかを考える会議が密かに魔法局本部で行われようとしていた。
横取りと言っても、魔法局に勤める魔法少女からしたら横取りとなるだけで、本来なら早い者勝ちでも問題ない。如何に早く魔物を討伐し、被害を出さずにいられるかが大事なのだ。
しかし、近年はランキングや報酬の為に魔物の討伐が遅れたり、派手な戦闘による被害が多発している。ハルナが流れ玉を食らった事件も上記のランキングが関係している。
なので、魔物さえ討伐してくれれば良いよと、考えている妖精界側からしてみれば、ハルナの行動は賞賛されても貶められる謂れはない。
因みに、妖精界には妖精局なるものがあり、魔法局が魔法少女を管理する様に、此方は地球に向かった妖精の管理をしている。
この妖精局を通さずに、妖精が地球に行くのは禁止されている。なので、本来なら地球で魔法少女と契約している妖精の情報は全てここにあるはずなのだ。
だが、公開された魔法少女イニーフリューリングの契約妖精の記録がここには無いのだ。
別に妖精が居なければ、魔法少女に変身出来ない訳ではない。だが、野良の場合、公式サイトに登録するのには妖精の手が必要なのである。
最初から魔法局付きの公式の場合、登録は魔法局から連絡を貰った妖精局がやるのだが。今回イニーフリューリングの登録をした妖精は妖精局に登録されていないのだ。
この時にイニーフリューリングの登録が魔法局だったなら問題はなかったのだが、野良だったせいで問題が発生していた。
イニーフリューリングの戦闘動画が別の魔法少女により投稿され、その珍しい能力に注目を集めていた矢先の事である。
その為、魔法局とは別に妖精局でもイニーフリューリングについての会議が行われていた。
正確にはイニーフリューリングと契約している妖精についての会議だが。
「それで、かの魔法少女付きの妖精について何か情報を知ってる者は居るか?」
立場上一応妖精局のトップである男が他の会議の出席者に問う。
イニーフリューリングの登録から1時間も経っていないので、どうせそんなものはないと思いながら。
この男に取って今回の不祥事についてはそこまで危惧をしていない。3日程前に妖精界のトップから、魔法少女の不祥事についての介入要請が有ってからの、今回の流れには感じる所がある。
イニーフリューリング付きの妖精はトップに関わりのある者ではないかと考えるのは、自然の流れであった。
では何故この会議をやっているのかと言われれば魔法局からの抗議が来ることを予想して、格好だけは此方も困っていると知らしめる為である。
イニーフリューリングがやっている事は魔法局に取っては困ることだが、今の所妖精局に取っては困る事がない。
「例の動画には何も映っていなかったのだな?」
話を振られた、魔法少女の戦闘動画の撮影を担当している部署の男は、頷いて答える。
「念の為、動画の投稿主の妖精にも話を聞いて見ましたが。それらしい者は、映ってなかったそうです」
「そうか。方針としては向こうから接触がない限り、此方から手を出すのは不要だ。魔法局には此方で、適当に応えておく。何か質問はあるか?」
誰も応えないのを確認した男はテーブルに置かれているお菓子を摘み、良い塩梅の甘さに頬を綻ばす。
他の妖精も各自お菓子を摘まんだり、世間話に花を咲かせたりする。
先程の威厳たっぷりの会議と異なり、さながら幼稚園のおやつタイムの様な雰囲気である。
もしも、この現場を妖精と魔法少女のせいで忙しい日々を送っている魔法局の人間が見たら、恐らく、怒り狂うだろう。
魔法少女に迷惑を掛けられてるとはいえ、妖精界はわりと平和なのである。
1
腕を食われた事件から1週間程経ち、俺はアクマと共に魔物狩りをする日々を送っていた。基本的に雑魚ばかりだったが、今の俺の目の前には上位が居る。
暴れ狂う魔物と、満身創痍で俺の後ろに倒れる魔法少女。目の前の魔物は蜘蛛型であり、絶えず子供を生んで攻撃してくる。質より量で攻めてくるのだが、母体となる蜘蛛も甲羅が固いため攻撃を通し難い。
俺との相性は悪くはないのだが、この魔物のランクはB級である。単純に強いのもあるが、倒れている魔法少女を守らなければならない。
更に結界の仕様上、助けを呼ぶのは難しい。助けを呼ぶ相手なんて、そもそも居ないけど。
出来れば魔法少女を運んで、遠くに置いておきたいが、それは流石に許して貰えそうにない。魔法少女を助けることを考えなければ、高火力の魔法で辺り一面を炎の海にすれば、簡単に魔物は倒せるだろう。
アクマからはどちらでも構わないと言われたが、大人として子供を見殺しにするのは気が引ける。
そもそもの発端が、近場で上位の魔物と戦っている魔法少女が居るから、後学の為に見学でもしないかと持ちかけられたからだ。
通常魔物討伐用の結界は展開されたら、結界内の魔物か魔法少女が死なない限り解かれることはない。
しかし、アクマは結界を解くことなく、内部に侵入することが出来る。
本当ならアクマだけしか侵入が出来ないのだが、アクマが俺に憑依することにより、一緒に侵入することが出来た。
戦っていた魔法少女は刀と背中に弓を持ち、終始危なげなく戦っていたのだが、魔物が子供を生んで物量で攻め始めると徐々に押され始めた。子蜘蛛に翻弄され、体勢を崩した所に魔物の糸玉を喰らって、気を失ってしまった。
でっ、そこに俺が飛び込んだってわけです。
つまり、俺は今とても困っている。
『それで、飛び込んだハルナはこれからどうするの?』
(そんなワクワクが滲み出る声で言わんでくれ)
まあ、正直守るだけなら「土よ壁となれ」を唱えればどうにかなるだろう。
だが、戦闘中に倒れている魔法少女が起きた場合どの様な行動をするか分からないので。出来れば視界の外に置いておきたくない。
(とりあえず出来る限りはやってみるさ。最悪の場合こいつは見捨てる)
出来れば助けたいが、他人の命よりまずは自分の命が大事だ。やっこさんも律儀に待ってくれる訳じゃないし、そろそろやるか。
「炎よ。踊れ。それから風よ。巡れ」
炎の蝶を大量に召喚し、吐き出される糸を燃やす。ついでに子蜘蛛も処理していく。この魔法は一度唱えれば俺の魔力を勝手に消費して召喚され続けるので、使い勝手が良い。
ついでに風よ巡れで周囲に俺の魔力を充満させ、大技の準備を始める。
折角の結界内の初戦闘だ、派手にやろう。
「貴女はイニーフリューリング!」
チマチマと子蜘蛛の対処と親蜘蛛に牽制をしてたら、倒れていた魔法少女が起きてしまった。
(目が覚めてしまったか、どう対応すれば良いかね?)
無言で助けるならまだしも、子供にどう対応すれば良いのかが俺には分からない。中身は大人でも子供の扱いは知らないのである。
『面白そうだから私がやるよ。ちょっと口を借りるけど抵抗しないでね。とりあえず振り向いて』
(了解)
アクマに言われた通り、俺は倒れている魔法少女に振り返る。準備完了までおよそ50秒。
「目が覚めた?」
俺にしては抑揚の無い声が出る。
「どうしてここに居るのよ! 結界には私1人しか居なかった筈よ!」
魔法少女は声を張り上げながら何とか立とうとするが、足が震えて立ち上がることが出来ない。魔力の枯渇と疲労のせいだろう。
「魔法少女に不可能はない」
アクマの副音声が気になるがそれは置いといて、魔法少女の目が開かれる。何か思う所でもあったのだろうか?
「後は私が何とかする。貴女は休んでなさい」
俯いて悔しがる様子を尻目に、魔物の方に振り返る。残り5秒。
『準備はok?』
(勿論。願わくば結界を壊せる程の威力になるのを願うぜ)
「鉄よ。囲んで迫り出せ」
先ずは魔法の余波を喰らわないように防壁を立てる。今回使う魔法は特性上敵を視界に捉えておく必要がない。
そして、こっそりと心の中で唱えていた魔法を風よ巡れによって充満している魔力を使って発動させる。
「始まりを告げる音」
壁の向こうから雷が落ちた時の様な音と共に爆発が起きる。後ろに居る魔法少女が悲鳴を上げるが、無視をする。正直、俺も声を上げそうになった。
(結界はどう?)
『……いや、本当によくやるね。一部にヒビが入ってるみたい』
それは上々だね。一般魔法少女用のやつとは言え、半分程魔力を使った甲斐があった。
コンセプトが空間を歪める程の超広範囲殲滅魔法(但し自爆)だからな。杖から情報を貰った時は年甲斐もなくワクワクしたものだ。
欠点は色々とあるが、欠点よりロマンである。何なら親蜘蛛だけで良いなら5秒もあればどうにかなった。それにしても妖精の謎技術は凄いな。これまで魔法少女を支えて来ただけの事はある。
鉄よ。囲んで迫り出せを解除して周りを見渡すと、結界内にあった瓦礫は全て消し飛んでいた。アクマに核も一緒に消し飛んだと言われて、少し申し訳無い気持ちになる。
「これが貴女の能力……」
そう言えば魔法少女が居るんだった。
『結界が解かれる前に帰るとするよ。幸いヒビもあるから、簡単に逃げられる』
(了解。その前にちょいと声を掛けておこうかな)
今更ながら思い出したが、この子は北関東支部の魔法少女だ。俺の住んで居る群馬県の魔物を討伐しているのを動画で見た事がある。確か名前は魔法少女マリンだったかな。
『それは構わないけど、(見た目は)美少女なんだから乱暴な言葉使わないようにね』
「(了解)大丈夫ですか?」
まだ立つのは難しいらしいが、先程悲鳴を上げていたとは思えない、凛々しい顔をしている。メンタルが強いのは良い事だ。
「一応、助けてくれてありがとう。でも、どうやってここに入ったの?」
「(アクマの力で)無理やり」
「無理やりって、大丈夫なの?」
どちらかと言えばそっちの方が心配になる怪我なのだが、結界の仕様を考えるなら俺を心配したくなる気持ちも分からなくない。アクマ様々である。
「(アクマの力なので)問題ないです。怪我は治してきますね。痛いの飛んでけ」
少女が傷だらけなのは忍びないので、実験も兼ねて回復魔法を他人に使ってみる。どうやら他人も癒せるみたいだな。
「こんな事も出来るのね……治してくれてありがとう」
助けたとは言え横取りしたり、驚かせたりしたのにちゃんとお礼が言えるのは偉いね~。怪我も綺麗に治ったみたいだし、これで大丈夫だろう。
(問題も無さそうだし、アクマさんお願いします)
『ほいほいのホイ!』
アクマの気の抜ける様な返事と共に、俺は結界から自宅に転移した。
今日の戦果は雑魚10体にB級1体。B級の核は消滅したために戦果無しである。
始まりを告げる音は余程の事がない限り封印だな。ロマンも大事だがお金も大事である。
「ふぅ。それにしてもあの魔法は凄かったね。シミュレーターの訓練でも一度見たけど、結界にヒビを入れられるなんて思わなかったよ」
(シミュレーターの時は使うと同時に倒れ伏したもんね。今回はその点を改良して使ったから俺にはダメージは無かったよ)
核が回収できなくて懐にダメージを喰らう事にはなったけどね。
「それでも、あんな魔法使ってハルナにデメリットとかないの?」
こんな状態になってから、昔以上に魔法少女について調べたのだが、どうやら俺の能力は強い訳ではないのだが、使い勝手はかなり良い。
攻撃以外の魔法は弱体化する制約はあるが、攻撃系の魔法は結構使い放題である。ついでに魔法少女の時も、変身してない時も力が弱い。
力が欲しいぃ……。
(あれも魔力消費以外では問題ないな。元々自爆魔法だから、それがデメリットでもあったし)
「ふ~ん。まあ、大丈夫なら良いや。それと、B級を討伐した事でランキングが上がったよ」
何時の間にかスマホを弄くっていたアクマからスマホを受け取り、公式サイトを確認する。1週間前は新人で圏外だったが、18位まで上がっている。
総合計討伐数は前後の魔法少女をダブルスコアで引き離しており、それがイニーフリューリングの異様さを仄めかせている。
イニーフリューリングのページは相変わらずフードを被ったままの姿であるが、項目が少しだけ増えている。
まあ、書き込んでいるのはアクマなので我関せずであるが。
(あっという間に20位以内に入っちゃったな)
「本当なら半年位を目処にしてたんだけどね。予定が狂うのは面白いから良いけどさ」
連日全国各地処か、何回かは他国にも出張してたからね。そんだけ倒し続ければ順位も上がるか。
因みに日本ランキングが18位であるが、他国は他国で別のランキングがある。まあ、始まりの日以降かなりの国が滅びたけど。
(一応B級も問題なく倒せるのが分かったし、良かったとしよう)
今回は完全にオーバーキルだったし、次は気を付けよう。
「B級以上の場合、結界は私じゃ張ることが出来ないから、他の魔法少女が戦ってるのを横取りしないといけないんだよね」
(早い者勝ちならまだしも、ガチの横取りはあんまりしたくないな~)
「そう言うと思ったから、基本的に上位は魔法少女を助ける形で討伐するようにするよ。報酬は半分になるけどね」
金は大事だが、戦闘経験の為に諦めよう。魔法少女に恩も売れるだろうから、悪くない提案だ。
「ついでに、その内妖精界に呼ばれるだろうから覚悟しといてね」
(何故に?)
「色々と話題に上がってる中で結界の侵入と、結界にヒビを入れたからね。上位ランキング魔法少女の会議に呼ばれる事は、必然と言ってもいいね」
そう言えばそんなのもあったっけな。上位ランキングの魔法少女による会議。通称お茶会。
主に指定討伐種や魔物の出現傾向。魔法少女の情勢等を話し合う会議だ。
後は問題児を呼び出して注意を促したり、魔法少女の活性化の為に催し物を開催したりしている。
因みに全員異名を持っている。
まだ全員覚えられていないが、有名どころだと1位の『支配領域』や4位の『白騎士』等がいる。ちゃんと魔法少女としての名前もあるのだが、異名で呼ばれる事が多い。
「噂をすれば、公式サイト経由で出頭命令が出てるよ」
出頭って犯罪者じゃないんだからさ~。
先日起きた魔法少女の不祥事に関する仕事や、出動したのに既に魔物が倒されていたとクレームをいれてくる魔法少女達のせいで、殆どの職員が寝る間も惜しんで対応をしていた。
そんな中、件の魔法少女が遂に公式サイトに登録され、その魔法少女に対する対応を、どの様にするかを考える会議が密かに魔法局本部で行われようとしていた。
横取りと言っても、魔法局に勤める魔法少女からしたら横取りとなるだけで、本来なら早い者勝ちでも問題ない。如何に早く魔物を討伐し、被害を出さずにいられるかが大事なのだ。
しかし、近年はランキングや報酬の為に魔物の討伐が遅れたり、派手な戦闘による被害が多発している。ハルナが流れ玉を食らった事件も上記のランキングが関係している。
なので、魔物さえ討伐してくれれば良いよと、考えている妖精界側からしてみれば、ハルナの行動は賞賛されても貶められる謂れはない。
因みに、妖精界には妖精局なるものがあり、魔法局が魔法少女を管理する様に、此方は地球に向かった妖精の管理をしている。
この妖精局を通さずに、妖精が地球に行くのは禁止されている。なので、本来なら地球で魔法少女と契約している妖精の情報は全てここにあるはずなのだ。
だが、公開された魔法少女イニーフリューリングの契約妖精の記録がここには無いのだ。
別に妖精が居なければ、魔法少女に変身出来ない訳ではない。だが、野良の場合、公式サイトに登録するのには妖精の手が必要なのである。
最初から魔法局付きの公式の場合、登録は魔法局から連絡を貰った妖精局がやるのだが。今回イニーフリューリングの登録をした妖精は妖精局に登録されていないのだ。
この時にイニーフリューリングの登録が魔法局だったなら問題はなかったのだが、野良だったせいで問題が発生していた。
イニーフリューリングの戦闘動画が別の魔法少女により投稿され、その珍しい能力に注目を集めていた矢先の事である。
その為、魔法局とは別に妖精局でもイニーフリューリングについての会議が行われていた。
正確にはイニーフリューリングと契約している妖精についての会議だが。
「それで、かの魔法少女付きの妖精について何か情報を知ってる者は居るか?」
立場上一応妖精局のトップである男が他の会議の出席者に問う。
イニーフリューリングの登録から1時間も経っていないので、どうせそんなものはないと思いながら。
この男に取って今回の不祥事についてはそこまで危惧をしていない。3日程前に妖精界のトップから、魔法少女の不祥事についての介入要請が有ってからの、今回の流れには感じる所がある。
イニーフリューリング付きの妖精はトップに関わりのある者ではないかと考えるのは、自然の流れであった。
では何故この会議をやっているのかと言われれば魔法局からの抗議が来ることを予想して、格好だけは此方も困っていると知らしめる為である。
イニーフリューリングがやっている事は魔法局に取っては困ることだが、今の所妖精局に取っては困る事がない。
「例の動画には何も映っていなかったのだな?」
話を振られた、魔法少女の戦闘動画の撮影を担当している部署の男は、頷いて答える。
「念の為、動画の投稿主の妖精にも話を聞いて見ましたが。それらしい者は、映ってなかったそうです」
「そうか。方針としては向こうから接触がない限り、此方から手を出すのは不要だ。魔法局には此方で、適当に応えておく。何か質問はあるか?」
誰も応えないのを確認した男はテーブルに置かれているお菓子を摘み、良い塩梅の甘さに頬を綻ばす。
他の妖精も各自お菓子を摘まんだり、世間話に花を咲かせたりする。
先程の威厳たっぷりの会議と異なり、さながら幼稚園のおやつタイムの様な雰囲気である。
もしも、この現場を妖精と魔法少女のせいで忙しい日々を送っている魔法局の人間が見たら、恐らく、怒り狂うだろう。
魔法少女に迷惑を掛けられてるとはいえ、妖精界はわりと平和なのである。
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腕を食われた事件から1週間程経ち、俺はアクマと共に魔物狩りをする日々を送っていた。基本的に雑魚ばかりだったが、今の俺の目の前には上位が居る。
暴れ狂う魔物と、満身創痍で俺の後ろに倒れる魔法少女。目の前の魔物は蜘蛛型であり、絶えず子供を生んで攻撃してくる。質より量で攻めてくるのだが、母体となる蜘蛛も甲羅が固いため攻撃を通し難い。
俺との相性は悪くはないのだが、この魔物のランクはB級である。単純に強いのもあるが、倒れている魔法少女を守らなければならない。
更に結界の仕様上、助けを呼ぶのは難しい。助けを呼ぶ相手なんて、そもそも居ないけど。
出来れば魔法少女を運んで、遠くに置いておきたいが、それは流石に許して貰えそうにない。魔法少女を助けることを考えなければ、高火力の魔法で辺り一面を炎の海にすれば、簡単に魔物は倒せるだろう。
アクマからはどちらでも構わないと言われたが、大人として子供を見殺しにするのは気が引ける。
そもそもの発端が、近場で上位の魔物と戦っている魔法少女が居るから、後学の為に見学でもしないかと持ちかけられたからだ。
通常魔物討伐用の結界は展開されたら、結界内の魔物か魔法少女が死なない限り解かれることはない。
しかし、アクマは結界を解くことなく、内部に侵入することが出来る。
本当ならアクマだけしか侵入が出来ないのだが、アクマが俺に憑依することにより、一緒に侵入することが出来た。
戦っていた魔法少女は刀と背中に弓を持ち、終始危なげなく戦っていたのだが、魔物が子供を生んで物量で攻め始めると徐々に押され始めた。子蜘蛛に翻弄され、体勢を崩した所に魔物の糸玉を喰らって、気を失ってしまった。
でっ、そこに俺が飛び込んだってわけです。
つまり、俺は今とても困っている。
『それで、飛び込んだハルナはこれからどうするの?』
(そんなワクワクが滲み出る声で言わんでくれ)
まあ、正直守るだけなら「土よ壁となれ」を唱えればどうにかなるだろう。
だが、戦闘中に倒れている魔法少女が起きた場合どの様な行動をするか分からないので。出来れば視界の外に置いておきたくない。
(とりあえず出来る限りはやってみるさ。最悪の場合こいつは見捨てる)
出来れば助けたいが、他人の命よりまずは自分の命が大事だ。やっこさんも律儀に待ってくれる訳じゃないし、そろそろやるか。
「炎よ。踊れ。それから風よ。巡れ」
炎の蝶を大量に召喚し、吐き出される糸を燃やす。ついでに子蜘蛛も処理していく。この魔法は一度唱えれば俺の魔力を勝手に消費して召喚され続けるので、使い勝手が良い。
ついでに風よ巡れで周囲に俺の魔力を充満させ、大技の準備を始める。
折角の結界内の初戦闘だ、派手にやろう。
「貴女はイニーフリューリング!」
チマチマと子蜘蛛の対処と親蜘蛛に牽制をしてたら、倒れていた魔法少女が起きてしまった。
(目が覚めてしまったか、どう対応すれば良いかね?)
無言で助けるならまだしも、子供にどう対応すれば良いのかが俺には分からない。中身は大人でも子供の扱いは知らないのである。
『面白そうだから私がやるよ。ちょっと口を借りるけど抵抗しないでね。とりあえず振り向いて』
(了解)
アクマに言われた通り、俺は倒れている魔法少女に振り返る。準備完了までおよそ50秒。
「目が覚めた?」
俺にしては抑揚の無い声が出る。
「どうしてここに居るのよ! 結界には私1人しか居なかった筈よ!」
魔法少女は声を張り上げながら何とか立とうとするが、足が震えて立ち上がることが出来ない。魔力の枯渇と疲労のせいだろう。
「魔法少女に不可能はない」
アクマの副音声が気になるがそれは置いといて、魔法少女の目が開かれる。何か思う所でもあったのだろうか?
「後は私が何とかする。貴女は休んでなさい」
俯いて悔しがる様子を尻目に、魔物の方に振り返る。残り5秒。
『準備はok?』
(勿論。願わくば結界を壊せる程の威力になるのを願うぜ)
「鉄よ。囲んで迫り出せ」
先ずは魔法の余波を喰らわないように防壁を立てる。今回使う魔法は特性上敵を視界に捉えておく必要がない。
そして、こっそりと心の中で唱えていた魔法を風よ巡れによって充満している魔力を使って発動させる。
「始まりを告げる音」
壁の向こうから雷が落ちた時の様な音と共に爆発が起きる。後ろに居る魔法少女が悲鳴を上げるが、無視をする。正直、俺も声を上げそうになった。
(結界はどう?)
『……いや、本当によくやるね。一部にヒビが入ってるみたい』
それは上々だね。一般魔法少女用のやつとは言え、半分程魔力を使った甲斐があった。
コンセプトが空間を歪める程の超広範囲殲滅魔法(但し自爆)だからな。杖から情報を貰った時は年甲斐もなくワクワクしたものだ。
欠点は色々とあるが、欠点よりロマンである。何なら親蜘蛛だけで良いなら5秒もあればどうにかなった。それにしても妖精の謎技術は凄いな。これまで魔法少女を支えて来ただけの事はある。
鉄よ。囲んで迫り出せを解除して周りを見渡すと、結界内にあった瓦礫は全て消し飛んでいた。アクマに核も一緒に消し飛んだと言われて、少し申し訳無い気持ちになる。
「これが貴女の能力……」
そう言えば魔法少女が居るんだった。
『結界が解かれる前に帰るとするよ。幸いヒビもあるから、簡単に逃げられる』
(了解。その前にちょいと声を掛けておこうかな)
今更ながら思い出したが、この子は北関東支部の魔法少女だ。俺の住んで居る群馬県の魔物を討伐しているのを動画で見た事がある。確か名前は魔法少女マリンだったかな。
『それは構わないけど、(見た目は)美少女なんだから乱暴な言葉使わないようにね』
「(了解)大丈夫ですか?」
まだ立つのは難しいらしいが、先程悲鳴を上げていたとは思えない、凛々しい顔をしている。メンタルが強いのは良い事だ。
「一応、助けてくれてありがとう。でも、どうやってここに入ったの?」
「(アクマの力で)無理やり」
「無理やりって、大丈夫なの?」
どちらかと言えばそっちの方が心配になる怪我なのだが、結界の仕様を考えるなら俺を心配したくなる気持ちも分からなくない。アクマ様々である。
「(アクマの力なので)問題ないです。怪我は治してきますね。痛いの飛んでけ」
少女が傷だらけなのは忍びないので、実験も兼ねて回復魔法を他人に使ってみる。どうやら他人も癒せるみたいだな。
「こんな事も出来るのね……治してくれてありがとう」
助けたとは言え横取りしたり、驚かせたりしたのにちゃんとお礼が言えるのは偉いね~。怪我も綺麗に治ったみたいだし、これで大丈夫だろう。
(問題も無さそうだし、アクマさんお願いします)
『ほいほいのホイ!』
アクマの気の抜ける様な返事と共に、俺は結界から自宅に転移した。
今日の戦果は雑魚10体にB級1体。B級の核は消滅したために戦果無しである。
始まりを告げる音は余程の事がない限り封印だな。ロマンも大事だがお金も大事である。
「ふぅ。それにしてもあの魔法は凄かったね。シミュレーターの訓練でも一度見たけど、結界にヒビを入れられるなんて思わなかったよ」
(シミュレーターの時は使うと同時に倒れ伏したもんね。今回はその点を改良して使ったから俺にはダメージは無かったよ)
核が回収できなくて懐にダメージを喰らう事にはなったけどね。
「それでも、あんな魔法使ってハルナにデメリットとかないの?」
こんな状態になってから、昔以上に魔法少女について調べたのだが、どうやら俺の能力は強い訳ではないのだが、使い勝手はかなり良い。
攻撃以外の魔法は弱体化する制約はあるが、攻撃系の魔法は結構使い放題である。ついでに魔法少女の時も、変身してない時も力が弱い。
力が欲しいぃ……。
(あれも魔力消費以外では問題ないな。元々自爆魔法だから、それがデメリットでもあったし)
「ふ~ん。まあ、大丈夫なら良いや。それと、B級を討伐した事でランキングが上がったよ」
何時の間にかスマホを弄くっていたアクマからスマホを受け取り、公式サイトを確認する。1週間前は新人で圏外だったが、18位まで上がっている。
総合計討伐数は前後の魔法少女をダブルスコアで引き離しており、それがイニーフリューリングの異様さを仄めかせている。
イニーフリューリングのページは相変わらずフードを被ったままの姿であるが、項目が少しだけ増えている。
まあ、書き込んでいるのはアクマなので我関せずであるが。
(あっという間に20位以内に入っちゃったな)
「本当なら半年位を目処にしてたんだけどね。予定が狂うのは面白いから良いけどさ」
連日全国各地処か、何回かは他国にも出張してたからね。そんだけ倒し続ければ順位も上がるか。
因みに日本ランキングが18位であるが、他国は他国で別のランキングがある。まあ、始まりの日以降かなりの国が滅びたけど。
(一応B級も問題なく倒せるのが分かったし、良かったとしよう)
今回は完全にオーバーキルだったし、次は気を付けよう。
「B級以上の場合、結界は私じゃ張ることが出来ないから、他の魔法少女が戦ってるのを横取りしないといけないんだよね」
(早い者勝ちならまだしも、ガチの横取りはあんまりしたくないな~)
「そう言うと思ったから、基本的に上位は魔法少女を助ける形で討伐するようにするよ。報酬は半分になるけどね」
金は大事だが、戦闘経験の為に諦めよう。魔法少女に恩も売れるだろうから、悪くない提案だ。
「ついでに、その内妖精界に呼ばれるだろうから覚悟しといてね」
(何故に?)
「色々と話題に上がってる中で結界の侵入と、結界にヒビを入れたからね。上位ランキング魔法少女の会議に呼ばれる事は、必然と言ってもいいね」
そう言えばそんなのもあったっけな。上位ランキングの魔法少女による会議。通称お茶会。
主に指定討伐種や魔物の出現傾向。魔法少女の情勢等を話し合う会議だ。
後は問題児を呼び出して注意を促したり、魔法少女の活性化の為に催し物を開催したりしている。
因みに全員異名を持っている。
まだ全員覚えられていないが、有名どころだと1位の『支配領域』や4位の『白騎士』等がいる。ちゃんと魔法少女としての名前もあるのだが、異名で呼ばれる事が多い。
「噂をすれば、公式サイト経由で出頭命令が出てるよ」
出頭って犯罪者じゃないんだからさ~。
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