魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~

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爆炎に包まれ現れる新たな魔法少女

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「少し寒くなってきたかな?」

 彼はそう呟いて空を見上げた。
 その日は9月にしては少し肌寒く、少し温かいものが欲しくなる程だった。
 
 彼は仕事の打ち合わせの帰りに立ち寄ったコンビニで珈琲を買い、偶然目に付いた大きめの公園に愛車を走らせる。
 夜の9時ともなると公園には誰も居らず、少し奥に行った所のベンチに腰を下ろして空を見上げた。

 空は雲一つ無く、星がよく見える夜だった。珈琲を一口飲み、心地よい苦みを感じながら一時を楽しんで居ると近くで銃を撃った様な音と鉄同士がぶつかった高い音が響いて来た。
 魔法少女同士の戦いか、近くに魔物でも現れたのだろうか? しかし魔物が現れたのであれば避難警報や緊急メールが届くのが普通だった。
 
 これはまずいとベンチから逃げようとした時には既に遅く。迫りくる炎を視界に捉え、逃げられぬ死の気配を前に彼は思った。
(魔法少女何てろくでもないな……)
 
 爆発音と共に彼の意識は闇へと落ちていった。

 
1


「ちょっとどうするのよコレット! 今居た人は一般人よ!」
 先程まで殺し合いさながらの喧嘩をしていた魔法少女が声を荒げて、喧嘩相手の魔法少女に詰め寄る。

「そんなことを言っても避けたのはネイルじゃん。はぁ~、流石に今回のはやばいかな~」

 この2人の喧嘩はこれまでも幾度となく行われており、器物破損は当たり前だったが、遂に一般人を巻き込んでしまった。
 しかも2人は倒れている人を助けようとはせず、その場から逃げ出してしまった。

「とっ、兎に角白橿しらかしさんに連絡してどうにかしないと」

 ネイルと呼ばれた魔法少女は懐からスマホを慌てながら取り出し、白橿に掛けた。
『もしもし? また喧嘩で何か壊したりしたの? 流石にもうそろそろ謹慎じゃすみませんよ?』

 電話に出た白橿はそう言い放ち、ネイルの反応を待つ。しかし何時もより返事の遅いネイルに違和感を募らせる。どうかしたのかと開こうとしたところ、先にネイルが口を開いた。

 内容は喧嘩の途中でネイルを狙って撃たれたコレットの魔法を避けたところ、偶然居合わせた一般人に直撃し、恐らく殺してしまった。
 そして恐ろしくなって助けようとせずその場から逃げたことを素直に話した。

『いや、もう・・・本当に何て事をしてくれるのよ。兎に角一度戻って来なさい』

 あまりの事態に怒る気力すらなくなり、この件が大きくならない内に手を打つため、2人に帰還命令を出した。
 返事を聞くよりも早く通話を切った白橿は直ぐに上司に連絡を入れ、魔法少女が起こした不祥事を内々に処理するために動き出す。
「こんなことならもっと・・・いえ、兎に角今は2人のためにやるべき事をしないと」

 人が死んでしまったと言うにはあまりにも軽い対応。 
 唯の一般人よりも魔法少女の方が大事。ある意味当たり前と言えば当たり前だか、偶々起きたこの事件を境に世界は更なる変貌を始めることとなった。



2



「ここは、そうか」

 辺りに漂う焦げ臭さが鼻を刺したことで、嫌でも先程の事を思い出させる。
 名目上は世界を守るはずの魔法少女が仲間割れをして、それに巻き込まれるとは思わなかった。

 四肢を動かそうとするも全く動かず、眼を開けるのも億劫に感じる程身体が重い。思った程痛みを感じないが、恐らく血が流れ過ぎて痛覚が鈍っているのだろう。

 もう助からないだろうと思いながら、僅かばかり開いていた眼を閉じようとしていると、楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。

 昔聴いた事があるアニメのオープニングテーマOPの様な気がする。その鼻歌が徐々に近付いてくる。 

「おや~? こんなところで寝ていると風邪を引いてしまいますよ? まあ、一部始終見ていたので貴方がどういう状態なのかは分かっているけどね」

 殆ど開かない眼を何とかして開け、声がする方を見ると、今となってはそこまで珍しくもない妖精が羽ばたいていた。
 何故此処に居るのかと問いただしたいが、既に声を出す程の気力もない。

「ああ、別に声に出さなくとも貴方の言いたい事は分かるので大丈夫ですよ。あまり時間も無いようなので単刀直入に言いますが、生きたいですか? 死にたいですか? そして、魔法少女が憎くないですか?」

 こいつは何を言ってるのだろうかと、回らない頭で考える。幸か不幸か、幸い親族は居らず此処で死んだところで周りに迷惑をかけることもないし、丁度大きな案件を終えたことで他人にかける迷惑もない。

 もし生きたい理由があるとすればもう少し欲望に忠実に生きたかった事くらいだろう。俺をこんな状態にした魔法少女には憎く思わないこともないが、今の世の中ならこんな事件は多々あることだろう。恐らく魔物に運悪く殺されたとでも報道されてこの事件は終わりだ。

「うん、良いね良いね。その微妙に腐りながらも自分を見失わない心は実に私好みだよ。折角ならもう少し生きてみないかい? 勿論対価は頂くけどきっと後悔はしないよ」

 そうか。まあ、確かに死ぬのは怖いし、こんな無意味な死などごめんだ。
 生きられるというなら、生きて見ようかな。

「それなら契約といこうか。契約は君を救う事。対価は私の好奇心を満たす事。期限は君が死ぬまでだ。勿論クーリングオフ何てもっての他だよ」

 矢継ぎ早に言われることをぼんやりとながらもしっかりと聞き取り、頷く代わりに瞬きをした。

「それでは契約だ。汝・・・ああ、榛名史郎ね。榛名史郎は我との契約の元我の好奇心を満たすまで死ぬことを。さあ、目覚めよ新たなるよ」

 不穏な言葉に早まった事をしてしまったと思うが、動くことすら叶わない状態では何も出来ず、俺は光に包まれた。
 先程とは違う身体を圧縮される様な痛みに呻き声を上げ、まるで身体を作り替えられる感覚に陥った。
 少しすると痛みはなくなり、身体を起こして眼を開けることが出来た。
 
「気分はどうだい?」

 妖精は俺の前でニヤニヤとしながら羽ばたいていた。

 手をグーパーグーパーして感覚を確かめる。
 
「悪くはない。助けてもらってありがとう」

「気にしないで、これは契約だからね。新しい身体はどうだい? 前のと違ってだよ!」

 そう言われて身体を見渡すとぼろぼろの服はそのままだが、血だらけ泥だらけの身体は綺麗なものとなり、先程までの状態と比べると身体の調子はとても良い。

 立ち上がって身体を動かすとまるで十代の頃のような軽さがある。

「問題なさそうだね。それじゃ変身って言ってみて」

「うん? 変身?」

 そう呟くと、瞬く間に黒だった髪は長い青髪となり、ぼろぼろだった服はどこぞの白魔導師の様な白いローブに変わり果てた。目線も下がり胸と股に違和感を感じるせいで、何が起きたのかを自覚させられる。

「どうやら成功みたいだね、はいこれ鏡」

 妖精は何処からともなく全身が映るような鏡を取り出してきた。

 (これは、もしかしなくても魔法少女と言うやつかな?)

「正解だよワトソン君! 変身にも成功したことだし改めて自己紹介と契約の確認といこう!」

 悪戯が成功した子供みたいに飛び回る様はまさに妖精と言ったところだ。色々と言いたい事はあるが一応大人としてここはこらえ所だろう。

「改めて私は妖精界からやって来た者で、アクマと呼んでくれ」

 (見た目は誰もが想像する妖精なのに、名前がアクマとは如何なものだろうか?)

「そんな事は気にしないで良いよ。さて契約の内容は僕の好奇心を満たす事。つまり魔法少女として僕が満足するまで戦って欲しい。まあ、中身は少女じゃなくて男だけどね」

 更にケラケラと笑う様を見てると少しだけイラっとしてくる。
 
「これって元に戻れるんですか?」
 
 急に高くなった声に驚くが、ここで下手なアクションを起こせば、またアクマが笑うだろうと思い、グッと我慢する。
 
 まあ、恐らく俺の思考を読んでいるみたいなので、気にするだけ無駄だろう。
 
「うーん。戻そうとすれば戻せるけど、私的に男よりも女の子の方が良いからね~。因みに変身を解いても女の子のままだから!」

 (グッとサムズアップをされるが、止めてくれ心に響く)

 良い大人がいきなり少女で生活しなければならないとか、罰ゲーム以外の何ものでもない。
  
「まあ、気にしない気にしない。どうせ私が居なければ死んでいたんだし。昔流行りだった転生ものみたいな感じで楽しみなよ」

 楽しみなよって言われても現代日本には戸籍や本人証明と色々と絡んでくるから、このままではホームレスか孤児になるしか道がない。
 
 若かった頃ならまだしも、アラサーまでもう少しと言った所の男に、今更少女として暮らせと言われても困る。
 
「当分は元々住んでた所で暮らせば良いんじゃない? お金については魔物を倒したりすれば報酬が出るから大丈夫だよ」

「報酬?」

「そそ、流石に紐付きみたいにサービスや配慮は出来ないけど魔物の核は私の方でお金に変えられるしね」

 紐付き、つまりは公認って事だけど個人的にはなりたくないし、中身が中身(男)だから出来れば誰とも一緒に行動したくはない。

「さっきの魔法少女が戻って来ないとも限らないし、そこそこ離れた所に魔物の出現反応もあるから1戦いってみよー!」

「マジで?」

「何時戦うか? 今でしょ!」

 アクマはくるくると回りながらビシッと俺を指差し、何処かで聞いたことがあるような台詞を吐く。

 何となくこの身体が何を出来るかは分かるが、生まれてこの方暴力沙汰とは無関係の人生だった俺に魔物を倒せるのだろうか?

「あっ、それと魔法少女名を考えといてね。それじゃ行くぞー!」

 その言葉と共に一瞬の暗転の後。先程の焦げ臭い公園ではなく、何処かで見たことがあるような山が眼前に広がっていた。

 妙義山やん。これ。

「何ボサッとしてるのさ。反応はここら辺だけど何処から現れるかは分からないんだから、注意してないと一瞬で御陀仏だよ」

「そうは言っても戦い方なんて分からないですよ?」

 慣れない身体を軽く動かして、調子を確認する。
 身体の中に今まで感じたことのないような感覚があるが、恐らくこれが魔力とかエネルギーとか呼ばれているものなのだろう。
  
「何とかなるさ。何とかならなかったら死ぬだけだけどね」

 何とかか。少しだけ黒い感情が胸を刺すが、それを振り払う様に首を振る。
 そうすると長い髪が一緒に揺れ、身体が変わったことを再確認させられた。

「運良く魔物が前からやって来てくれたよ。それと、一応フードは被っといてね」

「了解」

 なけなしの覚悟を決めると、これまたどこかで見たような先端が丸まっている木で出来た長い杖が手元に現れる。
 丁度魔物が茂みから出てくるので杖を構える。

(でっ、如何すればいいの? アクマさん)

「史郎が何を出来るかなんて、私に分かるはずがないじゃないか。後は史郎がやれる事をやるしかないさ。ついでに考えと口調を統一してよ。何か紛らわしい」

 紛らわしいと言われてもそれは難しいし、何なら考えに反応しなければ良いと考えてしまう。
 まあ、言われたからには直すのが社会人と言いたいが、今はただの魔法少女なので無視をする。 

「そうですか。まあ、何とかなるでしょう」

 すっと杖を構え、迫り来る魔物と対峙する。あまり詳しくはないが、魔物の見た目的にE級と呼ばれてるクラスだろう。
 魔法局のHPホームページで見た事がある。
 
 下手な事を考えても仕方ないので頭に浮かんで来る言葉をそのまま紡ぐ。
 
氷よ貫けアイスニードル

 たった一言呟いただけで魔物は反応する間もなく、数本の氷によって串刺しとなり、核だけを残して消え去ってしまった。
 
 まるでゲームの様に感じるが、氷のせいで更に下がった気温が現実だと突き付けてくる。
 
 残された核はアクマがサッと回収して何処かに送ってしまった。

「見たまんまなんだねー。今時魔法主体の魔法少女なんて稀だよ」

「そうは言われてもこうなったんだから仕方ないじゃないですか」

 言っては何だが、出来れば銃や剣を使いたかった。魔法に憧れがない訳ではないが男心としては前者の方が良かった。
 初戦としてなら魔法の方が躊躇いや罪悪感が無くて良かったかもだが。
 
「さっきのは氷だったけど他は何が出来るの?」

「魔法と言われるものは大体扱えるみたいです」

 自然系とか言われてそうな魔法と、見た目通り回復魔法が使えますと杖から伝わってくる。 
 まんま某ゲームに出て来そうな服ですからね。何故か黒魔法も使えますが。

 つか、この杖に意思ってあるのか。念じれば出し入れも出来るみたいだが、理屈は全く分からない。

「万能系が引けるなんて運が良かったね。中にはナイフ一本しか召喚できない魔法少女とか居たりするし」

 世の中には色んな魔法少女が溢れている。
 アクマが言った様な酷い例もあるが、俺が知っているだけでも無限(魔力が続く限り)に撃てる銃や5メートル程のロボットに乗って戦う魔法少女? と問いただしたくなるような例もある。
 
 魔法少女の能力は本人の想いが関係してるとかサイトに書かれていたのを見たことがあるが、なら俺はどうしてこうなってしまったのだろうかと聞きたい。

 まあ、そこら辺は一旦忘れてしまおう。

「それで、これからどうするんですか?」

「勿論帰るんだよ。帰るまでは変身を解除しちゃ駄目だよ。近くまでは私が跳ばすから。因みに名前は決まった?」
 
 魔物が出たって事はその内公認の魔法少女が駆けつけてくるだろうから、見つかる前に逃げるって事か。
 絡まれるのも嫌だし、さっさと帰ろう。
 
「そうですね。新しい身体と俺の名前を組み合わせて、魔法少女イニーフリューリングとでも名乗ります」

 少し強く吹いた風でフードを片手で押さえながらアクマに向かって呟いた。
 名前の意味は少し恥ずかしいので言わないでおく。

「ふーん、そっか。ついでに、その見た目で史郎ってのも可笑しいから、偽名かなんかある?」

「ハルナで」

 因みに、この時に使った魔法の氷はまだ残っており。一波乱あった事を、後日アクマから教えて貰った。
 
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