裏路地の魔王様

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前日譚

その1

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「はぁ……
てこづったぁ…
さすがに近衛騎士団、鬼強だぁ」


僕の目の前には数多もの死体の山
そして充満する血の匂い


玉座にでも座ってみようと思ったがそんな器なんてないのでやめておく


そう、僕は今復讐を果たしたのだ
それに意味があったかは別として……


僕は5年前戦争によって切羽詰まったこの国によって召喚された


として


臆病な王は最後まで最強の近衛騎士団を前線に出すことなく王都直前まで攻め込まれた
王都に流れ込んだ三十万もの難民によって王都はたちまち地獄絵図となった
元々十万ほどの都市に敵国の策によって一気にその何倍もの人がなだれ込んだのだ
今は愚王が治めているとはいえこの国は騎士の国
難民を追い返すという真似が出来なかった


王は何倍にも膨れ上がった民達をどうにかやり繰りする方法を考えたかそんなもの思いつくはずもなかった


そして宝物庫に眠る魔王召喚の陣を見つけてしまった


それは人の命を犠牲に異世界から凄まじい力を持った魔王を召喚するというものだった


王は食料や寝床を提供すると王城を空け、民を引き込んだ
そして自分たちは密かにそこを抜け出しその陣を起動させた


いかに物々しい近衛騎士団二千が王城を抜けたとあらば気付くという声もあるかもしれないがこんな混乱状況、そんなことに目を向けるものはいなかった


そして王城とその周辺の24万6329人の命が犠牲となり一人の魔王が召喚された
それは見るからに恐ろしいなにか……
ではなくただの人間の子供だった


王は激怒した


王はその子供を、正確には魔王の素質を持った子供の目を自らの剣で貫き、首を刺し、国外に捨てたのであった


その後この国がどうなったのかと言うと結果的に言えば国が滅びることは無かった


先程も言った通りこの騎士の国の近衛騎士団ははっきり言って最強に近い
何代の前の王から財をはたいて様々な一騎当千の英雄の血を取り込み、そして混ぜていった結果、数代前より最強の騎士団が完成した
各々が一騎当千の猛者
武の天才達の血の集大成といったところだ


魔王召喚の陣によって結果的に人が減ったことにより暴徒化は抑えられ、先程の消失を敵国の民を狙った卑劣な攻撃と発表し民を団結させ、近衛騎士団が全てを滅ぼした


たった二千の騎士団が総勢二十万の軍勢を鏖殺して回ったのだ


そして未知の魔法により無辜の民数十万を消失させたと嘘の罪をでっち上げ、敵国の魔法師団を全員打首
卑劣な作戦を立案したとして軍部上官一部を除き全員を晒し首
こうして騎士の国は絶体絶命の状態から一気に国盗りに成功した
というより統治範囲を大きく広げ、地方の管理はそのままにし、実験を握った


そして魔王として召喚された僕がどうなったかって言うと
文字通り血反吐を吐くような生活を送ってきた
まず僕が召喚されたのが八歳くらい
精神年齢じゃなくて身体年齢がって意味


元々はただの高校二年生だった
某ウイルスのせいでスマホからの入力だけで学校を休めるおかげでサボり癖が着いてしまっていた
元々校則も緩かったし勉強さえできてればそんなにとやかく言われることは無かった


いつものように休むためのフォームを送信して放課後まで時間を潰そうと駅を歩いていた
スマホ歩きしてたせいでちょっとよろけた
ただそれだけ
タイミングが悪かっただけ
ちょうど横を快速電車が通り抜けた


頭を強く打って即死だったっぽい


で、気付いたら子供の姿になって変な広い部屋の真ん中にいた


荘厳な感じの人達がぞろぞろ来て僕の姿を見るなり


「騙された!」
「こんなはずでは!」
なんて叫ぶもんだからほんとにビックリ


そしたら豪華な服を着て、王冠を被ってる人が剣を抜いてこっちにやってきた
驚きすぎて腰が抜けて動けなくて


「グサリ」



そのまま右目を貫かれた


痛み…というより熱さで意識が飛ぶ
その後首も刺されたみたいだけど覚えてない


気付いたら良く分からないところに血まみれで横たわってた
やっぱり人間痛みの度合いを越えるととにかく熱くなるみたい
首と目の傷がとにかく熱くて熱くて転げ回った
まるで自分がマグマになったみたい


でも僕はやっぱり魔王の素質があるみたいで、結構時間はかかったけどその傷は綺麗に塞がったし、よく見えるしちゃんと喋れるし身体も動く


その後はちゃんとは覚えてないけど騎士の国に戻るしか無かった
歩きながら召喚前に神様みたいななにかに言われたことが段々と思い出されてきた


「お?起きた?士皇くん?
君は魔王として異世界転生することになったよ
色々と不手際はあったものの……
ま、いっか
時間が無いから手短に言うけど君が魔王としての素質を使えるのはおよそ二年後
だからそれまでは頑張って生きてね
恨むなら召喚側の生贄の質の低さを恨みなよ?
それに………
うんうん!君の行く世界はとっても面白そうだ!
私は君が足掻く様子を存分に楽しませて貰うとするよ」


「マジすか」


つまり僕はこれから戦争孤児として生きてかなきゃいけない


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