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恋の後始末

パニックと深呼吸

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『澪、今日は何時に帰ってくるのですか。
僕は先ほど仕事を早く切り上げて、帰宅したのですが。ええ、もう既にご飯とお風呂とお布団の準備はできていますよ』


「~どうしよう千鶴~」


『ええ、迷うでしょうね。ご飯かお風呂か、それとも僕かだなんて。電話で聞くのも野暮ってもんですよね……フッ。
ですが安心してください、普段は完璧な判断しか下さない僕だってエプロンをとるかバスローブをとるかでハムレットのように迷っているのですから』


「凪がどっか行っちゃった~」


『凪さんが?澪、今どこにいますか?
あ、食堂2階の喫茶店で加奈子さんとご一緒ですね』


まだ何も説明していないのに、千鶴は勝手に逆探知してきて私の場所を言い当てた。


「そう、今、加奈子と一緒にいて、凪がいなくなったってさっき気付いて、もうダメかもしれない」


『落ち着きなさい。息を吸って~』


鼓膜に心地良く響く千鶴の低い声だけを頼りに、私は言われるがまま息を深く吸った。


『吐いて~。吸って~。吐いて~。』


あれだけ焦っていたというのに、数秒の深い深呼吸によって、私は驚くほどの落ち着きを取り戻した。


「良かった、落ち着いた?澪ちゃん」


加奈子が私の乱れかけた呼吸を整わせるよう、背中をさすってくれていた。
そのお陰もあり、熱くなった胸もすっかり正常になった。


「ありがと、加奈子、千鶴。思い当たる場所を一か所ずつ当たってみようと思う」


『それは名案ですね。さすが僕の澪、冴えてると言いたいところですが——』


「み、澪ちゃん、うしろ」


「僕にはもう凪さんの現在地が分かっています」


加奈子と私の目玉は多分、1センチくらい飛び出したと思う。

携帯を耳に当てた千鶴が、喫茶店の入り口でサラサラの前髪を掻き上げてモデル立ちをしていたのだ。

何とか目玉を所定の位置に戻し、私は千鶴に希望を込めた質問を投げかけた。


 









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