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恋の後始末

恋煩い

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「でも、単位は各教科の先生方に説明して何とかなりそうなんでしょう?本当に、一時は入院で単位はどうなるかと思ったけれど、普段の行いが良いからこういう時助かるんだよね、きっと」


「またまたー、加奈子はお上手なんだから。
私なんてただ、いかに自分が不可抗力で講議に出られなかったかを力説しただけなんだってば。
普段の行いはどっちかって言うと悪いんじゃない?」


はははと渇いた笑いを漏らす。
その笑いと同じくらいパサパサに乾いて硬くなったカルボナーラの麺を口に運んだ。

麺を咀嚼するその瞬間も、千鶴の伏せられた瞼がフラッシュバックのように脳裏に浮かぶし、熱い息遣いが首の辺りで感じる。

カルボナーラの要である生クリームとチーズの風味なんて分からなくなるほど、鼻腔が千鶴の首筋の匂いで満たされていく。


「悪いことなんて澪ちゃんはしないよぉ。
例えばどんな悪いことをするって言うの?」


クスクスと笑いながら加奈子は上品にウィンナーコーヒーをすする。

何ひとつ屈折せずに育ってきた人はすぐに分かる。
例えば無邪気に笑いながら、親友を褒め称えてウィンナーコーヒーを飲む人がそう。


「例えば、そうねぇ~」


私はカルボナーラの乾いた麺が千鶴にしか見えない現実を振り払うように、これまでしてきた己の悪行を義務的に振り返ってみた。

しかし、これといった悪行をしてきたわけでもなく、平々凡々と生きてきた自分に若干のつまらなさを覚えるばかりだった。

それでも自分で自分が善人とは素直に認め難いのである。何かしらの悪行をしてきたことは確かだと漠然と思った。

例えば、千鶴を殴る蹴る。突き飛ばす。罵る。

そんなことはもはや日常茶飯事である。

それにあいつはそれを喜んでいる節があるし、悪行と言えないのでは?
という、自分勝手なことを考えていると、ひとつだけ、胸につかえたような何かが引っかかった。


 
 









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