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恋の後始末

女同士の絆なんて

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「窓、開けてもイイ?」


「んー」


窓を開けるだけなのに、いちいち了承を得る必要もないのだが、久しぶりに帰ってきたという事で何となく他人行儀になってしまう。

車輪がタオルと触れて転がる音を背に、私はリビングの窓を開け放った。

雪解けとはいえ、まだ春とは言えないようだ。ひんやりとしたマイナスイオンの空気が頬の上に張り付いていく。

換気をした事で、室内にこもっていた煙草のヤニの臭いが鼻をかすめた。

ジリジリとした衝動が喉の奥からこみ上げてくる。

古い家に立ち込める埃やカビのような、そんな臭いのヤニの残り香にでさえ、ニコチン中毒には堪える。

頭の中は煙草で一杯で、毎分ごとに煙草の事を考え、少しでもヤニの臭いを嗅ぐと、すぐに煙草の事を連想させてしまう。

私は入院してから強制的に禁煙せざるを得なくなり、退院に至る今日までの1ヶ月間、煙草を口にしていない。



「凪ってさ、総大くんにもそうなの?」


「……は?」



聖母マリアから放たれた、機嫌の悪い声が背後から聞こえてきて、初めて私は自分の口から滑り出た言葉の意味を把握できた。


今、確かに煙草の事を考えていたはずなのに。

そこに深い意味などなかった。会話の繋ぎとして自然なチョイスだと認識しての質問だったのだが、もっとよく頭の中で咀嚼してから発言すべきだったのかもしれない。


顔面に浴びていた冷たい空気が暖かく感じられるほど、部屋の中の気温は低下していった。

禁煙して得られるものは健康と、それと予期せぬストレスだ。こんなはずではなかった。



「そうなの、って何が?今そんな話してたっけ」


「いや違うの。そうやって総大くんにも色々としてあげたのかなって、そういう意味」


「それは別に関係ないじゃん、お姉にはさ。
いちいち報告する必要ってある?」


おそるおそる振り返り、ナイスフォローと言わんばかりに自らの発言を弁明してみたのだが、どうして妹の眉間に皺が寄っているのかは分からない。分からないが、タオルに転がされる車輪の音のペースがちっとも変わらない事が、更に室内温度を下げている事は確かだ。



「ないよ?ないけど、ただ、ふと思ったから聞いてみただけだし」


「じゃあそんなこと聞かないで」



1ヶ月かけて暖められた絆だけど、女同士の絆なんてものは一瞬にして崩れ去る。









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