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恋の片道切符

大好きどころか

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「……ん」



しばし硬直した後、千鶴の唇が離れる。

そして耳元に落ちてきた囁き声は、私の腰を粉砕した。



「僕は大好きどころか、愛していますが」



何回も聞かされたはずの言葉に赤面した。

もう声が出せないほど苦しいはずなのに、私は思わず叫んだ。


「……私、待ってたんだからね!
ずっと待ってた!
寂しかったの、バカ!」


「はい……すみません」


背骨が砕けるほど抱き締められながら、それでも叫び続けた。


「もうヤダ!いなくならないで!
ずっといて!一緒にいて!
下着盗むなぁー!
カナブンって何よバカー!
私だって愛してるってばー!!」


「澪……あまりそんな大声で言われると、恥ずかしいのですが……」


「うるさい!言いたいモンは言いたいのー!!
~~っ、ゲホッ、うっ……」


「ああ、無茶するから」


「う~、痛い~……」



ああ、思い残すことはもう無い。言いたいこと全部言えたもの。

肺が痛んで今夜は眠れなさそうだけど、幸せでいっぱいだ。

もう立つ力さえ残らない私の体を、千鶴は背負ってくれた。


「やれやれ、もう約束の15分が過ぎてしまいました」


「千鶴」


「何ですか」


思い残したことは何も無いと思っていたが、ひとつだけ言い忘れていたことがあった。

屋内へと続くドアに差し掛かった時、私は千鶴の背中の上で呟く。


「あの日……屋上で、アンタを、引き止めることができて……本当に、良かった。
じゃなかったら今、アンタここにいないもの」


ドアノブを掴んだまま千鶴の手が固まった。

数秒間だけ謎の沈黙が過ぎた後、千鶴は再び動き出し、静かに階段を降りて行った。

 
 
 
 

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