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恋の片道切符
海面から差し伸べられる手
しおりを挟むヒュー、ヒュー、ザザ、ザザザ。
胸から変な音がする。
どうしたらいい?
何だかとっても怖いんだ。
絶対に治る病気だし、明日にはまた会えるだろうし、何ひとつ心配することは無いのにね。
ザーザー。
ザー。
ヒュー。
ザザザ。
ゴボゴボ。
ヒュー。
ザザッ、ザーーーー。
みるみる内に手足は力を失い、地が見えないほど冷たい海の中へ私の体は沈んでいった。
ここはとても暗くて冷たい。
ああ、酸素が欲しい。
ちゃんと鼻に管入ってんのかしら?
じゃないと私……
ザー。
ザザッ。
ゴボッ。
ゴポゴポ。
息が出来ない。
酸素が欲しい。
千鶴、千鶴が欲しい。
苦しい……助けて……千鶴。
目を閉じかけた時、海面から光が差してきた。
誰かの手がじゃぽんと海を割って伸びてきた。
私は手を差し伸ばす。
誰かは私の手を掴んだ。
「呼びましたか?」
ハッと我に返ると、目の前に千鶴がいた。
私の手を掴んで、そこにいる。
薄っすらと寒気がしたかと思えば、千鶴の背後のカーテンが風になびいていた。
……窓が開いている。
ここは5階のはずなのにね。
夢が覚めない内に、月明かりに照らされ青白い顔をした千鶴に懇願した。
「……るっ……ち、づる……ここに、いたくないっ」
私は酸素吸入器を鼻から剥がすと、ほぼ喘ぐようにして喋った。
「しかし澪、寝ていなくては」
「こ、こに、いたくない……!
お願い……私を、どっか、に、れ出し……てっ」
「……分かりました。
これから貴女を連れ去ろうと思いますが、準備は出来ていますか?」
力強く頷いて返事をすると、千鶴は私の腕から点滴の管を抜き取り、素足に靴下を履かせ、肩に上着を掛けてくれた。
しっかりと防寒を施された後、私は千鶴に体を支えられながら廊下へと足を運んだ。
どこへ行くのかは見当も付かなかったけど、この体であまり遠くへ行けないことは分かっていた。
だけど、今はもう千鶴がいるのならどこへだって行ける気がする。
そう思いながら千鶴の横顔を見上げると、千鶴は私の視線に気付き、『しーっ』と中指を自分の口の前に立て微笑んできた。
コツ、コツ、と看護師の靴音が数メートル先の曲がり角に消えた時、私達は老朽化した鉄製の階段を上がって行った。
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